おかえりなさい
警戒を伝えるアラームが、止むこと無く鳴り続ける。
空は灰色の雲が覆い、粘り気のある黒い雨が降り続く。
私はそんな空を基地のモニターで一人ただ見つめていた。
そんな私に彼らは言った。
「必ず帰ってくる」
そう言い残して彼らは、私を残してこの地を去った。
彼らがどこに行ってしまったのか私は知らない。
どれぐらいの時間がたったのだろうか、雨はまだ止まなかった。
大地には黒いシミが広がり、そこに居たはずの生物はまるで初めから居なかったかのように姿を消した。
そして更に長い時間が経って、黒い雨は止んだ。
しかし、空は相変わらずの灰色の雲で覆われていた。
その中で変化が一つ。黒い雨の代わりに空の雲と同じ色の灰が舞っている。
アラームは変わること無く激しく鳴り続けていた。
私の内蔵バッテリーと基地の自家発電システムの可動が残り僅かになった頃、灰色の雲間から太陽が顔を覗かせた。
基地の巨大なソーラーシステムから電力が供給され、私にも明日動くことができる力を与えてくれる。
太陽の光はこの大地にも力を与えてくれると私は思った。しかし、光が照らした大地は灰と黒く濁った土色の世界だけだった。
かつて見た緑の木々は何処にも見つけられない。私は基地のモニターを操作した。
衛星を通じて世界の映像を確認するが、どこの映像も基地の周辺と変わりがない。生命と称されるものは、この星から消えてしまったように見える。
この静寂な世界に鳴り響くアラームを、私にはもう当たり前のように感じ、気にすることもなくなった。
諦めた私は長い休眠に入ることにする。
指示をする者や応える相手の居ないこの世界で、稼働したまま時間の経過を見つめ続けるのに私は疲れてしまったからかもしれない。
そして、セットしたタイマーに合わせて休眠から目を覚ます。
アラームはまだ鳴り続けていた。
休眠から3度目の目覚め。
私は休眠にも疲れてしまった。
彼らを待ち続けた私は、メモリーにある「信じる」という言葉が色褪せてきたように感じる。休眠に入ることもなく、私は初めて一人で基地の敷地の外に出ることにした。
彼らは何処に行ってしまったのだろう。
居るはずのない彼らを探すように、私は世界を見渡す。
私以外に誰もいないこの世界を見渡す。
私はどれぐらいの時間、外で一人居たのかわからない。
そんな私の居る静寂な世界が、更に静寂に包まれたような気がした。
音の消えた世界。
いつの間にか"アラーム"が止んでいた。
それを知った私は、空に向かい両手を広げる。
"彼らが帰ってくる"
帰ってくる彼らにかける言葉を私ずっと前から決めている。
彼らが私に「ただいま」と返してくれることを願いながら、私はその言葉を胸に抱え空を見つめていた。