第三章:遅刻
学校までは一直線の道のり、5人は全力疾走で駆けていた…
周囲の人々を次々に追い越してゆく…
だが、ふと気づくと啓介の姿が見当たらない…
拓斗
「…あれ?啓介は?」
近くを見渡すが見当たらない…
剛毅
「あれじゃねーか?」
剛毅は後ろを指差した。
…そこには物凄い格好で倒れている啓介の姿があった。どうやら、全力疾走中に自転車と正面衝突したらしい…僕らは前を走ってたからわからなかったけど………
美紗
「ねぇ、助けに行った方がいいんじゃないかな…」
剛毅
「いや、あれくらいならアイツは大丈夫だ。…それより早く行かねーとヤバいぞ。」
一輝
「そうだな…」
そう言って剛毅と一輝は走り出した。
美紗
「ちょっ…ホントにいいの?」
拓斗
「啓介………ごめん。」
僕も走り出した。
美紗
「え、拓斗まで?」
剛毅
「ほら、美紗ちゃんも早くしないと遅れるぞ!」
美紗
「え……あ…うん、啓介くんごめんね…」
4人は啓介を置いて再び学校を目指し走り出した。
啓介が
「…お…おい…お前ら…俺を見捨てるなぁ!!」
と言ったように聞こえたが無視する事にした。
拓斗
「ふぅ……なんとか間に合った…」
8時33分…啓介を除く4人はようやく学校に辿り着いた。
先生
「そこ!もうすぐチャイムが鳴るから早く教室に行きなさい!」
4人
「はーい」
…休んでいる暇はない。
4人は急いで階段を昇り2年3組の教室へ向かった。
ホームルーム
先生が今日1日の行事などを連絡している。
啓介はまだ登校してきていない…
拓斗
「啓介…まだかなぁ…」
剛毅
「ああ…」
剛毅はなにか考え込んだように相づちをうった。
拓斗
「どうかした?」
剛毅
「お前、知らないのか?」
拓斗
「ん?何が?」
剛毅
「そうか…アイツ高校になってからこうゆうこと少なくなったからな…」
拓斗
「??」
剛毅
「いや、中学の頃はこうゆう事がよくあったんだよ。……そのたびにアイツ…」
拓斗
「どうしたの?」
剛毅は少し溜めてこう言った…
剛毅
「アイツさ、学校に遅刻した時に必ずおんなじセリフで言い訳すんだよ…」
啓介の事なのでおおよその事は予想出来るのだが…一応聞いてみることにした。
拓斗
「……どんなの?」
剛毅
「聞いてもシラケるなよ。」
拓斗
「う…うん。」
剛毅
「アイツ、決まって言い訳におばあさん背負って横断歩道渡ってましたって言うんだよ…」
拓斗
「………」
剛毅
「やっぱシラケたじゃねーか。」
拓斗
「あ…ごめん…」
啓介が深く考えられないのは判っていたのだが正直ここまでとは思わなかった…啓介に限ってそれはあり得ない。
ガシャ!!
突然、前のドアがひらく……入って来たのはやはり啓介だった。
啓介
「…遅刻しました…」
先生
「…どうして遅刻した?」
啓介は黙り込んだ。恐らく必死に遅刻の言い訳を考えているのだろう…顔から冷や汗が流れている。
拓斗
「…本当に言うの?」
剛毅
「ああ、黙って見てろ、言うぞ!」
そう剛毅に小声で言われ啓介の方をみた。
先生
「どうして遅刻したんだ?」
啓介
「…えっと……お…おばあさん背負って横断歩道渡ってまし…た……」
シーン……
啓介の言葉で一瞬にして教室が静寂に包まれた………
啓介
「え……俺何か変なこと言った…?」
担任の先生は1年生の時、剛毅と啓介の担任だったこともあり事情は知っているようだった。
先生
「伊藤……お前の周りはおばあさんでいっぱいだな…」
ボソッと言ったのであまりよく聞こえなかったが先生がそう言ったように聞こえた。
啓介
「先生…何か言いました?」
先生
「…いや、なんでもない。席につきなさい。」
啓介
「はい」
緊張がほぐれたのか啓介は崩れるように席についた。
ただ、この冷めきった静寂はこの後昼休みまで続く事になる……
昼休み
5人は食堂へと向かった。
啓介
「あー腹減った。今日は遅刻ですっごい頭使ったから沢山食えそうだ。」
やけに啓介と他のメンバーとの温度差が激しい…
啓介
「どうしたの?皆シーンとして……」
やはり、自分では毎回同じ言い訳をしていることを自覚していないようだ。
剛毅
「…別に…シーンとなんかしてねぇよ、な、拓斗?」
拓斗
「え…あ…うん…」
テンションが上がらない…他の皆も苦笑いしていた…
ようやく皆のテンションが元に戻ったのは昼食を取りはじめてからだった…
ふと今朝ので気になった事を思い出したので啓介に直接聞いてみることにした。
拓斗
「啓介…今朝のことなんだけど、なんで本当の事言わなかったの?」
啓介
「あぁ、ホントは言おうと思ってたんだけど、教室に入った時に緊張のあまり言いたかった言葉とんじゃってさ…」
拓斗
「ああそうなんだ……」
またテンションが下がった…
だがその時全てを悟った……今までも教室に入った瞬間に頭の中が真っ白になっていたんだなと……
啓介
「どうした?」
拓斗
「いや…なんでも…」
啓介は僕のテンションの低さに気づいたのか急に話題を変えてきた。
啓介
「なぁ拓斗、近々ゲーセンに新しいゲーム出るって知ってる?」
拓斗
「…知らないけど…いつ出るの?」
啓介
「いつ出るかは判らないんだけどさ、試しに行ってみない?どうせ今日は部活ないし…」
拓斗
「僕ならいいけど…」
啓介
「よし、剛毅も行くだろ?ゲーセン」
剛毅
「ああ、俺も行く。」
啓介
「じゃあ、放課後いつもの待ち合わせ場所でな。」
拓斗
「うん、判った。」
学校が終わり僕は急いで準備をし待ち合わせ場所へ向かうのだった……
今回は、学校での出来事をお話にしてみました。最後は会話が多くなってしまいましたが読んで頂いた方ありがとうございました。