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The Dungeon Of Sprit  作者: MilkLover
かみがかりのもり
3/8

シークレット・フォー・リーダー

「なんだよ、これ」

 学園祭どころの話じゃねぇぞ、とティラミス・ビターの叫ぶ声がした。

 また、何か揉め事でも起こしたのだろうか。彼は喧嘩っ早くて困る。大方、キャンディー・クッキー・クラッカーとでも衝突しているのだろう。

 何故だがあの少年を見ると、時々彼の事を思い出す。

 ――私を救い、自らは無謀にも「森」に挑んだ彼のことを。

「何かあったのですね?」

 私は教室の扉を開けて、彼ら彼女らを見た。

 そして、その手に握られた、「見覚えのある黒表紙」に目を疑った。

「アパ……シー」

 禁書、アパシー。

 十年前の惨劇について書かれた、彼の手記。その内容の過酷さと信じられない森の秘密から、真偽の判断の余地なく、禁書図書館に封印されたはずの本。

「あなたたちどこでそれを!」

 私は魔術書を開き、魔法陣を展開した。

 教え子が無情動(アパシー)だと思いたくはないが、この本を狙い、人に化け、入学してきたという可能性もある。しかし、魔蟲は「森」の外では外気に触れただけでも霧散する。無情動とはいえ、「森」の外の環境に耐えられるのかという疑念はあるが。

「そこの本棚にあった……」

 ガトー・ショコラが学級日誌の棚を指差す。

「昔の日誌になら、学園祭について書いてあるかと思って、適当に一冊取り出してみたら偶々これが……」

 その言葉に嘘はないようだ。とすれば……

「『在るべき場所』……」

 ミルフィーユ・アプリコットが呟いた。

「ここが、『在るべき場所』」

 マカロン・シロップはそう言って私の方に歩み寄る。

「この本のソーダは、先生?」

 そう尋ねて彼女は私の目を真っ直ぐに見つめる。

「えぇ、そうよ」

「森」のことなど忘れたい。忘れてしまいたい。でも、彼のことは、忘れたくない。私は苦肉の策として、教師としてこの学園に残ることを選んだ。自らを戒め、いつの日か無情動を倒すことのできる、「森」に克つことのできる「戦士」を育てるため。

「私は……アカデミアに『森』での出来事を報告した。そしてその本を学園長に渡した。その結果、私は混乱を招く行為をしたとして三か月間学園の地下に拘留され、彼の手記は国立禁書図書館に封印された」

 生徒たちは閉口した。

「あなたたちは『希望』になりうると同時に、『絶望』にもなれるの。勝てば官軍、負ければ――」

「俺たちに敗北はない」

 私の言葉を切り捨てて、彼は言った。

「な、みんな」

 彼が――ティラミス・ビターが、私の記憶のシュガーレス・ザッハトルテと重なった。

 全く似ていないのに、彼はどこかあの人に似ている。

「そうだな」

 ガトー・ショコラはティラミスの背中を軽く叩いた。

「あたりまえじゃない」

 キャンディはそう言って肘でティラミスを小突いた。

「はい!」

 マカロンはティラミスの手を握った。

「えい!」

 ミルフィーユはティラミスの頭を思いっきり殴った。

「痛ってぇ?」

「ご、ごめんなさい! てっきり殴る流れなのかと……」

「もう、ミルフィーユお嬢様ったら天然なんだから」

 キャンディがそうからかう。

「お嬢様はやめて! あと天然じゃない!」

「「「「え?」」」」

「え、じゃなーぁい!」

 私は、それを見ていた。いつの間にか視界がぼやけていて、頬を拭うと濡れていた。私は泣いているのだ。

――ねぇ、ザッハ。私、『希望』を見つけたわ。


「安心してくれ、先生。俺たちは『希望』だ」

 差し出された手は剣士の手だった。ごつごつとして固く、そして温かい。そして時折、私の心を見透かしたようなセリフを放つその少年は、彼の生まれ変わりなのかもしれない。


 偶然か必然か、ティラミス・ビターは今年、十歳になる。

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