5 三年後から
僕たち三人はケーキを食べながら雑談をしていた。
そんな中で僕の携帯に着信がきた。
「ちょっとごめん」
僕はそう言ってリビングを出た。
小詠からの電話だと確認して応答する。
「もしもし」
「久しぶり、茂樹。あ、茂樹からしたら、そんなに時間は経ってないか」
電話の主は、確かに小詠だった。だが何かが違った。
「小詠、だよね?」
「うん、私は小詠。でも茂樹からすると三年後の私かな。もう大学生」
少し声が大人っぽくなっていたのはそのせいか。
その声から、大学生の小詠を想像してみる。
背が相変わらず低めで、サラサラの黒髪が腿にまで伸びているせいで更にそれが強調される。細身にも関わらずそれに逆行するように大きくなった胸とお尻。
「妄想はそこまで。まあ茂樹なら、別にいいけど」
「なんで僕の考えてる事が分かったんだ? もしかして、エスパー!」
「違うわよ。茂樹の考えてる事ぐらい、すぐに分かる。それに、プレゼントもあるし」
「プレゼント?」
「あ、うん。茂樹が私にくれたもの」
「そうか」
僕は大学生になったら小詠に何をプレゼントするのだろう。
「それよりもさ、茂樹に言わないといけない事があるの」
「風邪?」
僕は直感的に思った事を聞いてみた。
「風邪はここしばらく引いてないから。安心して。そうじゃなくて、この電話の事なの」
「これ」
「うん。この電話ね、私から茂樹にかけると、2008年のクリスマスから2009年のクリスマスの間にいる茂樹にかかるみたいなの。それも私と同じ日の」
「それじゃあ、そっちの僕には、どうやって電話してるの?」
「こっちの、茂樹?」
「そう」
そう言ってから、やってしまったと思った。今まで未来の自分の事は聞いてはいけないと本能的に感じていたのだ。
しばらく不自然な沈黙が続く。
すると突然鳥肌が立った。
リビングの暖房でここはそれほど寒くないにも関わらず、だ。
それでも続く沈黙に僕は堪えきれず、何かを誤魔化すように明るく喋った。
「まあ、そっちの僕はそっちの僕、という事で。それで、小詠は僕と同じ日にいるんだね、三年後の」
「うん、そう」
小詠が何かを隠しているようだったが、無理に聞こうとは思わなかった。
「ごめんね。今の私は言いたくないの」
「いいよ、無理はしないで」
「うん。それでね、その一年を大切にしてほしいの。そこに一緒にいる私もそうだけど、これから茂樹に電話する未来の私も。お願い」
「言われなくても、そんな事は当たり前だよ。いつでも僕にとって小詠は大切だからね」
「ありがとう。もちろん茂樹も自分を大切にしてね。それじゃあ、またね」
「はい、また」
そこで電話は切れた。
僕はしばらく三年後の小詠が言った事を考えていたが、いつものように過ごせば大丈夫だろうという結論に達した。
自分がどうなるのか。この時の僕は想像する事を拒絶した。
ただ小詠とずっと楽しく過ごせればいいと思った。




