6 友達
本格的な冬がやってきた。
地球温暖化が叫ばれているが、今年の冬はそんな事はお構い無しに寒かった。
まるで、クリスマスの翌日の雪は予行演習であったとでも言うように連日雪が降り続き、白銀の世界に変えていった。
三年生は受験で忙しくなり、放課後も教室に残って勉強している人もちらほら見掛けた。
「茂樹や、受験なんてまだまだ先の事なんて考えているとな、アッと言う間に来てしまうのじゃ」
「変な爺さま言葉使うな」
彼の名前は本多啄朗、高校からの友達だ。
性格は、一言で言ってしまえば天邪鬼。何を考えているのかよく分からない。
僕にはわざと分からせなくしているように見えていた。
「まあ、確かにな。中学に入った時だって、高校なんてまだまだ先だ、って思ってたのに、いつの間にかこんなに時間が経ってた」
「せやろせやろ。ほんやから、今から行きたい大学、決めるでごん」
啄朗の言葉は、どこの方言か分からなくなっていた。多分どこでもないのだろうが。
僕は彼を軽くスルーして、さっきからその後ろに立っていた女子の一人に声をかけた。
「小詠、おはよう」
「おはよ、茂樹」
小詠はそう言って僕の隣に移動してきた。
小詠の側にいたもう一人の女子は、桃野百桃という変な名前の持ち主。本人は気に入っているようだが、周りは被害を受けていた。
噂だが、中学の卒業式で先生が舌を噛んだとか。
彼女は啄朗の幼馴染みで、体育の時だけ張り切る、小詠とは対称的な人物だ。啄朗もそれには負けず劣らずだが、さらに彼は理系科目が得意だった。
「あんたはね、何でそんな突拍子もない事をいうかね」
百桃が適当な所から椅子を引っ張り出しながら聞いた。
小詠も近くの椅子に座る。
啄朗は二人が座ったのを確認して説明しだした。
「そもそも日本人は弛んでおる!」
それだけを、腕をわざわざ組んでから言った。
「それだけ?」
「うむ」
啄朗は時々こうして無駄に中略をする事があった。
こういう時に、青梅慰夢、高橋原琉、石田秋見のいわゆる天才三人組のうち一人でも近くにいれば、すぐに分かり易く解説をしてくれただろう。
だが生憎朝の早いこの時間、教室には四人以外いなかった。
そのためスルーする。
「小詠、来るの早くない?」
「だって茂樹、先に行っちゃうんだもん。待っててくれてもよかったのにさ」
「ごめん」
「いいよ、帰りは一緒にね」
「それはだな」
突然啄朗が話しだしたが、いち速く百桃が突っ込む。
「急に喋ると心臓に悪いよ」
「まあそれは老いておいて」
「歳を取ってどうする」
「まあそれも置いておいて。吾輩が茂樹を連れ回した理由だが、それは電車が止まっていたからなのだよ、チャウチャウ君」
色々と突っ込みたいのを抑えて、僕は小詠と首を傾げた。
多分僕が早く家を出た理由を言っているのだろうが、電車は止まってなかったはずだ。
すると、どこからか女の笑い声が聞こえてきた。
小詠と百桃を見るが、彼女達ではなさそうだ。啄朗ならこんな声も出せそうだが、彼でもない。
となると。
「はい、正解です」
青梅慰夢が教卓の裏から出てきた。




