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3 出会い

 小詠とは高校に入ってから知り合った。と言っても、クラスが違ったのでしばらく会う事は無かった。

 僕たちが親しくなったのは六月二十四日、あの事件の十数日後だ。

 笹野原芽守により、二年七組の生徒全員と担任、それに加えて数人の生徒と司書の合わせて四十人程が殺害され、あるいは自殺した事件。

 これがくしくも僕たち二人を出会わせたのだ。

 身近な人がすぐ側で殺され、多くの生徒はカウンセリングが必要な状況だった。

 そんな中で授業が行われるはずがなかったにも関わらず、僕は毎日学校へ通っていた。

 最初の方は単なる野次馬気分で行っていたのだが、ある日教室から空を眺めていると、校舎の屋上に女子生徒の姿があった。

 次の日も同じ所に立っていたので気になり始め、次第に事件よりも彼女が来ているかを確認するために登校するようになった。

 そして六月の二十四日。僕は自分と同じように暇をもて余している彼女と話をしてみたくなり、屋上に行ってみる事にした。

 教室や図書室などのあるHR棟ではなく、職員室や特別教室などのある管理棟の屋上は常時開放されている。

 そこは景色が良いので中々人気があり、僕もよく友達と昼食をとっていた。

 扉を開けると、梅雨独特のむっとした空気が流れ込んできた。

 ここしばらく雲は空を厚く覆っているのだが、雨は降っていなかった。そろそろ降ってきそうである。

 周りを見回すと、HR棟に近い方のフェンスに背中を付けるように一人の女子生徒が立っていた。

 黒い髪は腰の辺りまで伸び、小さめの顔はうつ向いていても可愛い。

 身長は150cm弱で、スカートは先生の指導通りの膝が隠れる程度。画一されたブラウスの上からでもウエストは細く胸は大きいと分かった。

 仲村小詠。いくら僕でも知っている。ミス☆☆高コンテストをやれば一年生にして三位には入ると噂されていた。

「どちら様?」

 小詠の透き通る声は、離れていても聞き取りやすかった。

「あ、いや」

「いやなの?」

 優しい目線に捕えられ、どぎまぎしていて、彼女がからかった事にも笑いだしそうなのにも気付けなかった。

「ふふふ、突然ごめんなさい。私は仲村小詠。あなたは?」

「僕は、狭山茂樹」

「そうなんだ。所で、茂樹君がこんな所に何の用なのかな?」

「僕は、ちょっと空を」

 まさか君に会いに来たとも言えず、さっきまで考えていた事を口にしてしまった。

 嘘だとばれるかと思ったが、小詠は空を見上げる。

「空、か。茂樹君はいつの空が好き?」

 好き、という単語にドキッとするが、なんとか気持ちを落ち着かせて返事をする。

「夏、かな」

「やっぱり」

 満面の笑みで僕を見た。予想が当たったのだろう。

「私も夏なの。だけど梅雨のこんな風な曇りの日もいいな」

 もう一度空を見上げる小詠。僕も同じように見上げた。


 僕と小詠はこんな風に出会った。

 本当に普通に出会って仲良くなった。

 そして普通に付き合って。

 片隅には結婚の二文字があった。

 でももうそんな事もできないのだろうか。

今回出てきた事件の詳細は拙作「あさはかさ」(ジャンル:推理)をどうぞ。読まなくても問題はありません。

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