第七章:覚醒・前編
深い深い眠りの中…
僕は誰かを追いかけている…
自分も何が目的で追いかけているのか全く判らない。
…でも追いかけなければいけないような気がするのだ。
…だから僕はひたすら追いかけ続ける。いつか、その人に追いつける日が来るまで…
…そして、美紗と映画を観に行ったあの日から夢に変化が現れ始めた。
毎回変わる景色…
今までは気にはなっていたが、その景色に見覚えはなかった。
でも最近は、その一つ一つの景色に微かに見覚えのあるものがあり、時々何かを思い出しそうになる。
そして、追いかけている誰か…
距離も前までは開くばかりだったが、最近では段々と離されるスピードも遅くなり、時折少し距離が近づいているような気さえする…
そして、その誰かの後ろ姿もどこか見覚えのあるような気がするのだ。
その姿ははっきりとは思い出せないが、何だかとても不思議な気持ちになる…
その変化もあってか、僕はその誰かに声を掛けてみようと思った。
拓斗
「…あ……」
思うように声が出てくれない…
でも、僕は諦めない。目一杯の力を込めて僕は頑張った。
拓斗
「…まっ…て……待って…」
必死に声を出そうと頑張り続け、ようやく少しずつ声が出てくるようになった。
拓斗
「…待って…君は……君は誰なの?」
声が小さかったのだろうか…その誰かは僕の声に全く気づかず、そのまま走り続けた…
拓斗
「待って…僕の話を……あっ…」
もう一度、気づいてもらおうと声を掛けようとしたその時…
足が何かに引っかかり、バランスを崩してしまった…
…気づいた時、もうその視線の先に追いかけていた人の姿は無く、あるのはただひたすら広がる地面…
そのまま前に倒れてゆく…ゆっくり…ゆっくりと…
拓斗
「…はっ…!」
僕は身体が地面に叩きつけられるギリギリのところで夢から覚め、飛び上がるように起きた。
…窓の外はまだ薄暗い。
時計を見ると時刻は5時11分を指していた…
僕は10分ほど休んで、一階の居間へ向かうことにした…
兄が起きないように静かに階段を降りてゆく…
…一階は物音一つ無く、静寂に包まれていた。
どうやらまだ誰も起きていないらしい…
僕は台所へ行ってりんごジュースをコップに注ぎ、それを持って居間へと向かった。
ソファーに座るとふとさっきの夢の事が気になった…
…さっき観た夢はいつも観ている夢と何かが違う…
僕は率直にそう思った。
いつ頃からか、こんな夢を毎日観るようになってしまったのだが、今までは景色は毎日違っていても、ただ追いかけているだけの夢だった…
でもさっきの夢は、ついこの前まで全く変わらぬ展開で毎日観ていた夢に進展があったのだ。
最近観る夢に少し違和感はあった…
周りの景色で何かを思い出しそうになったり…
追いかけている誰かとの距離が少し縮まっていると感じたり…
…でも、それだけでは決定的な進展には繋がらなかった。
対してさっき観た夢には明らかな進展があった。
『…追いかけている相手に話し掛けることが出来たこと…』
本当はもっと前から出来た事かもしれない…
でもやろうとは思わなかった。
ついこの前まで観ていた夢はただ追いかけ、ただ置いていかれる……僕はこの夢に特に意味はないのだと思っていた…
でも、最近になってそれは変わり始めた。
初めはほんの些細な違和感からだった…
『景色』
最近になって景色の中に見覚えのあるようなものが出てきて、その違和感は芽生え始めた…
景色の中には何度か夢に出てきているものもある。
それなのに、今まで全く見覚えの無かった景色が急に見覚えのある景色に見えるのはおかしい…
それも美紗と映画を観に行ったあの日から…
もしかしたらイルカのキーホルダーを見たあの時から、僕の中で何かが動き始めたのかもしれない…
まだはっきりした事は判らないが、見続けている夢とあのキーホルダーを見た時に一瞬頭をよぎった事が何か関係し合っている可能性はあると僕は思う…
その違和感を感じ始めてからすぐに、夢に微かな変化が現れ始めた…
僕は夢の中ではいつも誰かを追いかけている。
その人が誰なのかは判らない…
僕が何故その人を追いかけているのかも判らない…
でも、僕は夢の中でその人を追い続けている。
前までは、追いかけてもその距離はどんどん開いて最後には見失ってしまうというワンパターンな展開だった…
でも最近になってからは、追いつけはしないものの、開く距離は日に日に小さくなっていて、距離が縮まっていると感じる時もある。
いつも結局は見失ってしまうのだが、それだけでも今までからすれば『変化』と言えるだろう…
だが、それは確実な事ではなく僕の思い込みでしかない…
でも、もしかしたらこの夢の展開が変わるかもしれないと思ったのも事実…
…だから、僕の手で展開を変えてみようと思った。
そして…僕は話し掛けた。
結局その誰かは僕には気づいてくれなかったけど…夢の展開は変える事ができた。
自分から一歩を踏み出して展開を変える事が出来たのがとても嬉しかった…
そして、僕は思った…
『夢は僕に何かを伝えようとしている………でも、それを知るためには僕自身が一歩前に踏み出さなければならないのかもしれない…』
始めは不思議な夢としか思っていなかった…
だが、些細な事をきっかけに運命の歯車は廻り出し、勢いを増してゆく…
そう…少しずつ…着実に…
今回はストーリーの構成に手間取ってしまいかなり時間がかかりました。
ここからが一応後編なので、ストーリーの展開が難しくまだまだわからない状況です…
そのため、文章もいつも以上に読みにくいものになっておりますが、最後まで読んで頂きありがとうございました。