21 誕生日
抱き締め合ったままどれくらい時間が経っただろう。
ここが公衆の前だと思い出し、慌てて腕を解いた。
小詠は僕の焦り赤面した顔を見てその意味を理解して、僕から少しだけ距離をとる。
だが安心した事に、誰も見てはいなかった。
「帰ろうか」
そう言うと、小詠も頷いた。
「うん」
そうして久し振りに二人並んで帰っていった。
できる限りこの時間が続くようにゆっくり歩いたため、僕の家に着いたのが七時過ぎになってしまった。
「それじゃあ、また明日」
そう言って中に入ろうとすると、小詠も付いてきて言った。
「いいえ、今日は皆でパーティーですよ」
その意味を聞き返そうとする前に扉が開き、中から簾迦が姿を見せた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、お帰り〜。外に立ってないで、早く早く」
そう言って僕達を中に引き込んだ。
リビングに入った瞬間、左右でクラッカーが鳴った。
そして前後左右から祝いの言葉がかけられた。
「お誕生日、おめでとう」
色々と聞く暇もなくお誕生日パーティーは進んだ。
僕の家に来ていた小詠のご両親も一緒に祝ってくれた。
嬉しかったが、これが最後の誕生日になるのかと思うと胸が痛くなる。
「どうしたの、茂樹?」
小詠が隣から聞いてきた。
僕はなんとか平静を装おうとしたが、無理だった。小詠と目が合った瞬間、涙が溢れ出てくる。
「大丈夫だよ。私は、大丈夫だよ」
小詠はそう言って、僕を優しく抱き留めてくれた。
そのまましばらくそうしていて、僕はこれから自分が死ぬんだ、という事を話そうと思った。
だけど、小詠の悲しむ顔が見たくなくて、いや、本当は違う理由だと思うけど、それで話せなかった。
まだ、秘密にしないといけない。そう思い、堪えて顔を上げる。
「何でもない」
「うん」
小詠はそれ以上聞いてくる事もなく、一つ頷いただけで納得してくれた。
・・・・・・
いつの間にかここには僕達しかいなかった。気を使ってくれたのか。
時計の秒針が、カタカタと音を立てる。
「小詠、あのさ」
僕は、口を開けた。
「何?」
「えっと、なんていうか」
なんて言おうか。
「け、けっ……けー」
「ニワトリかな?」
「違うよ。け……あっ、携帯。携帯無くさないでね」
「携帯? うん、分かった。無くさないよ」
「そう、良かった」
「あ、そうそう、皆からの誕生日プレゼント、開けてみて」
小詠は僕に平べったい封筒のようなものを渡し、優しく微笑んだ。
それを開けると、中には『SOKAI』1日フリーパスが二枚入っていた。
「明日は、そこに行こうね」
僕はすぐに頷いた。
結局あの時、僕は何を言おうとしていたのだろうか。
今だったら言えるだろうか。
それと今になって気付いたが、小詠はこの時大丈夫だよって言っていた。
知っていたのだろうか、僕の秘密を。




