12 ヨドガワ・カメラ
文化祭の次の日は休校になる。
僕は啄朗に誘われて、小詠と百桃の四人で出掛ける事になっていた。
文化祭の二位の賞品は最新型の携帯ゲーム機。
ちなみに、一位は有名アトラクション施設、SOKAIの年間パスポートだった。SOKAIとは、『S県奥のキャッピキアイランド』の略。遊園地・動物園・水族館・博物館・美術館・コンサートホール・映画館など、ありとあらゆる遊びがそこには詰まっているという売り文句で最近は有名だが、名前からも分かるとおり元々は、アニメ『キャッピキ』の宣伝のために作られたちょっとした遊戯施設だったらしい。
そして今、僕は小詠の家の前に来ていた。
ここで待つこと数分。
扉が開いて、中から小詠が出てきた。
「おはよう」
とりあえずそう言うと、小詠も手を擦り合わせながら返事をした。
「おはよ」
その声に合わせて白い息が漏れた。
中途半端に寒くなり始めたこの時期、この後の冬が例年より寒くなることを予感させる寒さになっていた。
いつもなら長袖か半袖かでよく迷うのだが、今日は迷わず長袖を選んだ。
小詠も同様だったようで、真っ白なカーディガンを着ている。
二人で並んで歩く事十数分、◎◎◎駅に到着し電車で×××駅へ。そこで乗換え、▽△駅へと向かう。そこで啄朗たちと待ち合わせをしていた。
▽△駅を出て、その一番大きい改札口の近くにある柱に背を預けた。
「ねえ茂樹、この『ヨドガワ・カメラ』ってどこにあるの?」
小詠は鞄から一枚の紙切れを取り出してそう言った。
「あのビルの中かな。この辺は啄朗が詳しいから、皆が揃ってからにしよう」
「ふーん」
そう言いながら紙切れをくねくねさせる。
ピンと伸ばして、そしてまたくねくねさせた。
しばらくそのままでいたが、冷えてきたので温かい飲み物でも買ってこようかと思った時だった。
「よーよーよー」
「おはよー」
改札口の向こうから、啄朗と百桃がやってきた。
多分、百桃は啄朗の言葉を訳したのだろう。
「おはよう、二人とも」
小詠がそう言いながら紙切れを鞄に入れた。
僕も簡単に挨拶をする。
「おはよう」
腕時計は丁度十一時を指していた。
僕たち四人は紙切れと携帯ゲーム機を交換した後、ファーストフード店で昼食をとっていた。
テーブル席の奥に啄朗、その隣に百桃が座り、啄朗の向かいに僕、そして僕の隣に小詠が座っている。
テーブルの上にはハンバーガーの残骸が綺麗に揃えられ、ジュースとポテトがそれぞれの前に置かれている。
「やっぱり、小詠って美人なんだね」
百桃がテーブルに肘を突き、小詠の顔をじっと見ながら言った。
言われた小詠は仄かに頬をピンクに染めた。
「そんな事、ないよ」
「拒否県無し」
「そんな県はない。それと」
また変な事を言った啄朗にいつものように突っ込みを入れた百桃は、さっきから窓の外を見ていた僕に向き直る。
「茂樹君、なんで私達に付いてきたの?」
それは、色々な意味に取れた。
だが僕はこの時、まだ本心を隠していた。あるいは気付いていなかった。
だからこう言った。
「暇だった、からかな」
百桃はジトーっと僕を見て、ふーんと頷くと、また別の話題を皆に振り始めた。
こんにちは、蚤の蓑です。この度は本小説をお読みいただき、ありがとうございます。評価感想批評等々、頂けると嬉しいかぎりです。なにぶん稚拙な文章ではありますが、これからもどうぞお楽しみください。




