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マジック・マキシマム  作者: フィー
前編 第2章:獣人というものは
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第8話 極秘依頼

「国の人?」

 コリンは間の抜けた声を出す。


「はい。詳しくは中で聞いてもらえないでしょうか?」

 眼鏡をかけ、いかにも真面目そうな男の人はバッチをしまいながら言う。バッチはコリンの知るかぎりでは本物だ。


「は、はい」

 コリンはドアを大きく開けて、中に入るよう促した。バッチから見るに本当に国の人間であることは確かだ。

 コリンはドアを開けて、もう1人いることにいることに気がついた。


「そちらの方は?」

 ああ、と、国の人は手を彼に向ける。

「こちらは今回の依頼に同行してもらうライさんです」


「よろしくお願いします。ライです」

 黒に近い灰色をした髪をした人が丁寧に言う。

 目が大きく整った顔に浅い切り傷が3本右上から左下まで走っているのが目立つ。


「申し遅れました。私はこの国『アルル』の外務担当のシンジェル様の部下、ドレットと申します」

「よろしくお願いします。さあ、どうぞ」

 失礼します、と、ドレットとライは家に入る。


  3人がリビングに入ると、アスマスはライを見て、驚いた。

「ライ先生!」

 ライは声の方を向いた。

「俺のことを知っているってことは、ここの学校の生徒かな?」


 ここロンドには高度な学問をする学校があるのだ。


「はい!そうです! でもどうしてライ先生が?」

 アスマスは興奮しながら尋ねる。


 ドレットがヴヴンと喉を鳴らし、国の証明のバッチを出し、

「『カラフル』のみなさんに相談があってきました」

 「カラフル」一同は、眉を寄せてお互いの顔を見た。


「相談というのは」

  ドレットとライが空いている席に座り、お互いの自己紹介が済むと、ドレットが話し始めた。

「『ベアスト』の件です」

「なんだって?」

デオンが即座に反応する。


  ドレットはデオンを見て、そして「カラフル」の面々を表情を動かさずに見回す。

「『ベアスト』の王様2人に親書を届けてほしいのです」

  「カラフル」の面々は驚きの表情を隠せない。


「内容は?」

  デオンが尋ねる。


「ウルフェン王とレオン王にアルルと友好関係を築いてもらいたいというものです」

  一同は黙り、ドレットに続きを促す。


「アルルとベアストは昔から睨み合っています。時には相手を傷つけてしまうこともあります。我が王スレイヤー様はそのことに心を痛まれています。そして私たちは、ベアストの人にこちらに来てもらい、会談を開きたいと思いました。お互いに友好関係を築く、悪く言えば相互不干渉を約束したいのです」

  ドレットはできるだけ丁寧に話す。


「そんなことでは状況は変わらないと思うのですが」

  デオンは賛成したいのだろうが、なにか躊躇っているような表情をしている。

「そうかもしれません。しかし何事も行動がなければ始まりません。この依頼を受けてもらえないでしょうか?」


「どうして私たちなのでしょうか?」

  ライエンが尋ねる。

  それは、と言い、デオンを見る。デオンもドレットを見つめる。

「獣人への差別意識がないあなた方がこのことに最適だと思ったからです」

ドレットはデオンから目を離し、ライエンを見る。


「それは……、そうかもしれないが……」

  デオンはさらに動揺する。


「どうした?」

 ソムがデオンを見る。

「アルルが獣人を毛嫌いするように、ベアストの人々も人間のことが大嫌いなんだ。だから、もし俺たちがベアストに行ったら……、殺されるかもしれねぇ」

  一同にまた沈黙が流れる。


「このことを決めるのは、あなた方です。今、デオンさんが言ったように、命の保証は出来ません。今決めてほしいというものではありません。明日、同じ時刻にまた来ます。その時にまだ決めかねるということであったら、やめておいたほうがいいでしょう」

  あとそれと、とドレットは加える。

「このことは内密にお願いします。このことを知っているのは、我が王とその一部の人、こちらのライさんとあなたがただけです。『MM』にも知らせていません」


「『MM』にもですか?」

  ソムは軽く驚いた。

「はい。ですからあまり口外しないでください。報酬は用意してありますが、帰ってきたあと、スレイヤー様と面会はできません。我々の方でも秘密裏に動いているのです。申し訳ありません」

 ドレットは頭を下げる。


「いやそれはいいんですが……」

 ソムも困った顔をする。


「あと、こちらのライさんの話に移ってもいいでしょうか?」

  ドレットは隣のライに手を向けて言う。

「あ、はい」

 ソムはライを見た。古傷ではない、ついさっきつけたような浅い引っかき傷が気になる。アスマスもライがここに来た目的に興味津々といった様子で座り直す。


「ライさんは、ロンドの町の『MM』専用の学校の教授をしています。専門はーこれが肝なんですが、主にモンスターの倒し方からそのモンスターの行動までやっておられます。それで──」

「失礼、あとは自分で話します」

  ライがドレットの前に手を出すと、ドレットは話すのをやめた。


「私は先ほど言われた通り、モンスターが専門です。そして周りの人からは研究熱心と言われているのですが、1年学校で教え、1年研究のために色んなところを巡り、また1年学校で教える、といったことを繰り返しているのです」

「例えばどんなモンスターを調べているんですか?」

  ソムは尋ねた。


「例えばですか? ──そうですね。イルジという狐のモンスターを知っていますか?」

  ソムは首を傾げた。

「いや、知りません」

「こいつが厄介なヤツでして、身の危険を感じると協力なモンスターの幻影を出すんです。鳴き声まで再現するんですから、相当すごいヤツですよ。前にあった事例で、ドラゴンが住み着いて近寄れない林があったんですが、実はそのドラゴンはイルジが生み出したものでしてね。その発見をした時は驚きましたよ。ドラゴンが自分に食いついてきても、全く無傷。逆に口の中身が見れて、そうなってるのかーと思ったくらいです。それでー」

「ライさん、その話は後にしてもらってもいいでしょうか?」

 ドレットが話の腰を折る。


「あ、すいません」

 ライがシュンとなる。


「私もすいません」

  ソムも話を本筋から逸らしてしまったことを謝る。


「それで、一言付け加えておくと、懐くとかわいいんです。あと話を戻すと、アルルにも色んなモンスターがいるんですが、ベアストにも色々といると思うんですよ。でもベアストに行く機会が中々ないじゃないですか。それでこの機会を逃すわけにはいかないと思ったんです」


「どこで聞いたのか分からないんです。聞いても、噂で聞いたの一点張りなんです。どこの噂なんですかって話ですよ」

 ドレットが愚痴をこぼす。


「幸いって言っていいのかわかりませんが、彼の仕事柄なのか中々戦えるんですよね。だから足手まといにはならないと思うんで、一緒に同行させてもらえませんかね」

「お願いします」

 ライが頭を下げる。


「そんな、足手まといなんて……」

 アスマスは滅相もないと言う。


「学内では、ライさんは実は強いんじゃないかって噂になっているんですよ。グリフォンを軽々持ち上げて、教室から出したりして」


「グリフォンを持ち上げることぐらい私だってできるよ」

 エーヴァがライを見た。

「自分の身は自分で守れるんだろう?」

「そのつもりです。ピンチになったら、見捨ててもらっても構いません」


「「「そんな」」」

 ソムとアスマスとコリンの声が重なる。


 アスマスとコリンはソムに譲る。

「見捨てるなんてできませんよ。行くと決めたら一蓮托生です」


「ま、私らの方が弱かったら、守ってくれるんだろう?」

 エーヴァは今度は控えめな態度で言う。


「そんなことは無いと思います。そんなことがあったとしてもガイドを見捨てて、ぬけぬけと帰ってきたら学者人生に支障が出てしまいます。死ぬ時も一緒ですよ。一蓮托生って言葉、好きですよ」

 ガイドって……。と思いながら、ソムはライの笑顔に笑顔で返す。


「行くとなったらの話も大事ですが、ちゃんと行くときのデメリットは熟慮しておいてください。しかし獣人がいるチームがあなたたちだけであるというのは事実です。さっきも言いましたが、決めるのはあなた方です。それでは私は失礼します」

 ドレットは立ち上がった。コリンも立ち上がったが、「ああ、いいですよ」と言い、リビングを去る時も失礼しましたと丁寧に言い、家から出ていった。


 ライを含めて一同のあいだに少し間が空いた。

「行くんだろ」

 沈黙を破ったのはライエンだ。


「人間も獣人も仲良く暮らせるようになったらいいなって、前々から言ってただろ。またとないチャンスって思ってるんだろ?」

「ああ、今言っても良かったんだけど、みんなと話し合ってからでも遅くないかなと思って」

 ソムは「カラフル」のみんなを見る。

「みんなはどう思う?」


「俺は構わねえよ。どうせ獣人だからな」

「人間と一緒にいるところを見られたら、大変だぞ」

「それはお前もお互い様だろ」

 デオンが笑う。


「俺も大丈夫だ」

 ライエンが言う。

「私も」「私も」「僕も」と、エーヴァ、コリン、アスマスも続く。

「よし行こう!ベアストへ!」

 ソムは元気よく言った。


 その後、「カラフル」の面々とライはいろいろと喋り合い、交流を深めた。ソムが一番驚いたのは、ライが相当の獣好きということだった。顔の傷も今日、テイマーの狼に勝手に抱き着いてひっかかれたらしい。

 ライが帰ると、デオンはハァと息を吐いた。


「どうした?」

 ソムが尋ねると、

「あのライってやつ。獣人嫌ってるな」

 ソムは驚いた。コリンとアスマスもえっ、と声を漏らす。


「雰囲気でわかるんだ。ここに来て、最初に分かった」

「そうなのか?あんなに仲良くしゃべってたのに」

「社交辞令ってやつだよ。大っぴらに獣人嫌いと言ってる奴より、相当タチわりぃぞ」


「でも変態って言えるほど、獣好きでしたよ」

 コリンが言う。

「ここにいる狼とかグリフォンとかと獣人は全く違うって思ってるぜ、アレは。勘付かれたらヤバいぞ」


「じゃあ、ライさんはやめておいた方が良いか?」

 ソムは尋ねる。

「いや、だけどベアストの生物を知りたいってのは本当だと思う。彼の研究熱心な態度に免じて、行っても大丈夫ってことにしようじゃねえか。エーヴァじゃねえが、自分の身は自分で守れってやつさ」

「……」

 ソムは大丈夫かなと一抹の不安を覚えた。


「それでは行くのですね。ベアスト側にも伝えておきます。万が一にも襲われるということがないようにと」

 ドレットは翌日の同じ時刻ピッタリに来た。ソムたちはベアストに行く旨を伝えた。

「それでは、予定されている一週間後にまた来ます」


 一週間の間に、ソムたちは依頼を3つほどこなした。

 そして当日。


「これが親書です」

 ドレットは蝋で封された手紙をソムに手渡した。


「どうか無事に戻ってきてください」

 はい、とソムは手紙を受け取った。


「なんか複雑な気持ちになるな」

 デオンがつぶやく。

 まぁまぁとアスマスとコリンはなだめた。

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