13 参加者
「ただいま」
二月も後半戦になり、年度最後のテストまであと僅かになった。
「おかえり。小詠ちゃんは一緒じゃないの」
家に戻ると母がテーブルに座ってテレビを見ていた。
「今日は木曜日だからね。それと母さん、テーブルは座るための家具ではないと思うけど」
「茂樹、いつも言ってるけど、ちゃんと小詠ちゃんを送ってあげなさい。私なんて毎日カズくんが校門で待っててくれたんだから」
カズくんとは親父の事である。
「いいだろ、それくらい。小詠もしたい事ぐらいあるだろうし」
「女の子っていうのはね、好きな人にはいつでも側にいてほしいものなのよ」
そう言いながら、母は足をぶらぶらさせる。
「あっ。私ね、子ども産むから。それと、茂樹の言ってた3月の旅行だけど、家族皆で行こうね」
自分の母が自分の母でないような気がした。
テーブルに届いているさらさらの茶髪を後ろに掻き分けて覗かせる瞳は、魔性の瞳だった。
これを見たら、普通の男ならば断れないだろう。
僕はそれを軽くスルーし、その前の言葉を聞き返す。
「子ども、って何?」
母は視線をテレビに戻し、一言。
「仲村さんも誘ったから」
スルーしそう言った母はもうその事を忘れたのだろう。
その様子に溜め息をつきながら、簾迦に子どもの事を聞くため二階へ向かった。
簾迦の部屋に行き、新しい子どもについて何か聞いていないかを聞く。
「私も知らないけど、お母さんは嘘は言わないよね」
「という事は、家族がもう一人増えるのか」
「そうでしょ。あっと、私も三月の旅行、行こうと思ってるから。お姉ちゃんにはもう言ってあるよ」
そう言った簾迦は手元のコミックを見て笑い声をあげた。
僕はまた溜め息を一つつき、自室に戻った。
次の日、学校で両親や簾迦が一緒に来る事を小詠に話すと、母の言った通り小詠の両親も付いてくるらしい。
他に一緒に行くのは、僕たち四人を除いて次の通りになりそうだった。
□□□株式会社のご令嬢の田奈浜弥羅和と、その妹で役者の赤沙。この二人は今回の旅行に資金などの面で大きく貢献してくれた。宿泊する□□□ホテルも、本来なら高校生が泊まれるようなホテルではないのだが、二人のコネで泊まらせてもらえる事になった。
小詠の友達の新庄貴李下に、百桃の友達の麻木椎奈と元村撫稀。
僕の友達の紺野友に啄朗の友達の横下水男。
それに加え、どこで噂を聞きつけたのか青梅慰夢も参加表明をしていた。
男が六名、女が十一名の計十七名で旅行することになった。
期間は二十二日から二十八日までの六泊七日でほとんど個人行動にはなるが、有名な観光地に行く時は全員一緒に、ということになった。
バレンタインが過ぎた頃からその旅行が始まる日まで、未来の小詠からの連絡はなかった。
その事に嫌な予感を感じながら、共にいる小詠との時間は着実に過ぎていった。




