とりあえず最初の勇者を送ってみました。
西暦2004年。
私の名はアース。
地球と呼ばれる星を管理する神です。
世界の最高神様からこの任を任せられています。
地球が誕生してから長い長い時が経ち、今ではかなり発展した星となっています。
他の異世界を管理する神と話をしていても、私が管理する地球はズバ抜けて発展がめざましいと評判です。
管理者としても非常に鼻が高いです。
さすが私。
そんな地球ですが、最近困ったことがあります。
なにやら自殺者が増えて来ているのです。
現実に悩み、絶望し、自ら命を絶っていく。しかもそんな人に限ってこれから未来のある、中、高校生が多い。
私はどうしたらいいかと悩みました。
すると友達の神が「そういった人達を異世界に輪廻転生させて上げればいいんじゃないかな?」と助言をくれました。
なんでも異世界では、私の管理する地球と比べても圧倒的に人が少ないらしいのです。
しかし私は心配しました。
そんなことをして、最高神様がお怒りにならないのかと。
曰く、大丈夫とのこと。
「最高神様も異世界のひと気のなさに困ってるみたいだから許してくれると思うよ」
なるほど、と思いました。
確かに最近の他の世界の神は嘆いている様子を多々見せています。
特に最近は魔王やら邪神やら、自分達に楯突くような輩まで現れる始末。
私のところはそんなことがないから良かったなー。
しかしそれでも私は心配しました。
確かに私の管理する地球は他の異世界と比べても非常に技術が発展しています。
でも、異世界は科学が発展していない場所がほとんどです。
また、この地球ではお伽話に出てくるような、"魔法"という力もあります。
そんな場所でやっていけるのでしょうか。
「そこも大丈夫だよ。君の世界は僕らの世界よりも格段に上位の世界だ。その君の世界から来た人達は僕らの世界に元からいた人よりも圧倒的に強い力を秘めているはずだよ」
むぅ。
「だから、君たちの世界でいう"勇者"といった形で、こちらの世界に召喚、あるいは転生させて上げてはどうかな?」
なるほど。
それなら異世界にも迎合できるでしょうか。
モノは試しという言葉も地球にはあります。
とりあえずやってみましょうか。
私は友達の言葉に、「任せて!」と力強く言いました。
西暦2005年。
様々な準備をして、いよいよ最初の異世界転移者を発掘する日となりました。
さて、有望そうな人はいないかと探していたところ。
おお!
今、ちょうどトラックに轢かれた前途ある若者がいるではありませんか。
さっそく管理者たる私のいる部屋にご招待でーす。
「――こ、ここは!?」
黒髪黒目の、典型的な日本人。
いきなりのことで、とても驚いていられますね。
私は彼の状況を懇切丁寧に説明しました。
彼がトラックに轢かれて死んだこと。
あまりにも可哀想だったので、異世界に転生させて上げると言ったこと。
また、異世界は魔王と呼ばれる悪に侵攻を受けているから助けてあげて欲しいということも。
「あなたには異世界を救っていただきたいのです」
「……わかった。一度死んだ身だ。あなたの言う通り、世界を救ってこよう」
よかった。
彼は快く引き受けてくれた。
正義感の強い若者を選んだということもあったけど、二次元というある意味異世界っぽい物語がサブカルチャーとして確立している日本から選んだ甲斐がありました。
さすが私。
「それでは異世界にお送りしますね。それと、異世界に行く際にあなたの力になりますよう、神の力を授けます」
「ありがとう。では行ってくる」
そうして私は若者を転生させました。
その後、最初に転生させた若者の活躍はすぐに私の耳に入ってきました。
どうやらその若者は私が与えた力で魔王軍の侵攻を一気に押し返したようです。
そのまま魔王を討伐。異世界でお姫様と結婚。
幸せな人生を歩んでいる、と。
「君のおかげで助かったよ!」
その異世界の管理者である友達は大変喜んでくれました。
しかもなにやら他の異世界の神様からも依頼が殺到し、「私のところにも送ってくれ!」と評判になっている様子。
気分を良くした私は、天狗のように鼻を伸ばしながら快くそれらを引き受けました。
これが地獄の始まりだとも知らずに。