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15、君のためのステージ

 鳴り止まない拍手、まばゆいライト、大歓声、ルーラコール。

 私はそれらに応えるために、ステージの真ん中で大きく手を振って、笑顔でジャンプする。

 本当は、そんな元気は残ってないけれど。

 だって、ずっとステージの端から端まで走っていたんだもの。

 そうしないと、隅っこの席の人にまでパフォーマンスを届けられないから。同じお金を払ってわざわざ足を運んできてくれているのだから、みんなにうんと楽しんでもらいたい。


『ありがとー! みんなありがとー! 次で本当にラストです!』


 何回目のアンコールだろう。

 もう疲れたなって思っているのに、口が勝手にそんなことを言った。イントロが流れて、身体はそれに合わせて動いている。

 歌えているけれど、声の調子は良くないし、ダンスにも切れがなくなっている。

 これでもう、最後にしたい。舞台袖にはけたい。

 そう思いながら歌っているのに、曲が終わったら客席からはまたアンコールの声が上がる。

 照明も落ちない。はけられる雰囲気にならない。

 スタッフも、お客さんも、ステージを終えることを許してくれないみたいだ。

 怖い。信じられない。でも、ライトが当たり続ける限り私は、パフォーマンスを続けなくてはならない。


「……ありがとー。みんな、元気だねー。でもでも、次で、本当に最後……うぅ……」

「ルー? 起きろ、ルー!」

「うぅ……ん?」


 いつまでアンコールを続けるんだと泣きが入った頃、身体を揺さぶられて目が覚めた。

 目を開ければ、心配そうに顔を覗き込むマルク先生がいた。眼鏡もかけず髪もぼさぼさということは、私のあまりのうるささにあわてて起こしにきたのだろう。


「……コンサートのステージにいたの。アンコールがなかなかやまなくて、舞台袖にはけられなくて、つらすぎて……」

「悪い夢だ。相当うなされてたな」

「夢か……よかった」


 さすが悪夢なだけあってかなりつらさが増していたけれど、さっきの夢は近しいことが現実にあったのだ。

 しつこすぎるアンコールに疲れ果てて涙目になったのに、確か雑誌には『やまぬアンコールに、ルーラ感涙』などと書かれたのだ。ふざけるな。

 どうせ嘘しか書かれないで真実なんて誰にも伝わらないのなら、いっそのことステージでぶっ倒れてやればよかったのにと思う。

 でも、悲しいかな身体が丈夫なのか変にプロ根性があるのか、ステージで体調を崩したことなど一度もない。

 私の身体は無理をして無理をして、スケジュールが少し空いたところでいつもガタッと帳尻合わせをするように熱を出したりするのだ。

 そのせいで、たまに休みがあっても身体を休めることしかできなくて、何か楽しい事をした記憶がない。

 ……といっても、友達もみんなアイドルかタレントで、休みを合わせて遊ぶことなんてできなかっただろうし、私にこれといった趣味はないわけだけれど。


「ルー、泣くほど仕事、しんどかったんだな。……それなら、アイドルやめたらどうだ? そんなに苦しむことないと思うよ」


 夢のせいで出ていた涙を拭っていたら、マルク先生が心配そうにこちらを見ていた。

 すごく言葉を選んだのだろうなということがわかる。いたわろうとしてくれていることも。

 でも、慎重に選んだのだろうからこそ、その言葉は胸にちくりと刺さった。

 流星群の夜に同じようなことを言われたときは、何とも思わなかったのに。

 あの夢見心地の時間の中では、きっと“アイドルをやめる”という言葉も現実味がなかったから素直に聞けたのだと思う。

 でも、生々しいほど苦しい悪夢を見たあとは、そんな現実味のない言葉は穏やかな心で聞き入れられない。


「……やめたって、何するっていうの。アイドルじゃなくなったら、私には何も残らないよ」


 声に出して言うと、なおさら虚しさと痛みが胸に広がる。誰かに言われるより自分で言ってしまったほうが、言葉の真実味が増すのはなぜだろう。


「何もって、そんなことないだろ。ルーは魔法もうまいし、子供にも好かれるから教師とか、どこか店で働くとか。今まで考えたことがなかっただけで、適した場所ならいくらでもあるさ」


 先生は慰めるように、優しい笑顔で言う。きっとこんなふうに、生徒たちの進路相談に乗っているのだろうな。

 でも、これは私が今欲しかった言葉じゃない。

 やれることとか、適した場所の話をしていたわけじゃないのだ。

 もっと根源的な、自分が持っているものの話だ。勝ち取ってきたものの話だ。私の手に、掴めるものの話だ。

 きっと先生には、わからないことなのだろうけれど。


「お、リリベルか。おはよう」


 曖昧に微笑んでお茶を濁そうとしたそのとき、ドアがノックされ、リリベルが入ってきた。いつもは朝からピカピカの笑顔なのに、今日は何だか元気がない。


「リリベル、どうしたの?」

「……あのね、いけないことしちゃったの。ルーラに謝らなきゃいけないこと」

「え?」


 うつむいてしょぼしょぼと話すリリベルの様子に、私と先生は顔を見合わせた。このぐらいの年の子がこんなふうに落ち込んでいる上に悪いことをしたと自白するということは、おそらく困っているはずだ。

 私も自分の経験上それがわかるし、先生も教師だからわかっている。


「リリベルがきちんと謝ってくれるなら、私は怒らないよ。それより、何か困ったことがあるんじゃない? 何があったの?」


 私は屈んで、リリベルの目線に合わせた。下から覗き込むと、眉をへの字にして唇を尖らせているのが見えた。これは、相当困っているはずだ。


「あのね、昨日、ジェームズと校舎に戻るときにね、生徒たちに見つかっちゃったの。たぶん一、二年生だったと思うんだけど。まだ授業中だったのに!」

「ええ!? それは大変! そっか……私が迷子になってテレサ先生に見つけてもらうまでの間に、二人は先に帰ってたんだよね」


 昨日、デリアのネコを探している間にかなり時間が経っていて、待っていてもらったジェームズとリリベルはひとまず校舎に先に帰っていたのだという。

 私が一緒なら、そんなふうに目撃されるリスクを冒すことはなかったのにと思うと、申し訳なくなる。


「それでね、その子たちが私がつけてるブローチを見て、『お前、魔女っ子ルーラ見たことあるのか?』って聞いてきたから、あるって答えたら『嘘つき! ルーラはこのへんにはあんまりコンサートしに来ないんだぞ』って言われたの。だから悔しくて、ルーラとはお友達で、おしゃべりだってしたことあるもんって言っちゃったの……」

「そうなの……でも、リリベルは嘘をついてないもんね」


 罪の意識を感じているのだろう。あまりのしょぼくれぶりが可哀想で、私はそっとリリベルの頭を撫でた。

 でも、リリベルはまるでそんな資格ないとでもいうように、ふるふると頭を振った。


「それでね、問題はここからなんだけど、その場に居合わせたデリアって人がなぜか、『それなら、ルーラを連れてきなさい。そして、どっちがこの時代の正統な魔女っ子アイドルか競いましょう』なんて言い出して、私を嘘つき呼ばわりした子たちも『そうだそうだ! 連れて来い』って言い出して、なぜかルーラとデリアって人が魔女っ子対決することになっちゃったの……本当にごめんなさい」

「お、おう……」


 本当は「何でだー!」って叫びたかったけれど、これ以上リリベルを傷つけたいわけではないからぐっと堪えた。

 ただ正直言って、意味がわからないなと思う。

 生徒たちがリリベルを嘘つき呼ばわりしたのは、わかる。その挙げ句、本当なら本人を連れて来いと言ったのも、理解できる。

 でも、そこにデリアが口を挟むのは意味不明だ。その上、魔女っ子アイドル対決だなんて、正気の沙汰とは思えない。

 魔女対決とか魔法対決なら理解できても、魔女っ子アイドル対決なんて、誰がどう勝敗を決めると言うのだろう。


「リリベル、だめじゃないか。いくら悔しかったからって、勝手にそんな約束してきちゃ」

「……ごめんなさい」


 難しい顔をして聞いていたマルク先生が、そう言ってリリベルをたしなめた。この数日間私の存在を秘匿してくれていた先生からするととんでもないことだから、そう言いたいのはもっともだ。

 けれど、この場合悪いのはリリベルではない。デリアだ。


「わかったわ。その対決を受けましょう。向こうにどんな考えがあるかはわからないけれど、私が姿を見せた段階で半分以上解決よ。あとはどうその対決に勝敗をつけるかだけど、ぶっちゃけ私は負けでいい。リリベルに嘘つきと言ったガキンチョに謝らせることができたらね」


 安心させるために、パチッとウィンクしてみせた。

 気分はもう、仕事モードだ。リリベルの顔がパッと晴れたのを見れば、こんなのなんてことないと思える。  

 仕事でなら、もっと嫌なことがたくさんあったのだ。意味がわからない内容の仕事も、私がやる必要あるかわからないことも、たくさんたくさん。

 だから、デリアに腹が立つけれど、やれないことだとは感じない。


「それで、その対決はいつなの?」

「今日の三時、中講堂でだって。ちょうどその時間、中講堂で授業はないからって」

「ずいぶん急ね。自分の首を締めてんのわかってるのかな」


 会場の規模と今からの時間でできることを考えて、やれるという確信を得た。

 中講堂というのは文字通りこの学校内にある中くらいの規模の講堂で、すり鉢状の構造をしている。すり鉢の一番底にステージがあり、そこから扇状に段々と席が上のほうまで広がっているのだ。

 音の響きはあまりよくないけれど、集音設備がない状態で野外で歌わされるより断然マシだ。

 そして、対決というのだから何曲も歌うわけではないだろう。それなら、持ち歌の中からヒットしたもので五曲ほどのメドレーを組んで、それでも時間が余れば何か会場の空気に合わせてフルで披露したらいい。


「……ルー、やれるのか?」

「やれる」

「無理してないか?」

「子供の夢も叶えられなくて、何が魔女っ子アイドルだって感じだよ。だから、大丈夫」


 不安そうにしている先生に、今度は親指を立ててみせた。

 先生は私がどんなアイドル活動をしていたかきっと知らないから心配するのだろうけれど、これでも学校を卒業してからずっとアイドルをやっているのだ。一応は紛れもないプロだ。

 だから、大丈夫。


「よくわかんないけど、ビシッとかっこいいステージを見せるから、楽しみにしててね!」


 ただのルーラから魔女っ子ルーラになりきって、私はポーズを決める。

 専用の長杖はないけれど、気持ちひとつで私は、本物になれるから。


 ***


 指定された半刻前に中講堂へ行くと、そこはすでに騒がしい気配に満ちていた。でもそれは、コンサート会場の熱気とは違う。

 耳を傾けると、誰かが指示を出して、それに従ってたくさんの人が右往左往しているようだ。

 これがコンサート本番なら何時間も前に会場入りしてリハーサルをするのだけれど、きっとそんなことをする余裕もなければ空気でもないだろうと予想していて正解だった。


「あら、ルーラじゃない! 本当にいたのね! でも、あたしと対決するって聞かされて怖気づいて出てこないかと思ったわ」


 杖をタクトのように振って指示を飛ばしていたデリアが、私の姿に気づいてステージから席のほうへと上がってきた。


「約束の時間までまだあるじゃない。私、子供やファンとした約束はちゃんと守るから」

「な、何よ! そのわりにしけた顔してるじゃない? やる気あんの?」

「あるよ。本番前はいつもこんな感じだから気にしないで。それより、対決ってそれぞれステージでパフォーマンスを披露すればいいのよね? どっちが先にやる? もし私が先なら、そろそろステージの用意をさせてもらいたいんだけど」


 何かと絡んでくるデリアを適当にあしらって、私は必要なことを尋ねた。

 本当ならデリアが歌うつもりの曲についても尋ねるべきなのかもしれないけれど、被ったところでこちらが本家なのだから気にすることはない。それより、ステージ開始までどのくらい時間があるかどうかのほうが大事だ。


「ふん! あたしがあんたのあとで、あんたのパフォーマンスをかっさらってっちゃ悪いから、あたしが先にやってあげるわ。舞台を温めておいてあげるから、せいぜいまともなパフォーマンスをやることね」


 前座の難しさも大変さもわかっていない発言に失笑しそうになったけれど、デリアのことはまともに相手にするだけ無駄だ。聞き流しておくことにする。


「わかった。じゃあ、私は後攻ということで、デリアがステージに上がったら袖で待機するね」

「そんな余裕な顔してられるの、今のうちだからね!」


 何が気に触ったのか、デリアはぷりぷり怒って去っていった。あんなでも今、初歩魔法の教師をしているというのだから、わからないものだ。

 とにかく今は準備が大事と、私は下の方の席で待機することにした。

 

 光の演出と、衣装のチェンジ、紙吹雪、それを舞わせる風――持参の短杖でできうることを考えて最終調整しているうちに、半刻はあっという間に過ぎていたらしい。

 巻き込まれ体質のジェームズは先にデリアの手勢に加えられてしまっていたから、誰の手も借りられずにひとりでやることになってしまった。

 でも、問題ない。うまくいく、うまくいかせる。

 成り行きとはいえ、リリベルは私のステージを見られることになって喜んでいるのだ。だから、その期待を裏切るわけにはいかない。


「デリア先生、頑張ってー!」


 デリアが袖からステージに現れたのを見て、客先から生徒たちのものと思しき歓声があがった。

 どうやら、客席を埋めているのはデリアの生徒たちのようだ。中講堂の使用許可が下りたというからくりが、これで理解できた。元々、彼女の授業のために押さえられていたのだろう。

 曲のイントロが流れたのを確認して、壇上にあがるための小さな扉をくぐった。

 流れている曲は、魔法使いマリーンのものだ。

 私の先輩に当たる、初代魔女っ子アイドル。そして、私のマネージャーのマリーさんのかつての姿。

 よりによって何でマリーンの曲なんだと、思わず笑ってしまう。

 マリーンは頑張っていたけれど、とにかく不遇のアイドルだった。

 曲に恵まれず、魔法使いでもないのに監修もつかないまま手品を独学でやらされて、大して宣伝も打ってもらえず、下支えのないまま走らされたようなアイドルだった。

 でも、デリアはその曲を一生懸命歌っている。マリーンの拙い手品パフォーマンスの部分は、見事な魔法に置き換えられている。

 教師をしているだけあって、視線を自分のほうへ向けさせるのがうまい。いや、これはもしかしたらステージに立つ才能があるのかもしれない。

 

「今日は魔女っ子ルーラとの対決なので、アンコールはなしです! ありがとー!」


 見入っているうちに三曲の歌唱とパフォーマンスが終わり、デリアが客席に手を振りながら舞台袖にはけてきた。

 明るい場所から暗い場所へと戻ってきて、デリアの顔がパフォーマーのものから素に戻る。


「ステージ、すごくよかったよ! マリーさん……マリーンが見たら、めちゃくちゃ喜んだと思う。生徒たちも喜んでたみたいだし、大成功だね」


 私が手放しで褒めると、デリアは驚いたように口をパクパクして、それからフンッと顔を背けた。どうやら、照れているみたいだ。


「あんたもせいぜい、良いステージにすることね。生徒たち、ものすっごく楽しみにしてるから。あんた、都市部でのコンサートがほとんどで、こっちにあんまり来ないじゃない。だから、凱旋コンサートのつもりでやんなさいよ」

「わかった。――行ってくる」


 私が手を掲げると少し遅れてデリアも意図を理解したようで、手を挙げた。ぎこちなくハイタッチを交わしてから拡声器マイクを受け取り、私は袖からステージに出る。

 杖をひと振りして、七色に光る光球を真上に浮上させると、客席がざわめいた。

 そこで間髪を入れずに曲を流す。

 まずはデビュー曲、「私に魔法が使えたら」。

 そこまでヒットしたわけではないけれど、デビュー曲なだけあってやっぱり一番よく流してもらっている曲だ。だからみんなにの耳にも馴染みがあって、すぐに手拍子してもらえる。

 曲に合わせて踊りながら、その振りと歌詞に合うように魔法を使う。光の小鳥、花びら、キラキラの粉を舞わせ、軽く宙に浮き上がってみせるのだ。

 魔法に憧れ、魔法が使えるようになった女の子が、夢を叶えるために旅に出るという歌詞だ。だからこの曲は、魔女っ子ルーラの物語として認識されている。

 歌い終えると、客席から大きな拍手をもらえた。デリアの色に染まっていた客席が、ルーラの色に変わるのがわかる。


「聞いてくれてありがとー! 『私に魔法が使えたら』でした。次は『マジでマジカル☆恋はミラクル』『魔法の箒で飛んでいくわ、ダーリン』『恋の呪文はピンクのルージュで』です!」


 手を振って、メドレーの曲目を紹介すると、歓声があがった。

 盛り上がってきている。楽しんでもらえている。それがわかって、私の身体の中もわくわくが溢れてくる。

 だから、思いきり張りきって杖を振る。

 杖で光るハートを描いて会場中に振らせたり、待機させていた箒を呼び寄せてくるりと客席の上を飛ばせたり、紙吹雪を振らせて小さなお菓子に変えたり、実際のコンサートでも人気の魔法を使ってみせた。

 客席に目をやってみると、みんなが笑顔なのがわかった。キラキラしている。

 その中に、マルク先生の姿があるのが見えた。中段の端っこで、こっそり聞いている。

 そのことに気づいた瞬間、私の胸はこれ以上ないってくらいに高鳴った。

 ――先生にステージを見てもらうの、夢だったんだ。

 叶わないだろうとあきらめていたことが、思わぬ形で叶った。

 それが嬉しくてたまらなくて、マイクを握る手に自然と力が入る。


「こうして突然歌うことになって戸惑っていましたが、みなさんが楽しんでくれたようでほっとしています。次が最後の曲です。それでは聞いてください。『魔法の夜に会いましょう』」


 これが本当のコンサートだったらもっと長くおしゃべりをするのだけれど、今日はあくまでデリアとの対決だ。

 だからトークは短めに、ステージの締めに入る。

 照明をすべて落とし、杖の先に小さな光を灯す。それをひと振りすれば、蛍のような、流星群のような、小さな瞬きで会場が満ちた。

 それに合わせて流れ始めたメロウな曲を、ゆったりと丁寧に歌い上げる。

 これは、作詞の一部を担当させてもらったものだ。何か大人っぽいものを一曲作りましょうというもので、路線変更も兼ねていた曲だ。

 魔女っ子なのに大人っぽいとは何だろうと思っていたものの、仕上がりとしては満足なものになった。だってこれは、先生への恋心を歌った曲だから。

 ――叶わなくていいから、少しでも伝わって欲しい。私が先生のこと大好きだって、ちょっとは気づいて欲しい。

 そんなことを思って、こっそり先生のほうを見てみた。そしたら、先生と目が合ってしまった。

 先生は、他の人たちみたいに手拍子をせず、じっと聞き入っていた。

 それが嬉しくて、これまでにないほど熱く想いを込めて歌い上げた。

 だからだろうか。歌い終えてもらった拍手は、これまでもらったどの拍手よりも、耳にも胸に響いた。

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