〜茂樹編〜 1 クリスマス1
☆☆高校に通う僕たちは、その日から付き合い始めた。
僕たちが付き合っているという噂は瞬く間に学校に広がった。元から小詠の人気は高く、僕も今までに何度も告白をされていたのだ。
だが、冷やかされたりしたのはほんの数日で、すぐに話題は次のテストの事に移っていった。
冬休みの初日である十二月二十五日。恋人達は街で寄り添い、楽しいひと時を過ごす、クリスマス。生憎雪は降らなかったが。
僕と小詠もその類に漏れずに、街を手を繋いで歩いていた。
遊園地で長い行列に並んだり、途中でアイスクリームを食べたり、映画を見たり。あっという間の一日だった。
最寄りの駅まで戻り、子詠を家まで送った。
「それじゃあ、またね」
そう言って小詠は中に入って行った。
「うん、また」
僕は小詠が家に入った後もしばらくそこに立っていたが、体が冷えてきたことに気づいて自宅に帰ることにした。
その日の夜、僕の携帯に小詠から電話がきた。
「もし、もし? 茂樹?」
「あ、小詠か。今日は楽しかったね」
「う、うん。本当だね」
小詠は少しだけ口籠る。
「小詠? どうしたの?」
「え? あ、なんでもないの。うん、私は大丈夫だから。それじゃあね」
そう言って、一方的に電話が切られた。
小詠にしてはやけに焦っていたような気がする。何かあったのか?
そう思い、連絡をしてみることにした。
ツーコールで出た小詠。
「どうしたの、茂樹?」
さっきまでの慌てた様子はなく、いつも通りだった。
僕の聞き間違えなのかもしれない。
「いや、何でもないや。ちょっと僕の勘違いだったみたい」
「何を?」
「ううん、もういいんだ。小詠が元気だって分かればね」
「そっか。わかった」
「それじゃあ、お休み」
「うん。おやすみ」
電話が切れた。
何か違和感があったような気もしたが、そんなことを気にする暇も与えずに睡魔が襲ってきた。
僕は今日の楽しいひと時だけを思い出しながら、その日はいつも以上にぐっすりと寝た。
その時は既に僕たちの関係は両方の両親とも公認していた。
でも小詠は知らないだろうけど、小詠のお父さんと一悶着があったんだ。
十二月十三日、初めて小詠の家に行った時だった。
僕が中に入ると小詠が出迎えてくれて、その後ジュースとかを取りに台所に行った。
その時、小詠が入っていった扉とは反対側の扉が開いて、小詠のお父さんが出てきた。
お父さんは小声で話しかけてきた。
「君が小詠の恋人かい」
意外と優しい口調だったのに安堵しながら返事をする。
「はい、初めまして。狭山茂樹です。貴方は小詠の」
「父だ。こちらこそ、と小詠のために言いたい所だが、父親として言っておきたい事がある」
そこで一旦言葉を切り、僕の目を真剣な眼差しで見る。
「私はまだ君の事をほとんど知らない。だから、今の所は何も言わない。だが、もしも小詠を不幸にするような事があったら」
「僕はそんな事できませんよ」
「そうか」
小詠のお父さんはそれだけ言うと、もといた部屋に戻っていった。
扉が閉まりきるのとほぼ同時に、ジュースやお菓子を乗せたお盆を両手で持った小詠が戻ってきた。
「それじゃあ、私の部屋はこっちだよ」
僕はそれに頷いて、小詠についていった。




