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転校生は宇宙人   作者: みや☆もと
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プロローグ  〜墜落少女と月面少年〜

はじめまして。みや☆もと と申します。

今時の流行とは、到底噛み合わない内容となっておりますが(笑)、伝えたいことの十分の一でも伝われば、これ幸いと思っております。


まだ、投稿の仕方さえよく分かってない状況ですが、連載物と言うことで、ちょいちょい最新していければなと、考えております(そもそも連載できるのか? 汗)

乱文、雑文あるかと思いますが、興味を持たれましたら一読していただけると、泣いて喜びますので、気長に、お手柔らかにお願い致します。

             

               プロローグ  『月面少年と墜落少女』



   


 なんで飛行機はとべるんだろぅ? 飛んでいるものを目にして、そんな疑問を持つ者は大勢いるのかもしれないが、実際その大半は深く考えてなどいないのだろうな、などと、どうでも良い思考と倦怠感に襲われながら、少女ばボンヤリと窓の外を眺めていた。

 母に連れられて、正月をよく分からない海外の高級ホテルで何日か過ごし、退屈な新年を嫌という程味わい、今ようやく家へと帰る機中であった。年頃の娘が高級ホテルに宿泊するとなれば、飛んで喜びそうなものだが、いざ泊まってみれば、やたら堅苦しいばかりでこれっぽちもはしゃげず、割りと退屈な現実しか待ち受けていなかった。母親といえば、正月気分などおかまないなしで、新年早々から仕事全開の様相で、ラウンジやらロビーやらで、背広姿の男達と何やら熱心に話したり、資料を挟んで説明したりしていた。

 こんな事なら家にいれば良かったと、少女は後悔していたが、家に残るといっても、それはそれで却下されることなど十分承知していたので、ただ黙ってついて来るしかなかった。ただ、それもようやく終わろうとしている。

 ファーストクラスの特製シートは、少女の軽い体重を柔らかく包み込み、鉄の固まりである大型旅客機は悠然と大空を飛行し、去年大ヒットした恋愛ドラマの映画版が専用モニターに再生されていても、少女の心は地球の中心に向かって、どこまでも落ちていく重力のようであった。

 機内アナウンスが何やら告げた後、女性スタッフが食事はどうするかと聞いてきたが、精一杯の作り笑いを浮かべ「いいです・・」と答えるのがやっとだった。窓へ顔を向け直すと、窓に映る母親の姿がスタッフにあれこれ質問している様子が目に入った。隣に座っているはずなのに、その声は遠く冷たく聴こえる。

「トワ、本当にいらないのね?聞いてるの?」

「おなか、へってませんから・・大丈夫」

母親は、少しだけ少女に視線を止めた後、スタッフに何やら告げて下がらせた。すると、手に持っていた仕事用のファイルに視線を戻し、そのまま自分の世界へと帰ってしまった。

少女にとって、自分の母親と、女性スタッフの営業スマイルへの評価は同じレベルであった。

「好きになれない」少女は自分の母親が嫌いだった。

そんな母親の事を、同じクラスの女子達はかっこいいなどと言う。有能なキャリアウーマンで、見た目もそれなりにすらっとし、シンプルだが優雅な曲線美の外国車を走らせ、住む所は高級マンションの最上階とくれば、年頃の少年少女でなくても、そうも言うだろう。

 母親がどんな仕事をしているか、具体的には知らなかったし、知りたくもなかった。外資系などと言われても、少女にとって、なんら興味をそそられる問題ではなかったのだ。そんな内面世界だけを見れば、わがままで贅沢な娘と言われそうだが、周りからの実評価は、大人しくて目立たない優しい子、と分類されていた。事実そう振る舞ってきただけの話だが。

 今でこそ特製シートに沈む大人しい十五歳の少女だが、小学3年生位までは活発な子供であった。腕を振りながら公園を走りまわる、何処にでもいる普通の子共。

 その頃の少女には、まさに世界は輝いて見えていた。色彩に溢れる毎日、驚きと発見、過ぎていく輝やかしい時間・・・特製シートに沈む少女の脳裏に、その頃の自分が浮かんでは消えていく。束の間の過去を彷徨っている間に、眠気が段々と押し寄せて来て、頭の中を支配していく。

 やがて過去の映像が、夢のフィルターを通り、瞼の裏に広がっていくのがわかる。

太陽光に照らされて舞う蝶々、揺れる木漏れ日、優しく揺れる木々の葉音、宝石のようにキラキラする河の流れ、乗れば飛んでいけそうな風、空に開いた穴、友達と鳴らす鈴の音、月の向こうから呼ぶ声、しゃぼん玉、遥か空高くから垂れ下がる紐、空を歩く人形の影・・虹色のモヤモヤ・・・山の向こうに真っ直ぐ落ちていくオレンジ色の光り・・・・夜に見える太陽・・・・・母のヒステリックな叫び。

「はっ・・!」

ほんの数十秒だった。束の間の夢から覚めると、少女はゆっくりと深呼吸をした。横目で母親を見たが、何も気付いていない様子だった。「よかった・・」気付かれたくなかった。少しだけ背中が汗ばんでいたが、かまわず眠ったふりをしようと思った。体ごと窓の方へ向けると、心の中でいつもの言葉を念じる。

「見えてない、見えない、本当は何も見えてない。見てない見てない、もう見ない」

そう自分に言い聞かせた。

「これで何百回目だろう、いや何千かな?、いやもっとだったろうか?もう見なくなってどれ位だろうか」

次第に心が落ち着いていくが、同時に胸の内が重くなっていくような感じがする。

「これも何回目だろうか」

少女から眠りの世界が遠のいていく。重い気分だけが置き去りにされる。

「これも何度目だろう。そして、これからあと何回繰り返せば良いんだろうか」

何かが更に重くなって行くのを感じる。こんな感覚にはもうウンザリしているのに、止める術を見つけられない。いつもこうだ。

 もう一度固く眼を閉じ直すと、去って行った眠気の残像を探してみる。しかし、体のどこかに感じる不可解な重みばかりが知覚され、上手くいきそうもなかった。

 仕方なく目を開けた。外の景色でも見て、少しでも気分を変えようと思ったが、窓の外も変わらず、眼下に広がる雲海ばかりしか見えない。少しだけ変化があるとすれば、沈み行く太陽がほんのりと紅く世界と少女の顔を染めているぐらいだった。

 眼に入る夕日の光を調整しようと、窓に設置されている調整ボタンに手を伸ばす。透過光量を調整し、窓そのものがサングラスの様に黒く色を濃くしていく機能は便利で、景色を全て遮断してしまわない所が、少女のお気に入りの機能だった。

 程よく窓の色合いを調整し、ボタンから指を離そうとした時だった。

「んっ?」

 遠くに何かが見えたような気がした。はじめは、暗くした窓に機内の明かりが映り込んだのだと思ったが、あらためて目を凝らして見ると、それは外で起こっている現象に間違いないようだった。雲海と空の間に伸びる平線の真ん中から、蛍のような淡い光が明滅したかと思えば、それは一瞬のうちに巨大になった。つまり、ものすごい速度でこちらに向かって来たのである。その正体が何であるかなど、考える暇は無かった。

 


 何故か音は感じなかった。


 

 突然襲いかかる物凄い衝撃と冷たい空気。大穴の開いた機体から吸い出されて行く様々な物。

思い出や正義や悪意など関係なく、理解する間も無く投げ出されて行く老若男女、そして少女の母親。

「お母さ・・待っ・・」

 何もかもがスローモーションに感じた。状況を理解することなど不可能だった。母親の投げ出された方を振り返る事も出来ずに、なす術もなく自分の体さえも無慈悲な世界へと吸い込まれて行こうとしている。

 遅れて恐怖と混乱が少女を包み込もうとしていくが、まともに声など出なかった。出ていたとしても、その耳は既に、機能の限界を超えてしまっていた。シートにしがみ付く自分の手が、他人の物のようにガタガタと震て止まらない。急激に高度を下げて行く機体は、まるではらわたを食い破られた巨大生物のように、その巨体を苦痛に捻じ曲げながら落ちていく。

「いや・・怖い・・何これ?怖いよ助けて・・誰か助けてっ!」

 その一瞬、少女は誰かの声を聞いた様な気がしたが、それも一瞬にして飛びすさり、やがて意識もろとも暗黒へと飲み込まれていった。

   










 電車の走る音で我に返った。リビングの窓から見える路線は遠いはずなのに、妙にハッキリと聞こえたような気がして、無意識のうちに窓の外を凝視する。

「どうかなさいました?」

家政婦のマキの声に、ビクリとした。

「え? いっいやなんでもないです。くしゃみ、、くしゃみが出そうになって・・」

「あらあら、最近急に気温が下がりましたからね、新年から風邪ひかないようにしてくださいね」

「あ、はい。そうですね、有難うございます。気をつけます」

月野家の朝食を彩る純和風なメニューに目を落としながら、トワは独り言のように応えた。

「奥様、今晩お帰りですね。何時もの肉じゃが、作っておきますからね」

トワは応える代わりに、首をちょっと動かして了解の意を示した。家政婦のマキは、そんなこと御構い無しにいつでもニコニコ顔で、幸せそうな感じを漂わせている。誰が見ても人の良さそうな近所の奥さんといった具合だが、対照的な感じのトワは、当たり前だが、どう見てもマキの親戚には見えない。細々と米粒を口に運んでいる姿はどこか頼りなさげな少女そのものといった感じだ。

 そんな家政婦を横目に、トワは内心落ち着かなかった。いつの間に朝になっていたのだろう?なんだか頭がぼーっとしていて朝食までの記憶が定かでない。昨日、何時頃寝たのだろう。いつの間に着替えて、いや新年から家政婦のマキが何故ここに居るのだろう?毎年故郷の北海道に帰っているはずである。思い出そうとすればするほど、記憶が霧のようにボヤけてはっきりとしない。トワは自分の頭がどうにかなってしまったのではないかと不安になってきた。

「あら、天気予報の時間ですね」

マキがリモコンを操作してテレビをつけると、何時ものお天気キャスターが画面に映し出される。この寒空の下で、ひきつった笑顔を浮かべたキャスターの口からは、白い息が漏れ出していた。

「えー、昨年から続いている寒波のせいで、今日も一段と冷え込みが増しそうなんですが、日本海側では雪の可能性がありますので、十分注意してください」

テレビとは言え、寒そうな白い息を見ていると、こちらまで寒くなって来る気がしてならない。

「えっ?はい? ええっと、ここで急ではありますが、速報です。えー速報が入っておりますので、報道センターに切り替えます」

途端に画面の中で緊張が走った。トワ達の箸も何事かと止まる。

「はい、報道センターの矢口です。予定を変更してお知らせ致します。えー飛行機の墜落事故です。先ほど、太平洋沖で、アメリカ、ロサンゼルス発の大型旅客機が消息を絶ち、日米の調査隊が捜索した所、機体の一部と思われる金属片が海上に漂っているのを発見したとの知らせがありました」

マキの手から箸が転げ落ちた。

「ああ嫌ですよっ。そんな、まさか!」

青ざめた顔で、慌てて携帯電話を取り出す。キャスターが早口に伝えてくる情報は、無情にも月野家の主人である、トワの母が搭乗しているはずの航空会社と機体名を告げていく。キャスターの前に、新たな原稿用紙が投げ込まれると、ロサンゼルス発、東京行きの発着予定時刻等を読み上げる。

「そんな・・嫌ですよ奥様、出て下さい電話に出てください電話に」

マキは完全に気が動転していた。同じ言葉を念仏の様に唱えながら、見開いた目はテレビ画面に釘付けになっていた。

「トワさん落ち着いてくださいね、私がかかか確認しますから落ち着いてね」

狼狽しながら立ち上がったマキは、キッチンへと走り込んで行く。しかし声のコントロールを忘れているのか、警察に電話している大声が耳に入ってくる。一方トワといえば、茫然自失とテレビ画面を見つめていた。

「・・・なんでだろう、私知ってた」

 突然、目の前の空間が歪み、部屋全体が捩れた。そして冷たい突風が吹き荒び、テーブル上の物を吹き飛ばしていく。巨大な掃除機にでも吸い込まれて行くように、家の物が窓の外へと投げ出されていく。だがおかしい、緊急用の酸素マスク、どこかで見た特製シート、キャビンアテンダント、母が見ていた書類、次から次へとトワの前を飛び去って行く。そんなはずはなかった。あれは夢のはずだった。目が覚めれば終わっている悪夢のはずだった。吹き荒れる轟音に体を飲み込まれながら、頭を抱えて叫ぶ事も出来ない。混乱と絶望が目の前に甦ってくる。トワは今、高度数千メートルの世界へと投げ出された。















 少年には自分の名が無かった。少なくとも今までそうする必要がなかったからだ。

 線の細い少年は、腰に手をあてて深遠なる遥か宇宙を見上げていた。嘘みたいに輝く満天の星空は、宝石箱をひっくり返したようだと例えても、決して大げさではないぐらいに輝いていた。が、ふと少年は思った。そう言えば、宝石箱をひっくり返した様子と言うものを、実際に見た事がないな、と。記憶の羅列をざっと閲覧してみたが、やはりどこにも無かった。少年は口元を緩め、そんな自分がすこし可笑しく思え、一人微笑みを浮かべた。

 無音の風が少年を包んでいた。この体で感じとれるものは静寂だけであり、そのルールに完全に従えば、死と言う別の静寂が待っている事もよく理解していた。だが今、その静寂に一石を投じる揺らぎを感知した。少年の背後、少しばかり遠くでそれは波紋のように広がろうとしている。

 少年は眼を閉じた。視覚という感覚がたまに煩わしく思う事もあるが、今は雑念を受け流し、背後の揺らぎに意識を集中させる。

「これは面白い。だが厄介だ」

思わず口が動いた。だが音声は無く、思念だけが小さな渦を巻いて消えた。

 少年は眼を開けると、再び満天の星空を見上げた。すると、背後上空から何かが落下してくる気配が感じられる。落下といっても、軽い羽根がふわりとまっすぐ落ちて来る感じに似ていた。だからと言って、そちらに顔を向けるわけでも無く、少年の瞳は、変わらず輝く光の渦に向けられていた。

 今この場所で、一番の混乱を感じていていたのは、落下してきた少女だったろう。気が付けば眼前に灰色の地面が迫り、自分が落ちているのか、巨大な壁が迫って来ているのか、咄嗟に判別がつけられない状態に追い込まれていたのだから。

 神にひれ伏す敬虔な信徒の様に、しばらく地に平伏していたトワは、暴走する心臓の鼓動と荒い呼吸に我を忘れていた。次第に、自分がどこかにへたり込んでいるのを知覚すると、少しばかり戻って来た理性に、生き残るための活動を開始するように説得され、考えるよりも無意識に頭を上げ、状況を確認しようと目が動き、危険から身を守るため、両腕は自分の身体を抱き締めた。目が回っていたが、呼吸と共に落ち着き始めていた。ぼやける視界の先に、人影のようなものが見えたが確信がなく、焦点を合わせようと目を凝らした。すると歪んでいた映像が徐々に戻り始め、確かに誰かがいるようだと分かった。なんとか助けを呼ぼうと口を動かしたが、上手く声が出せない。声が駄目なら近付こうと試みたが、今度は腰が抜けて脚が動かせない。いよいよ全身の力が抜けてガックリとうなだれた時だった。

「君の言わんとしている事は分かるから心配しなくて良いよ。でも、それにしてもすごいね。今の今まで誰も成し得なかった時空間移転操作を、人類史上初めて自力でやってみせたのだから、僕は歴史的瞬間ってやつに立ち会っているのかもしれないね」

 トワの頭の中に声が聞こえてきた。耳で聴く音声とは明らかに違う不思議な感覚だ。余りにも唐突な出来事だったので、トワの理性がいよいよ限界を迎えそうになってきた。

「繰り返すけど、心配しないで良いんだよ。ほら、景色でも眺めて落ち着くといい」

少年の優しく落ち着いた声が、頭の中に染み込むように流れ込んでくる。何故だろうか、不思議と心が落ち着いていく。次第に緊張が解け、体のコントロールが戻り始めると、トワはよろめきながら立ち上がった。

 見知らぬ土地に放り出された迷い子のように、キョロキョロと頭を動かす。だが、すぐに目が頭上一点に釘付けになった。頭上に輝く満点の星空に圧倒されそうになる。星が見えるから夜なのだろうか、しかし辺りは昼間の様に明るく、地平線まで見渡せる。そう、何処までも続く灰色の砂の大地だ。所々丸い巨大な模様が見て取れたが、それが何なのか今は分からなかった。それにしても、トワの視線を吸い寄せるあの星の輝きはどうしたことだろうか。この一瞬のうちに、混乱も恐怖も風のように過ぎ去り、むしろ感動の涙さえ出そうである。それほど圧倒的な光景だった。

「少しは落ち着いたかい? ああ、それと景色でも眺めてなんて言ったけど、君はあまり見すぎない方が良いかもね。何かと目が合ったら、ろくな事にならないからね」

 少年が振り返ってそう言った。トワの視線が少年の顔へと移る。自分とそう歳の変わらない少年がこちらを見ていた。細身に白の上下、星の輝きさえ吸い込みそうな黒い髪。それによく見ると、全身が少し光っている様にも見える。星を見過ぎたのだろうか、思わず見とれてしまった。

「あっ・・は、始めまして・・コンニチは」

「はっはっは! すごいね君は。無音声意思伝達まで出来るなんてねえ」

「え?」

「ざっくり言えばテレパシーってやつさ。今だけかもしれないけどね」

「あの・・」

「ここは何処で、僕は誰か、かい?」

「は?はい」

「僕は、そうだなー・・なんて言えばいいんだろうね?まあ、それは別にいいとしても、ここは君も良く知っている所で、月の裏側さ。あ?月の裏側ってそっちから見えないんだっけ?まあ、それは別にいいか」

「月の?ウラ?」

「ほらほら、あまり考えすぎると良くないよ。それに、此処はあまり長居する所じゃない。特に君みたいな人はね、月野トワさん」

「え?なんで、なんで私の名前?どっかで会いましたっけ?」

「はっはっは、ホント面白い人だね君は。でもさあホラ、帰り道は用意したからもう帰らなきゃ。ほんの少しでも心配してくれる人がいるなら、その価値は十分にあるはずだよ」

 その言葉に釣られて、トワは思わず背後を振り返えった。だが、道も車も見当たらない。相変わらず見渡す限り灰色の砂の世界だ。

「あの、すいません。ここ・・どこでしょう?」

「だから言ったじゃないか。ここはお月様さ。君がもっと小さい頃、よく見上げていたあれさ。でもまあ、何ていうか、月にいる月野さんてのも面白いね、ははは」

 トワは目眩がした。この短時間で起きた事柄にか、今目の前にいる少年に対してか分からなかったが、とにかく目眩がしてきた。

「おっと大丈夫かい? ああ、それと僕は頭のおかしな人間ではないよ。いや、君から見れば十分おかしな奴かもね。ふふふ。あとね、色々しつこいようでナンだけど、ポケットの中をいくら探しても、携帯電話は見つからないよ」

「え?」

「しかし、君は今の所驚いた顔しかしてないね。無理もないか。うん、君のためにもう一度簡単に話をしてまとめるとね、ここは月で、僕は名もなき少年ってところかな。そして君は空から舞い降りて目を丸くしてる、月野トワ嬢と言うわけさ」

「私、一体どうやってこんな所に」

「いやいや、自分で降って来たんじゃないか月野さん」

「あの・・すいません。私、真剣なんです。お母さんとはぐれちゃって。その、だから教えて下さい。この近くに街とかありませんか?」

少年は、トワの困惑する様子を見て優しく微笑むと、無言でトワの背後を指差した。

「?」

「丁度いい。ほら、街だよ」

 トワは、再び自分の背後を振り返った。そして絶句した。砂の地平線から昇って来たのは、地球だったのだ。しばらく、あんぐりと口が開いたままになってしまった。自分が見ているコレは現実なのか?幼い頃見ていた、あの幻覚達が、またはっきりと見えるようになってしまったのだろうか。克服した気になっていて、実は、自分は既に病院のベットの上で意識の戻らぬ体を寝かせているだけなのではないか。

「残念だけど、コレは皆現実なんだ月野さん。君にとっての現実世界なんだよ」

少年は、再び背を向けると、輝く星へと視線を戻した。

「迷子の君のために、良く見える位置に移動させてもらったんだけど、うん、やっぱり惑星の反射があるとちょっと視界が鈍るなぁ・・・さあもう帰るんだ、怖がらないで安心していいよ。焦らなくても、こちらから会いに行くから」

 トワは、身体中に引っ張られるような感覚を覚えた。すると地球がグニャリと丸く捻れたように歪み始め、そして今度は、その歪んだ空間目掛けて吸い込まれるように落ちて行った。



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