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20 プレゼント

 紙袋の中を見てみると、そこには有名ブランドのビニールに包まれた直方体の箱が入っていた。

 ビニールの中の箱を取り出し、たった一枚のシールで止められた包みを開けた。

 箱は白色で、蓋には『For Shigeki(しげき へ)』と美しい字体で書かれていた。

 包みを畳み直し紙袋に戻す。そして蓋を開けた。

 すぐに目についたのは白い手紙だった。その下は白い綿が詰まっていて見えない。

 手紙を取り出し、半分に折られたそれを開いて中身を読んだ。



 ――私の愛しい茂樹へ

  お誕生日、おめでとう。

  この一か月会わないでいてごめんね。

  それもこれも今日まで。明日からは毎日一緒に過ごそうね。


  私はこの一か月、田奈浜さんの自宅の工房でプレゼントを作ってました。

  会わなかったのはサプライズの意味もあるけど、でも工房に籠っていたこともあるんだよ。

  一か月間頑張って作りました。

  気に入ってくれたらいいな。


  これからもずっと一緒に

   小詠より――



 一つ、その手紙に丸い染みができる。最近涙もろくなったな。

 だがそれ以上の染みができることはなく、僕は手紙を脇に置いた。そして箱の中を見る。

 綿を掻き分け、プレゼントを取り出す。

 ――キーホルダー。

 重さからみて鉄ではない金属を虹色に彩色したそれは、メビウスの輪を模していた。

 ∞(無限大)に似たメビウスの輪には表や裏といった区別をつけることができない。そのために永遠や無限の象徴とよく言われていた。

 キーホルダーを箱に戻し、脇に置く。

 服の袖で目に溜まった涙を拭いた。

 永遠。僕にとっては既に存在しない事。だけど、それを小詠は。

「茂樹」

 声がした。

 デジャブだった。

 目の先に小詠がいて、僕のほうに駆けてくる。

 足が勝手に立ち上がる。僕の意識はこの情景を客観的に眺めていた。

 ああ、また一歩下がってしまうのかな。

 だけど、小詠に。

「小詠っ」

 昼間とは違い、一歩前に出た。出ることができた。

 たった一歩の気持ち。それだけで僕には充分だった。

 切欠。それは本当に単純で、簡単で、純粋な事だったんだ。

 一歩一歩と僕たちは近付き、そして。


 ――――


 小詠が腰に回した細めの腕に、放すまいと力が入るのが分かった。

 僕も優しく、小詠の背中に離すまいと手を置いた。


 僕はやっと自分に目的を得た。否、これは前にも決意した事だ。

 だがここで本当に、心の底から、命を賭けて誓う。

 小詠を幸せにする。

 ただ、それだけに全力を尽くす、と。

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