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マジック・マキシマム  作者: フィー
前編 第1章:強さと決意
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第5話 斬撃の竜巻

「アスマス! バリアがもつまで俺を守ってくれ!」


「何か思いついたんですか?」

 アスマスは期待していいのか悪いのか迷っているようだ。


「一か八かだ」


 また抵抗されてもめんどくさいのだろう。それとも品定めが済んだのだろうか。

 ブルーランドは光線をソムたちに撃ってくる。

 アスマスがソムを守るようにソムの前に来て、バリアを張る。

 しかしすぐにバリアにひびが入る。


「アスマス! 退くんだ!」

 言われるがままアスマスは退く。

 アスマスが防いでいた光線が、ソムの方へ来る。ソムもバリアを張り、光線を防ぐ。


 埒が明かないと思ったのか、ブルーランドは光線を撃つのをやめ、口に魔力を溜め、光線を撃ってきた。

「そいつを待ってたよ!」

 ソムは水属性、横2本縦1本の魔法を発動し、水をまとって、ブルーランドの頭へ飛んだ。

 ブルーランドは光線を飛んでくるソムの方へ照準を合わせる。


「あぶない!」

 アスマスは叫ぶ。

 光線がソムに当たる。しかし、

「効いてない?」

 アスマスは不思議そうに言う。


 ソムはひやひやしていた。思った通りだったが、もし違っていたら死んでいただろう。

 あの水属性魔法の光線は大地をも水に変える力を持つが、水に対しては全く効果がないのだ。それを利用して、魔術師の基礎の無機質属性のバリアを応用した水属性のバリアを張った。

 ブルーランドは普通の光線を無機質属性のバリアで防がれて無駄なことだと思うと、あの大地をも水にする光線を撃つはずだ。ソムはそう考えたのだ。

  水属性のバリアは光線に当たっても、バリアを壊すことはなく、増してはバリアを溶かすこともなかった。


 ブルーランドの頭に乗ったソムは、予めありったけの魔力で電気を帯びさせた剣をブルーランドの口に刺す。

 さすがに体の内側まで耐電作用になっているわけではないようで、ブルーランドは大きく痙攣したかと思うと、その巨体は地面に倒れてしまった。しかしまだ息がある。


「やりましたね!」

 アスマスは嬉々としてこちらに駆け込んでくる。


「まだだ」

「え?」

 ソムの渋い顔をアスマスは不思議そうに見る。


「まだ息がある。なにか追い打ちできるものはあるか?」

「僕の魔法じゃ、あまり意味はないかもしれないですけど……。あっ!」


 ソムはギョッとして、倒れているブルーランドの方を見る。しかし目に映るのは痺れて動けなくなっているブルーランドだけだ。

「すいません、驚かせてしまって……。毒があります。正確には毒を塗った矢が」

 ソムはうんと頷く。

「何本ある?」


「今回はピランの駆除としか聞いてなかったので、いつも装備している10本しかありません」

「よし、全部刺すぞ」


「それで殺せますかね?」

 アスマスは期待を込めて言う。いくら訓練をしたからと言って、大型モンスターを倒すことは初めてなのだろう。


 ソムは渋い顔のままだ。

「どうだろうな。死ななかったとしても毒の分でさらに動けない時間ができるはずだ。念のためだ。その時間を利用して、デンゼルさんと合流だ」

「はい」

 ソムとアスマスは動かないブルーランドの開いた口に10本毒矢を刺した。


「よし、今のうちに逃げるぞ」

「早くブルーランドを倒してもらわないと」


「おい!」

 遠くから声がした。


 ソムとアスマスは声の方向へ向く。2頭のグリフォンがこちらに飛んでくる。乗っているのは、コリンとライエンだ。

  コリンとライエンを乗せたグリフォンが地面に着地すると、


「今すぐ俺たちを乗せて、デンゼルさんのところへ飛ぶんだ」

  ソムは早口で言う。


「なんだよいきなり。それにこれおまえがやったのか?」

  ライエンはブルーランドを指して言う。


「まだ生きてるかもしれないんだよ! あいつが動ける状態になる前に早くここから離れなくちゃならないんだ!」


  ライエンは再びブルーランドを見て、状況を理解したようだ。コリンもこのでかいのがまだ生きていると聞いた瞬間、顔が強張った。

  4人で2頭のグリフォンに2人ずつ乗って飛んでもらう旨を説明したら、グリフォンたちは納得した。



「ちゃんと説明させてくれよ」

  ライエンはソムに向かって言う。

  4人はユス湖と水路の合流地点へ向かう。


 ソムは、グリフォンに乗りながら、バイズ川でブルーランドに見つかってしまったこと。なんとか命だけは助かったことをライエンとコリンに話す。

 2頭のグリフォンは、2人ずつ乗せているせいで移動速度が遅い。

「そういえば」

 ソムはふと気が付いて、ライエンに話しかける。


「なんだ?」

「どうしてお前たちはここにきたんだ?」


「ああそれは……」

  コリンが話に割って入る。


  コリンが言うからには、ソムとアスマスを乗せていないグリフォンがコリンの方に慌ててやってきたらしい。

 ソムとアスマスを乗せていった翼全体が茶色いグリフォンと、頭がほとんど茶色のグリフォンだ。

 そして、グリフォンは狂ったようにピャーピャー鳴いて、危機を伝えようとした。

 グリフォンは嘴で服を引っ張ったりもした。

 とにかくその様子にコリンはただならぬものを感じた。


 コリンはソムとアスマスに何かあったのではないかと心配になった。

 そこでグリフォンに乗って、移動したライエンとエーヴァを見つけ、2人のグリフォンのいる場所に戻った。

 エーヴァはデオンがデンゼルさんを連れてきたときに、事情を説明するために残ってもらった。


 ライエンとコリンの2人でグリフォンに乗って、水路をたどった。そうしたら、でかいモンスターが倒れている側にいるソムとアスマスを見つけたらしい。


「けど助かったよ。あれから走るってのは結構苦労するだろうからな」

 ソムは後ろを見ながら言う。自分の後ろにはアスマスが乗っている。そしてその後ろには、こちらを見つめているブルーランドがいる。


「……え?」

 ソムは間の抜けた声を出す。

「どうしたんですか?ソ──」


「グリフォン! スピードアップだ! あいつが追ってきているぞ!」

 アスマスの声を遮って、ソムは大声を出す。

 アスマスもライエンもコリンも2頭のグリフォンも遠い後ろを見る。

  3人がグリフォンの上で臨戦態勢─魔法をいつでも撃てるようにする。慌てて羽を素早く動かすグリフォンたち。ブルーランドは光線を連射している。

 遠く離れているため、ブルーランドの攻撃は当たらないが、油断は禁物だ。


「もうすぐ着くぞ!」

  ライエンは皆が後ろを向く中、前を見て言う。





  「デンゼルさん、何とか着きましたね」

  「ああ、悪いね。まさかバイズ川とユス湖が繋がっていたなんて、思いもしなかったよ」


  「え?」

 デオンとデンゼルは、例の水路とユス湖の連結部分に到着するところだった。

 デオンはおかしな水路があると言っただけなのに、デンゼルさんはすでにバイズ川に繋がっていると勘付いているらしい。デオンにはなにがなんだかわからない。 


 デオンがグリフォンに乗って、デンゼルを見つけたとき、ものすごいものを見せられてしまった。湖の中央に舟を出して、周囲360°から畳みかけてくるピランの群れを一匹残らず剣で素早く切り裂いているところを。

   それからデオンはデンゼルに水路のことを伝えると、そこまで行くことを了承した。

 しかしそこからが大変だった。デンゼルはピランに襲い掛かられながら、舟を漕いで進まなければならなかったのだ。なかなか先へは進まず、デオンが自分が乗っているグリフォンを下まで行かせて乗せようかと提案した。

 ピランがグリフォンに怪我をさせてしまったら、デオンもグリフォンも大変なことになると言って、デンゼルさんはその提案を断った。

 

「大変だよ! ソムとアスマスがやばいそうなんだ!」

 例の場所に着いていきなりエーヴァが大声を出す。


「これは……、ブルーランドのものか?」

「「ブルーランド?」」

 デンゼルの言葉にデオンとエーヴァがオウム返しする。二人は顔を合わせるが、またデンゼルさんの方へ向く。


「おい!」

 水路の先の方から声がした。

 そこにはグリフォン2頭とソム、ライエン、コリン、アスマスの4人。

 ……と、でかい何か。


  デンゼルは即時に判断する。

「おい、そこの4人! 魔法を発動させるから、ブルーランドから離れるんだ!」

 デンゼルが叫ぶ。

 グリフォン2頭はそれを聞いて、図ったように左右に分かれて、ブルーランドから離れる。


 デンゼルは水色の横5本縦1本を書く。それをみてデオンもエーヴァもギョッとする。

 レベル5。最高レベルの魔法が放たれる。

 ブルーランドを囲むように大きな竜巻が出来上がっていく。ゴォォォと大きな音が鳴りだすと、斬撃の嵐がブルーランドを襲う。


 ブルーランドの痛々しい悲鳴が響く。

 しばらくすると、竜巻に赤いものが混じりだす。体を覆っていた鱗がはがれ、直に体に斬撃をくらっているのだ。


  竜巻が収まると、ブルーランドは見るも無残な姿をしていた。青色だった鱗はすべてはがれ、その下に隠れていた皮膚は緑色だろうか。深い切り傷が多数あり、体のほとんどが赤に染まっている。

 あっという間だった。


 チーム「カラフル」はランクSの実力を思い知ることになった。

 2頭のグリフォンがデンゼルたち3人のところに着地した。


  「みんな無事でよかった」

 デンゼルは呟いた。





 結局依頼は中止することになった。ユス湖がバイズ川と繋がっていることによって、ピランがユス湖に来ることが分かったからである。

 まず水路を埋め立ててから、それからまたピラン狩りを依頼するとのことであった。


「ソムさんすごかったんですよ。こう口に剣をグサッと!」

「へえー」

「ふーん」

 コリンとエーヴァはアスマスの話に適当に相槌をうつ。かれこれもう3回話している。

 ロンドに戻ったチーム「カラフル」は、デンゼルさんの配慮があったからか、予定の報酬金全額とまではいかなかったが、半分は貰った。


「もうわかったからアスマス、俺まで恥ずかしくなる」

 デンゼルさんのあの魔法を見てからでは、ソムの武勇伝も見劣りしてしまう。


「だから言ったろ。俺たちはもっと強くならなけれなならないって」

 ライエンはソムに言う。


「それとこれとは話は別だ。強いだけじゃ、何の意味もない。デンゼルさんは他に何かを持っている」

「その『他の何か』は強くなってからしか持てないんじゃないのか?」


「弱くたって、人助けはできる。弱い者は弱い者なりの助け方があるんだ。デンゼルさんみたいな人にはデンゼルさんなりの人の助け方があるように……」


「よっしゃあ! それじゃあ強くなるために今から腕立て500回、腹筋500回、スクワット500回、ランニング500kmだー!」

「「やるかよ」」

 デオンの提案はソムとライエン二人に即却下される。

 あとランニング500kmってなんだよと、加えてツッコまれる。

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