24 前夜
11月もなかばを過ぎた頃、狭山家に待望の第三子が産まれた。
魁菩と名付けられた元気な男の子だ。
そしてそれから数日後、母と魁菩は退院をして家に戻ってきた。
僕は丁度その日、11月30日から一日毎に少しずつこの文章を書いてきたが、それも明日で最後になりそうだ。
さっき読み返してみたんだけど、僕の誕生日は書いたのに小詠の誕生日の事を書いていない事に気付いた
9月9日。それが小詠の誕生日。
僕達が付き合って迎える最初で最後の誕生日になった。
その日は水曜日だったので小詠の部活も無く、日が沈む前に僕の家に着いた。そこで夕食にお邪魔する事を伝えて小詠と別れ家に入った。
鍵がかかっていたので皆出かけたのだろう。そう思いリビングに向かうと、テーブルの上に一枚の置き手紙があった。
仲村家ヘ来タレ
それだけが書かれた手紙を見て、僕は急いで家を出て小詠を追い駆けた。
「ハッピバースデーテゥーユー」
十七本のロウソクだけに照らされた部屋で、定番の歌が歌われる。
「ハッピバースデーディア小詠ー、ハッピバースデーテゥーユー」
歌い終わると小詠はロウソクの灯を吹き消した。
パチパチパチパチ
電気がつけられて六人からの拍手を浴びた小詠は、顔を赤くしながらも嬉しそうに笑っていた。
「おめでとう、小詠」
「おめでとー、お姉ちゃん」
それから夜まで七人で楽しく過ごした。
――――
着信だ。
一旦筆を止めて携帯を取る。
「もしもし」
「茂樹、寝てた?」
「まだ」
「そう、よかった。それで、明日は◎◎◎駅に朝の九時だよね」
「うん」
「分かった。ありがとう。いっぱい楽しもうね。……」
「どうしたの?」
「ううん、何でも無いよ。それじゃあまた明日」
「うん、おやすみ、小詠」
「おやすみ、茂樹」
明日、つまり12月25日は去年に引き続いて小詠とデートをする。予報では一日中晴れるそうだ。
僕の命日になる日なのだろう。
だが、そんな事よりも小詠との最後の一日だから精一杯楽しもう。一番の思い出になるように。
そう思いながら、ベッドに横になる。
目をつぶると、すぐに睡魔が襲ってきた。




