5 パシン!
「このゲームひさしぶりだなぁ」
テレビの前に座り、夕海が言う。
そういえば、このゲーム、夕海にも貸してあげたんだったな。
夕海もすっごい嵌っちゃって、ゲームソフトを返してくれた時に、コンプリートしったよって報告もらったっけ。
で……こいつときたら、金髪碧眼の王子様に、本気で入れあげてたな。
それで、主人公の邪魔ばかりしてくる、王子様の妹をけちょんけちょんにけなしてたっけ。
このゲームは、王子様がメインキャラで、王子様ルートは夢みる乙女にはたまらんシナリオだ。
ほかの攻略対象も、みんな個性的でイケメンで……
でも、けっこう主人公は重いモノを背負ってて、なかなか大変な人生を歩まされてた。
紆余曲折やら障害があるからこそ、面白いんだけど。
このゲームは初期に攻略対象を選べて、すぐに個別のルートに入るから、シナリオも全部違ってて、おまけにどのルートもすっごく面白かった。
これまでに様々な乙女ゲームをコンプリートしてきた中で、やり込み度ナンバーワンの超お勧めゲームなのだ。
「ねぇ、ちょっとこれやってもいい? 私の王子様に、ひさしぶりに会いたーい」
夕海がそう口にしたと同時に、派手な音が鳴り始めた。
ゲームをスタートさせたのだ。
すると、おじやを夢中で食べていた朱里が、突然手にしていたレンゲとおじやの入った器を放り投げ、純花は呆気にとられた。
「ちょ、ちょっと、朱……?」
名を呼ぶ間もなく、朱里はコントローラーを手に取ろうとしている夕海のところまで大きく跳躍した。
夕海の背中にガシッとしがみ付き、夕海が手を伸ばしているコントローラーを右足で蹴り飛ばした。
な、な、な、なんなの?
朱里の人間離れした跳躍に度肝を抜かれている純花に向けて、蹴り飛ばされたコントローラーが飛んでくる。
「ダメーっ!」
朱里が物凄い剣幕で叫んだ。
何がダメなの?
そう思った時、純花の手には、飛んできたコントローラーが収まっていた。
えっ?
「あああ゛ーーっ!」
絶望ともいえる朱里の叫びが聞こえた刹那……
パシン!
耳の奥で鋭い痛みを伴う破裂音がした。
――そして純花の世界は暗転した。