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The Dungeon Of Sprit  作者: MilkLover
かみがかりのもり
4/8

ランクアップ・テスト

「なぁ、みんな」

 俺はまだ十歳だ。みんなよりも六つ年下だ。

 しかし、みんなは俺が生意気にも対等に話しかけるのを許してくれる。それどころか、同等として、同朋として、朋友として、級友として付き合ってくれている。子ども扱いしない。みんなが俺を認めてくれているような気がして、嬉しい。

「一学期末のランクアップ試験、上級職を目指さないか?」

 だから俺は、提案した。

 みんながみんな「森」に克てるようになる方法を。


 それを無謀だ、と咎める者はいなかった。皆、それに賛同した。

 あの本を読んだからだろうか。珍しく、キャンディもそれに乗り気だった。


 俺の目指すソードマンの上位職、ソードマスター。巧みな剣技を必要とする職業だ。俺の身体的には不利だが、俺はアカデミアにだって入学できた。だから俺は自信を持って言える。

 俺は凄い。俺は強い。俺にはできる!

 勿論、何もしないでできるようになるわけはない。俺は図書館で剣術所を借り、それを読んで理屈を――体の使い方を理解した。そして、その上で剣を振った。我武者羅に降るのではなく、頭を使う。それが身体的にはハンデを持った俺のやり方。成功へのメソッドだ。

 この方法でここまで来た。ここからも進む!俺には見える。ランクアップ試験に合格する未来が!


 他の皆も同じ方法を取れば成功するとは言わない。人にはそれぞれやり方がある。

 例えば、ガトーのやり方は自分の感覚に頼るものだ。心眼、というユニーク・スキルは、目で見ず、心で見るという技だ。ガトーは敵を斬るとき、目で敵を捕らえない。視覚情報に囚われず、音や空気の動きなどの微妙な変化を感じ取ることで、超感覚を得る。そのユニーク・スキルのように、彼は自分の感覚に任せ刀を振る。体術を学ぶのではなく、感覚の赴くままに体を動かす。しかし、その剣捌きは、並みの剣士では遠く及ばないほど優れている。

 彼の目指すサムライの上位職は、ケンゴウ。抜刀術に長けた、先手必勝型の戦闘スタイルをとる。

 キャンディは、もう上位職をとるのに必要な条件を既に満たしているように思える。彼女のユニーク・スキルはワンマンアーミー。一人軍隊の名に相応しく、並大抵の職業の技能を全て習得している。シーフの上位職、ローグを目指す彼女だが、間違いなく合格する事だろう。

 マカロンの目指すクレリックの上位職は少々毛色が変わっている。というのも、上位職が二つ存在するのだ。

 一つは、クレリックの延長線上にある、支援魔法に長けたハイプリースト。もう一つは、支援、回復魔法に加え、戦闘能力も備えるパラディン。どちらにせよ、彼女の努力次第で十分手が届く範囲にあるだろう。彼女のユニーク・スキル、ヘルプフル・ヘルプは支援魔法の使用を可能にしている。すでにハイプリーストの条件は満たしているようなものなのだ。

 ミルフィが目指すのはアーチャーの狙撃に特化した上位職、スナイパーだろう。ピンポイント・ショットがあればそう難しくはないはずだ。



「それでは、ソードマスターのランクアップ試験を始める。私は試験官のフレーズ・バニーユだ」

 赤髪の男性教諭はそう名乗ると鞘から剣を抜いた。模擬戦用の刃の無い剣だ。

「試験は私との模擬戦だ」

 試験官の前には武器庫から持ってきたであろう模擬戦専用剣がずらっと並んでいる。この中から選べ、ということだろう。形や重さが異なる多種多様な剣がある。俺は一番重く、大きな剣を選んだ。

 試験開始からほどなくして俺の番が回ってきた。ここまで合格の声は一度も上がっていない。

「む。君はZのティラミスか。その剣で大丈夫なのか……。そもそもこの試験は一年はあまり受けないのだが……」

「心配するなバニーユ先生。俺は強い!」

 俺は剣を抜き、先生の前に立った。

「では、手加減なしで行かせてもらう!」

 先生は剣を下段に構え、こちらへと走ってくる。

「げ、フランベルジュ?」

 先生の剣はくねくねと剣身が波打つフランベルジュだ。模擬戦とは言え、あの形状の剣で切られたらちょっと痛い。

「行くぞッ!」

 フランベルジュの柄がジャキ、と音を立てる。あからさまな攻撃の予兆。俺は元いた場所から横っ飛びで回避行動をとる。

 ヒュン、とフランベルジュが空を斬った。

「そう簡単に当たるかよ!」

「少しは骨があるようだが……」

 今度は予備動作無しで剣戟が迫る。

 すかさずそれを叩き落とそうと大剣を振り下ろす。

 カキィン、と金属のぶつかる音がする。しかし、相手も教官。そう簡単に剣は落とさない。

「守ってばかりでは……」

 バニーユはそのまま手首を返して突きを撃つ。

 剣と剣が触れているのにそんな動作をしては……

「バレバレだ!」

俺は、体捌きでフランベルジュの剣先を逸らしつつ横に抜け、横腹を思いっきり蹴った。

「おうりゃあっ!」

 そしてそのまま、ふらつく教師に大剣の一撃が――

ドゴン、と横殴り。脇腹にもろに大剣を食らったバニーユ教諭は、四つん這いで膝をがくがく震わせていた。


「アース・ヒール」

 しばらくするとソーダ先生がやってきて、バニーユ教諭に回復魔法をかけた。

「うちのティラミスちゃんは強力なのですね。舐めてたら痛い目見る、ですね?」

「面目ない……。……コホン。ティラミス・ビター、合格!」

 赤毛の試験官、フレーズ・バニーユが高らかに宣告すると、あちこちから拍手と歓声が上がった。

「うおお! よっしゃあっ!」

 俺は観衆へ向けてピースサインをした。


 Zクラスの試験の様子は、伝え聞いたことによると『伝説級』だったという。十歳でソードマスターという俺の評判も一周回って俺に聞こえるほど出回っていた。

 ケンゴウ試験を受けたのは全校生徒でガトーひとり。そしてその試験内容は……。

「スイカ、割り?」

「ああ、僕もびっくりした。……なんかズルみたいな気がするが心眼で普通に場所分かっちゃったんだよな……」

 とガトーは言った。

「でもすごいですよ。目隠しして指示なしでスイカ割れるなんて……わたし、指示あっても割れたことないのに」

「そういうマカロンだって、パラディン試験受かったのだろう? すごいもんだ。支援も回復も、攻撃をも可能にするとは……。ちょっと意外だな」

「実は近接戦闘の方が成績良かったんですよねぇ……あはははは」

 照れくさそうに笑うマカロンの顔は、トマトのように真っ赤だった。

「キャ、キャンディちゃんもおめでとう!」

「そこで私に振るか。まぁ、私もガトーと同じでユニーク・スキルでとっちゃったようなもんだからなぁ」

「スナイパー試験も、ピンポイント・ショットで楽勝だった?」

「それが、実は最初、間違ってスナイパーではなくてレンジャー試験を受けてしまって……野草判定が少し難しかったです」

「え! じゃあ、スナイパーは?」

「その後、受けてきましたよ。両方受かっちゃいました」

「「「「マルチジョブゥ……」」」」

 と、いった具合に俺たちZクラスは歴代のどのZクラスにもないほどの評判を校内に敷衍させる結果となった。

 一か月後。

「二学期第一回『森』戦闘演習です」

 黒板に大きく演習、と書いてソーダ先生は言った。

「まぁ、みなさんこんなに早く上級職とっちゃったし……今回は私の引率要らないかなぁ、とも思うのですが規則なので私も行くのですね」

 ソーダ先生はそう言って本棚から魔術書を取り出した。

「じゃあ、例のごとく三十分後に校門集合なのですね」

 そして石を握ると転移魔法で教室をあとにした。

「じゃあ、みんなちゃっちゃと準備しようぜ」

 ランクアップに伴って新調した装備を各位身に着ける。いちいち寮に戻るのも面倒なのでロッカーに仕舞っておいてあるのだ。

「うし!」

 俺は革のグローブを両手にはめ、ブラックアーマーを装備する。そして大剣『レクイエム』を背負い、腰の剣ホルスターに長剣『ソウル・テイカ―』を差し込む。

「おい……ティラミス。いつの間にそんな武器手に入れたんだ?」

 ガトーが俺の装備を見て、訝しげな顔で尋ねた。

「あぁ、これはな……夏休みに、ちょっと色々あって」

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