沈殿した部屋の底
明るい部屋よりは、暗い部屋が好きだった。
広い部屋よりは、狭い部屋が好きだった。
暗く狭い部屋のすみっこで壁に寄りかかって天井を見ている時間が、なにより好きだった。
それはきっと、自分が生まれる前から、または生まれ落ちた時から決められている、宿命みたいなものだろう。矯正しようのない。どうしようもない。
ただ単に好きなものは、誰にだってあるんじゃないだろうか。
僕にとってはそれが、こんなことだったってことだ。
隅にうずくまり、茫洋と考える。思考の大河に身をゆだねる。
自分の選択。
この場所へ来てよかったのか、この人たちと一緒にいることを選んでよかったのか、あの人たちを手放してよかったのか、自分はここにいていいのか。
今日の夕飯はこれでよかったのか、今日買い物をしてよかったのか、明日は早起きをしたほうがいいのか――自分はここにいていいのか。
結局、そればかりだ。
自分の居場所。
それがわからない。
僕のいる場所は、どこだ。
どうして僕は、そんなことばかり考えてしまうのだろう。
薄々気づいている。
それはきっと、いろんな人と交わりすぎたからだ。世界と、接点を持ちすぎたからだ。
僕の周りには人がたくさんいて、彼らは僕にとってあまりにも魅力的で、まぶしくて、僕は思わず自分を見てしまう。彼らにあるものを、自分にないものを、探してしまう。みんな何かを持っている、自分にしかないものを。それはだれにも真似できない。一癖も二癖もある人ばかりで、自分の没個性さが際立つ。
だから、僕は自分が嫌いになる。
自分が見いだせなくて。
自分がわからなくて。
でも、誰にも縋りたくない。
そうすれば、自分は壊れてしまいそうだから。
ただ、部屋の隅でうずくまる。
色彩を失い化石となった部屋に、電子音。
ピンポン、というチャイムの音。
誰が来たのだろう、と思う暇もなく、音の主はがちゃがちゃとドアノブを回して、部屋に闖入する。鍵を閉めるのを忘れていたらしい。
――おっす。何してんの。
――別に、なんでも。
――そっか。飯食いに行こうぜ。
眩しいなあ。
君は――君たちは、いつも。
僕はここにいていいのか分からない。け、ど。
ただ僕は、ここにいたい。
ここが素晴らしい場所で、素敵な人たちがたくさんいるから。
ずいぶん久しぶりに小説を書きました。
これが小説といえるかどうかはさておき。
大学に来てから、ずいぶんと生活が変わりました。かかわる人間も一変して、楽しさもあり、しんどさもあります。それでもなんとか生きています。