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6話  難攻な追跡魔法

 中々上手くいかないものだなぁ。


 オクトに持たせた魔方陣を、よりパワーアップさせようと考えているが、これが意外に難しい。追跡魔法に転移魔法を組み合わせるだけならば大した事がないのだが、上手く転移するには、周りの状況が分からないといけない。

 そこでどうやってオクトの周りの状況や周囲の映像を映し出すかだが……中々これというものが思い浮かばなかった。

「アスタリスク魔術師が、仕事で悩むって珍しいですね。お茶、どうぞ」

 魔法陣の設計図とにらめっこをしていると、横からリストがお茶を出してきた。ああ、もうお茶の時間だったか。

「悪いな」

「いいえ。仕事をしていただけるだけで、僕は十分ですから。何を考えて見えたんです?」


「オクトが今どうしているかを、どうやって覗こうか考えていたんだ」

「は?」

「何だそれは?」

 リストに設計中の魔法陣を説明していると、隣からエンドが聞いてきた。

「ほら、オクトにいつ、何があるか分からないだろ?だからちゃんと確認できるといいかなと思ったんだよ。うちの子、可愛いから。悪い虫がつかないか、心配で、心配で」

「それは確かにそうだな――」

「そ、そうだじゃ、ありません!何、エンド魔術師も納得してるんですか?!」

「なんだ。リストは、オクトが可愛くないとでも言うのか?」

 なんて奴だ。

 女好きだとは思っていたが、センスを疑う。それともリストは熟女好きなのだろうか。確かにオクトはまだまだ小さい。


「そう言う意味じゃありません。そもそも僕はまだ、アスタリスク魔術師の娘さんにお会いした事がないんですけど。って、そう言う事でもなくて。なんで仕事場で仕事以外の事をしてるんですか?!」

「なんだ。仕事なら、ほら。これが今日の分のレポート。これでいいだろ?急ぎの仕事もないし」

 俺は事前に作っておいた研究レポートをリストに見せた。

「なっ、いつのまにっ?!」

「これで文句ないだろ」

 俺からレポートを奪う様に掴み、中身を確認したリストは、パラパラと斜め読みすると、深くため息をついた。


「ちゃんと綺麗にまとまってます……どういう頭をしてるんですか」

「どうって、こういう?」

 俺は自分の頭を指差した。伯爵家の使用人の努力の結果、一応絶壁ではなく綺麗な形をしているはずだ。まあ、リストが言いたいのはそういう意味じゃないんだろうけど。

 正直に言えば、過去に趣味で実験したデーターを載せているから時間がかからないだけだ。無駄に時間を持て余していた時に作った魔方陣の数々は、まだまだストックがあり、少し応用すれば求められる物を作りだしたりもできる。

 ただしこれがばれると、さらに仕事を増やされるので、言わないけれど。


「もういいです……。ただ、逐一自分の行動を確認されていると知ったら、娘さん発狂しますよ」

「なんで?」

「心配なのは分かりますが、娘さんだって意思があるんです。束縛しすぎというのも良くありません。エンド魔術師もそう思いませんか?」

「確かに私なら、アスタに四六時中見られるのは御免被るな」

「俺だって、エンドの行動なんてどうでもいいさ」

 エンドの行動を確認して、何が面白いというのだろう。せいぜい、エルフ族が変だという事が観察結果から分かるぐらいだ。


「アスタリスク魔術師も自分自身に置き換えて考えてみて下さい。ずっと他人に自分の行動を見られているって、心休まらないと思いませんか?」

 うーん。

 まあ見られた所でやましい事はないが、誰かに行動を制限されるのは嫌だ。そう考えるとオクトも誰かに見られたくない時もあるだろう。例えばお風呂の時とか、着替えの時とか……流石に俺もそれを覗くんのは気が引ける。

「でもさ、もしも何かあった時にすぐオクトを助けに行きたいんだよな。そうするとパッとオクトの状況が確認できる方法が欲しいんだよ」

 場所だけの確認では、中々そこまで行く事ができない。オクトが必ずしも、転移魔法が可能な場所にいるとは限らないのだ。


「童話でさ、魔法の鏡って出てきたりするだろ。そんな感じのものがあると便利なんだよな。会いに行きたい時に、簡単に周囲を確認できるし」

「魔法の鏡?」

「エルフ族は知らないのか?ほら、死体フェチな王子様が、死んだお姫様を妻に迎えるアレだよ。リストは知ってるだろ」

「ああ。あのうっかり毒りんごをあげて、娘が死んじゃう話ですね。魔法の鏡は、『鏡よ、鏡。この世界で一番可愛いのはだーれ?』って、親馬鹿な母親が逐一娘の状況確認する為に出てくるあれですよね。あの話ってそれが嫌になって、娘が家出しちゃうんでしたっけ?」

 そうそう。

 俺は大きく頷いた。

 そんな感じで、見たい時に言葉一つで見れると一番いいと思うのだ。勿論オクトが童話のように、嫌になって家出すると困るので、内緒で確認する必要があるだろうけど。


「あれは、そんな話だったか?」

「エルフ族は違うのか?とにかく、俺もそんな鏡が欲しいんだよ」

 俺は夢の為に、再び図面に目を落とした。






◆◇◆◇◆◇ 





「というわけで、お嬢様は、ジーピーエス機能の魔法をかけられるのは、嫌だそうです」


 ペルーラから受けた報告に、俺は頭を悩ませた。

 リスト達に、魔法の鏡を検討している事を相談して数日後。さっそくオクト自身に追跡魔をかけている件がバレた。意外にうっかりさんなオクトだから早々気がつく事はないと思っていたのに。どうやら、一緒にいたカミュがバラしたらしい。

 あの糞王子め。


「旦那様がお嬢様の事を心配されるのはわかります。しかしあのままではオクトお嬢様は家出しかねないと思います」

 家出だと?

 まだオクトの姿を鏡で確認したわけでもないのに、もう、家出だと?!

 俺はすでにオクトが家出する危機に何度もさらされている。今のところそれが成功し、家出された事はないが、今度こそそうならないとも限らない。

「それは困る」

 どうしよう。

 童話では、家出の果てに、毒りんごで死にかけたが再び生き返ったお姫様は、死体フェチな王子様と結婚だ。もしもオクトが家出してカミュと結婚になったら……。

 うん。王子を殺るしかない。そしてオクトを捕まえて、国外逃亡――のすえに嫌われるんだろうな。

 オクトが『アスタなんて大嫌い』なんて言った日には、俺は死ねる。


「あの。よろしければ、私の意見を申し上げてもよいでしょうか?」

「いいよ。何だ?」

 ペルーラは真剣な様子で俺を見た。

 普通はメイドから主人へ意見を言う事などない。主人から問われれば話すというのがマナーだ。あくまで使用人は使用人で、主人と対等ではない。

 例え愚鈍なモノだったとしても、あくまで指示を出すのは主人で、使用人はその手と足となる。しかしペルーラはそれを覆しても、俺に言いたい事があるらしい。

 しかしこれでオクトの言う通りにしろというならば、ペルーラの今後を考えないといけないだろう。勿論普段の生活でオクトを一番に考えてくれるのはいい。その為にオクト付きのメイドにしてあるのだ。ただしあくまでも雇い主は俺。俺の意見ではなく、オクトの意見に重きを置くのでは困る。その場合、円滑に子爵邸を運営する為に、解雇という事もある。


「私も旦那様の意見に賛成で、オクトお嬢様が学校に1人で通われるのは心配です。しかしずっとジーピーエス機能を付けているのでは、お嬢様も納得しないと思います。なのでいつまでか、条件をつけてはどうでしょう?」

「条件?」

「例えば……オクトお嬢様が卒業するまでとしてはどうでしょうか?その後は、お嬢様も家に戻られるでしょうし」

 卒業するまでかぁ。

 確かに、学校に行く前は俺もオクトの行動が気になってたまらないという事もなかった。再びオクトが家に居てくれるようになるならば、わざわざそんな魔法をかける必要もない。

 そんな条件で済むなら、家出されるよりもずっといい案だ。

「いいなそれ。よし採用」

「あ、ありがとうございます!」

 ペルーラは心配そうに俺を見ていたが、俺が了承するとパッと顔を明るくして、尻尾を振りながら頭を下げた。


「これからも、俺とオクトの為に頑張ってくれよな」

「勿論です!私の命に代えても、旦那さまとお嬢様の為に働きます!」

 おいおい。命に代えてもって、流石に命の危険が迫るような予定はないからな。

 しかしペルーラのやる気をそぐのもあれかと思い、俺は寛大に頷いた。ペルーラは獣人だ。もしもオクトが誰かに襲われそうになった時は、身を呈して庇う事になるだろう。

 でもなぁ……。


「ただしオクトの為を思うなら、絶対死ぬなよ」

 オクトは使用人でも死んだり怪我をしたら悲しみ、傷つくだろう。オクトは最初から貴族ではなかった為か、今も使用人を使用人として割り切る事ができない。もちろん引き取られた当初のように使用人に対して敬語を使う事はなくなり、最低限の線引きはできている。

 しかしペルーラに限らず、使用人が死にそうになったら、オクトは無茶をしかねない。

 オクトは周りの事に無関心といった様子を装ってはいるが、かなり情が深い。試験の時に、赤の他人の為に魔法を使って保健室に運ばれたぐらいだ。

 それがオクトである事も分かっているが、そういう優しすぎる所はとても心配である。


「分かりました!絶対お嬢様の迷惑になるような事はしません!」

 ペルーラはそう言って力強く頷いた。

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