10 文化祭1
煮干祭という、なんとも微妙な名前の付けられた☆☆高校の文化祭。
まだ僕と小詠が付き合う前の話。
一日目。
部活に所属していない僕は、教室で自分のクラスの企画<掘った芋いじんな>の受付を午前中一杯やる事になっていた。午後は暇である。
椅子に座ってのほほんとしていると、小詠がやってきた。
今年のミス☆☆高コンテストには小詠が推薦出場させられていた。一年生の誰かが勝手に応募したようだった。
「茂樹君、人気はどう?」
「ほどほど、かな。まだ他のクラスを見ていないから何とも言えないけど」
そう、僕のクラスにはほどほどに人がいた。こんなよく分からない企画でも、来る人はいるようだ。
「それじゃあ、仕事が一段落ついたら桃たちと一緒に回ろっか」
「啄朗と百桃も午後は暇なんだな」
「そうみたい」
小詠はそう言って、顔を近付けてきた。
心臓がドキドキするのが分かった。
「暇そうだね。隣、座ってもいい?」
いきなりそんな事を言われて、さらに鼓動が速くなった。
なんとか平静を装いつつ、頷く。
すると小詠は受付テーブルに片手を突いて鮮やかにテーブルを跳び越え、こちら側にきた。そしてストンと腰を下ろす。
さっきよりも距離が近くなって、耳が熱くなる。
「ふふふっ、可愛い」
小詠が口に手を当てて笑った。可愛い小詠に可愛いと言われ、恥ずかしくて顔を下に向けてしまう。
「あ、いらっしゃいませー」
僕は見えなかったが、お客が入ってきたようだ。小詠が自然に接客をする。
「はい、どうぞ。このカードを持っていってください。楽しんでいってね」
どうやら親子連れのようで、男の子が元気よく中に入って行った。
小詠は手を振って男の子を見送り、僕に言った。
「茂樹君、ちゃんと仕事をしないとだめだよ」
「う、うん」
始めは小詠がとても近くにいて緊張したが、しばらくすると大分慣れてきて一緒に接客をするようになった。
この後、啄朗と百桃も加わって三年三組の模擬店<辛〜彼〜>で昼食をとり、四人で文化祭を楽しんだ。
二日目の午前には吹奏楽部の演奏を聴いたりしたが、午後は小詠と啄朗の二人がクラス企画の仕事があり、それならと百桃は別の友達の所に行ってしまい、僕はどうしようかと悩んだ末に図書室に行くことにした。
HR棟にある図書室は五階にあるため行くだけで大分大変なのだった。その分、夏は涼しく冬は暖かくて過ごしやすかった。
図書室に入ると、今日はちょっとだけ涼しかった。これ位が一番気持ちいいかもしれない。
司書の人は隣の司書室でパンか何かを食べていた。
僕はカウンターを挟んで司書室とは反対側にある読書スペースに行った。
ここの天井には夏休みに起きた事故で丸い穴が開いていて、ベニヤ板のような物で簡単に塞がれていた。床にも穴が開いていたらしいが、こちらは夏休み中に直っていた。
そんなスペースの奥の方に一人だけ生徒が座っていた。文庫本のようなものを読んでいる。
僕も適当に文庫本を書棚から引っ張り出し、近くに座って読み始めた。




