7 隠し事
青梅慰夢。
一年生。白髪、身長低め。性格は優しいが、あまり自分の考えていることを話さない。語尾に、です、を必ずつける。新聞部員。天才。
一を知って十を知り、十を知って百を知り、百を知って万を知る。そんな少女だった。
「ごめんなさいです。盗み聞きをするつもりはなかったですが、うたた寝してしまったです」
「教室で、うたた寝?」
小詠が聞くと、青梅は首を五度程傾けた。それに合わせて髪が揺れる。
「はいです」
そう言って、青梅は僕を見た。
「狭山君の疑問に答えるですねです。今日は本多君の使う電車が止まったです。だから本多君は早く家を出たですが、早すぎたです」
「あ、ありがとう」
やはり、口に出していない質問に答えられるのは違和感があった。
「それでは、私は失礼するです」
「慰夢さん、頑張ってね」
小詠がそう言うと、青梅はニコッと笑って出ていった。
「不思議な子だよな」
「そっさねー」
百桃の感想に適当に返事をした啄朗は、百桃に軽く頭を叩かれた。
「あんたは。さっきから言ってるけど、人の話、ちゃんと聞いてるの?」
「さあねー」
また啄朗は頭を叩かれた。
僕は二人から目を外して、小詠を見た。
「小詠、春休み暇?」
「ほとんど暇だけど。どうしたの、急に」
「いや、さ。旅行にでも行こうかな、なんて」
「旅行? デートじゃあなくて?」
僕は頷いた。
今週の月曜日に三年後の小詠から電話がきてからしばらく考えたが、遠くに行くのが一番いいような気がした。
「それで、どこに行くの?」
「まだ考えてない。小詠と相談して決めようと思ってる」
そう言うと、小詠が怪訝な顔付きで僕を見た。
そして言った。
「茂樹。隠し事は、しないでね」
「えっ」
僕は小詠から目を外した。
焦っていたのはバレバレだったと思う。
小詠はそんなぼくを見て溜め息を一つついた。
「今話すのが無理なら、無理はしなくていいよ。でも、いつか教えてね」
「ごめん」
「いいよ、時間はまだまだあるから。それで、どこ行こうか」
時間があると言った時、一瞬だけ反論してしまいそうになった。
だがすぐに困惑の気持ちが沸き上がってきて、自分が何を考えていたのかを忘れた。
「どうしたの?」
そこで初めて小詠が顔を近付けていた事に気付いた。
「あ、考え事」
「そう。それで、どこに行こうか?」
「僕は」
「ネプチューン」
そういえば啄朗と百桃もいたんだなと思い出し啄朗を見ると、百桃に海王星なんて行けるか、と突っ込まれていた。
彼の事はもう完全に無視することにして、小詠を見る。
「僕は、小詠の行きたい所なら、どこでもいいよ」
「それ、一番ずるい答えだよ」
「あー、なら、奈良」
つい適当に答えてしまった。小詠に睨まれる。
「ちゃんと答えて」
僕は目線を外す。
実の所、何も考えていなかった。よく考えればお金だってどうにかしなくてはならない。
と、そこでチャイムが鳴った。
いつの間にかクラスメイトもちらほらやって来ていた。
「昼休みまでに考えておいてね。私も考えるから」
「ああ、分かった」
小詠はそう言って教室を出ていった。
幾人かの生徒が小詠を目で追っていた事に少し嫉妬しながら、どこに行こうか考えた。




