第二話
鈍色の空から白雪がはらはらと舞い降る様を、ユキは愛でていた。
全てを、煩いもの全てを包み隠してくれる真っ白なそれは、此の世で唯一の、ユキの救いだった。
ユキ自身の容姿は雪に似れども、心には黒い嵐が吹きすさび。
稀に凪が訪れる日は、優しい雪の日が多いように思う。
目に映る世界は、決してユキに優しいものでは無かった。
世界は、当たり障りない人間を好む。
世界は、衝動で行動しない理性を好む。
世界は──異質なものを、叩き潰し排除する。
排除の仕方は汚泥よりも汚いものだ。
あたかもおのれらが善そのものであるかのように、鋭利な正義の刃を向けてくる。
異質なユキがどんなに世界の曖昧さを叫んでも、世界の確固たる存在を信じて疑わぬ人々は、日々を、時の流れを正とし、善とする。
──ああ、煩い。
生きる意義?
人類の発展?
教科書を鵜呑みにしたように稚拙な言葉を並べる人々よ、何故自らの生を疑わぬ?
情熱、愛情、楽しさ。
それらは決して永続せぬというのに、人々は何故笑う?
明日の命さえわからぬ世界で、何故明日を夢見る?
何故、何かを楽しみにすることが可能なのだ?
問えば、雪より冷たい氷の眼差しが多数、ユキを囲んだ。
この子はおかしい、この子は歪だ。
──煩い、なあ。
聞きあきた言葉に耳をふさぎ、ユキは毎日のように書物を読みあさり、そして気づく。
人間の書いたものに、真実など無いと。
ユキが知りたいものは、人類の生まれた意味、宇宙の彼方の歴史だった。
原初を知るには、眼を閉じねばならない。
ユキは、だから、雪の日が好きだった。
全てが隠され、静寂が現れる。
静かなるもの、声なきもの、真実が。