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2 電話

 クリスマスの翌日、明け方降っていた雪は止み、今は太陽が白い町並みを照らしていた。

 その景色を見ていた僕は、携帯の着信メロディーが流れているのに気付いた。

 僕は小詠からの電話であると確認して応答した。

「もしもし」

 だが返事は無く、鼻水をすする音が一度聞こえてきた。

「もしもし、小詠? どうしたの?」

 もう一度話しかけてみる。

 しばらくして、声が聞こえてきた。どうやら泣いていたようだ。

「茂樹、なんだよね。本当なんだよね」

「小詠? どうしたの? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。私は」

「これからそっちに行こうか?」

「駄目。ううん、それはできないと思う」

「どういう事なんだ」

 僕はできるだけ優しく聞く。

「うん、これから説明、するね」

 電話の向こうで小詠が深呼吸をした。

「今の茂樹には信じられないと思うけど、私、実は未来からかけているの」

「それって」

「やっぱり信じられないよね、こんな事。うん、大丈夫、私は茂樹の声が聞けただけで十分だよ。それじゃあ」

「ちょっと、待って。僕は、小詠が言う事なら、何だって信じるよ」

 確かにこれは僕の本心だった。

 だけど矢張どこかこのファンタジックな出来事を信じられないでいたのも事実だった。

 だから何故未来の小詠が電話をかけてきたのか、この時はまだ考えられなかった。

「ありがとう。茂樹ならそう言うと思った」

 多分、まだ目には涙が浮かんでいるのだろうが、明るくなった小詠の声を聞いてホッとした。

「何があったのかは分からないけど、僕がいるじゃないか。だから泣かないで」

「うん」

 そこで一つ気になる事があった。

「あのさ」

「ん、なに?」

「小詠が電話をかけてきた事は、小詠に言ってもいいのかな」

 しばらくの沈黙の後、小詠は答えた。

「その時代の私には知らせないで。私自身そんな事知らなかったから」

「分かった、気を付けるよ」

「お願いね。それじゃあ、また」

「ああ、またな」

 そこで電話が切れた。


 その日から、未来の小詠から電話がかかってくるようになった。

 どうやら彼女は丁度一年後にいるようだった。

 彼女はあまり彼女自身の話をしようとはしなかったが、僕と話しているととても楽しそうだった。

 僕も小詠と話しているだけで十分で、自分が一年後どうなっているのかなんて聞こうとも思わなかった。

 否、聞きたくなかった。

 僕と同じ時間にいる小詠とは冬休み中に何度も会ったが、確かに僕と未来の小詠が話した事を知らなかった。

 僕は二人の小詠と話している内に、僅かな違いがある事に気付いた。

 今の小詠は心底楽しそうなのに対し、未来の小詠はどこか悲しそうだった。

 それと、なぜ今の僕に電話をしてくるのかも疑問に感じ始めていた。

 だが小詠の声を聞くと、どうしても聞けなかった。聞いた途端、何かが崩れさってしまう気がしていたのだ。

 僕が疑問を胸に秘めたまま、学校生活は再開された。

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