8 雪積もる屋上
昼休みになり、購買でなんとか手に入れたチョコチップメロンパンとカツサンドを手に、屋上に向かう。
階段を上りきり扉を開ける。
屋上には小詠しかいなかった。さすがに冬、しかも雪が降り積もる今日、外で食べる兵はこの学校にはいないようだ。
屋上に空いた穴は冬休み中に完全に塞がれたようだった。
「来た来た。さ、食べよう」
小詠は制服の上にコートを羽織っていた。対する僕は、セーターすら着ていなかった。
寒い。
「茂樹、寒そう。上着羽織ってくればよかったのに」
「まあ、そうなんだけど。行き先考えてたら、屋上が寒いっていう事、忘れてた」
僕は小詠の隣に座った。
「それで、決まった? どこ行くか」
小詠に尋ねられ、さっきまで考えていた事を思い返す。
「国内」
「うん、それがいいよ」
お弁当の玉子焼きを食べながら小詠は微笑んだ。
僕も昼食を食べようと、カツサンドに手を伸ばした。
「南の方、かな」
小詠の突然言った事がすぐには意味が理解できなくて、伸ばした手を一瞬止めた。
だが、行きたい場所を言ったのだと気付き、手に取ったカツサンドの包みを開けながら質問する。
「なんで?」
「だって、茂樹、寒くても薄着でしょ。風邪を引かれても大変だから」
「そんな事はないけど、まあ今年は寒いから南の方がいいかもな」
「うん」
カツサンドを一口頬張る。
このカツサンドは食パンにカツとソースと僅かなキャベツが挟まっただけの薄い物だ。それを食べ易いと思うか食べ応えが無いと思うかは、人それぞれだろう。
「南の方なら、O県がいいか」
「うん」
「二人だけで」
「ん〜」
小詠を見ると、箸をくわえて空を見ていた。
「お金が問題よね。そうなると桃たちも誘う方がいいかも」
「四人で?」
「せっかくだから、もっと誘う? 修学旅行がK市だし、その代わりみたいになるかも」
K市とは、K県の県庁所在地で、修学旅行の行き先としては有名である。
僕や小詠も中学生の時に行っていた。
そしてここ☆☆高校では一年の六月に修学旅行の行き先を選ぶのだが、その結果なぜかK市になったのだ。
「小詠がそう言うなら」
梅干しを頬張った小詠が僕にぐっと迫ってきた。
「そういうの、だめだよ」
そう言って元のように座り、空を見ながら続ける。
「そうやって自分の気持ちを無視して、私の機嫌をとらないでね」
「あ、うん、気を付ける」
「それでよし。まあ細かい事は田奈浜さんとかと相談するとして。茂樹も友達、連れてきてよね」
「ああ、分かった」
最後のカツサンドの一口を食べ、チョコチップメロンパンの袋を開ける。
横で梅干しの種をカリコリと食べる小詠を眺めながら、僕は思う。
何気無く口にした話が、いつの間にか大きくなってしまったな、と。
この時の僕には、その事に多少の不安があったが、それでも小詠と一杯楽しむ事ができると思っていた。
まだそう思うだけの余裕があったんだ。




