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5話  面倒な図書館事情

 ……何でここなんだ?


 待ち合わせの場所にオクトが中々来ないので、試運転も兼ねてオクトの居場所を魔法で確認してみたのだが……。どういうわけか、魔法で作り出した校内の地図は、オクトが図書館にいると示していた。

 よりによって、どうして図書館に。これが図書館でなければ、迷うことなくオクトを迎えに行くのだが。

 もう少し待つべきか。それとも行くべきか。

 

 別に俺も図書館という場所が嫌いなわけではないし、利用もする。しかし、あの図書館には煮ても焼いても食えない面倒な爺さんがいるのだ。

「……いくらオクトでも、いきなり知り合いになるとかないよな」

 オクトはあまり自分からヒトに関わっていこうとしない性格だ。なので普通に考えれば、オクトが面倒な爺さん事、館長と出会い、ましてや知り合いとなっている確率は限りなく低い。

 しかし、オクトの今までの事件への巻き込まれやすさを考えると……。うん。嫌な予感しかしない。


「やはり、こちらにいらっしゃいましたか」

 地図を眺めながら、校門前でどうするべきかを考え込んでいると、背後から声をかけられた。

「ん?ああ。なんだ、ヘキサか」

 低い声だったのでオクトではないだろう事は分かっていたが、若干残念な気持ちになる。もちろん地図が指している位置は図書館から微動だしていないので、当たり前なんだけど。むしろオクトがここにいたら、魔法の失敗を意味しているので、魔方陣の改良が必要となってしまう。


「何ですか、それは?」

「何って、地図だけど」

「地図?」

 ヘキサは理解できないといった様子で眉毛を潜めた。確かに地面が透けてみえるので、地図っぽく見えないのかもしれない。俺は目が悪いヘキサにも良く見えるよう、少しサイズを大きくした。

「ほら、学校の見取り図だろ。ここを触ると縮尺が変わる仕組みになっているんだ」

「何故学校の見取り図を?それにこの赤い点滅は何ですか?」

「この点は、オクトが何処にいるかを示しているんだよ」

「えっ?」

 ヘキサは驚いたように目を瞬かせた。

 唖然としたような表情に俺は首を傾げる。それほど驚くようなものだろうか?確かに珍しい魔法かもしれないけれど。


「正確に言えば、オクトに持たせた魔方陣の位置をこれで映し出しているんだ」

「あの……何のためにですか?」

「えっ?何のためって。これがあれば、オクトが何処にいるか、すぐに分かるだろう?」

 というか、オクトの居場所を知る以外に、どんな理由があると言うのか。そもそも、それ以外の活用法が思い浮かばない。いや、待て。例えばこの魔法に転移魔法を組み込めば、オクトがいる場所にすぐに行く事も可能じゃないか?ただその為には、もう少し詳しくオクトや周囲の状態が見れるようにしないとだよなぁ。

 後はオクトに持たせた魔法陣にもう少し手を加えれば、俺の方へ転移させる事も……いや。でもその場合、オクトをちゃんと指定できるか不安だし、危険も多いか。

 

「その……オクトは、納得しているんですよね?」

「そんなの内緒に決まっているだろ」

 言ったら、オクトの事だから絶対嫌がる。かといって、外すという選択肢がない以上、現状の状態が一番だ。

 しかし俺の言葉を聞いたヘキサは、こめかみを指で押さえた。そしてまるで疲れたとばかりに揉みほぐす。仕事が忙しいのかもしれない。


「……そうですか」

「そういえば、ヘキサはどうしたんだ?」

 学校の授業は終わった時間だが、ヘキサの勤務時間は終わっていない。まだこれから、明日の授業の準備があるはずだ。そうでなければ、この間のように、遅い時間まで職員室に残っていたりもしないだろう。

 ヘキサの性格からして、サボるとかは選択肢になさそうだ。

「オクトの事で、アスタリスク様に少し報告する事がありまして」

「報告?何か、あったのか?ま、まさか、虐めとか?!」

「いえ。カミュエルやライが近くにいるので、そんな事をする生徒はいません。オクトも、自分の現状を分かっているので、無闇に騒ぎを起こしたりしていませんので」


 まあ、そうだよな。

 虐められていれば、学校を断念させる良い理由になると考えなくもなかったが、早々オクトが虐められる事はないだろう。というか、その為にわざわざカミュやライ、それにヘキサをオクトの周りに配置したのだ。そんなに簡単に虐めてもらっては困る。

「なら、報告ってなんだ?」

「どうやらオクトが図書館を利用するのに、色々制限をされるようだったので、先に伝えておこうと思いまして」

「は?」

 図書館の利用の制限?なんだそれ?

「もっともまだ正式に図書館からの回答というわけではないので、オクトには伝えていませんけど」

「えっ?いや。ちょっと待って。制限って、何だ?」

 図書館に制限?

 今まで聞いた事もない話に、俺は待ったをかけた。


「オクトは混ぜモノですので、図書館の利用を控えるようにする制限かと。貴重な書物もありますし」

「確かにオクトは混ぜモノだけどさ。でも図書館だろ?」

 図書館は中立。何モノも拒まない。その代り、誰かに力を貸す事もない、そんな場所だ。確かに混ぜモノはかなり特殊だろうが、あの館長がそんな事ぐらいで差別をするだろうか。

「そうですね。しかし今年は数名の一年生がすでに利用できないよう旨を言い渡されたようです」

「いや。ようですって……」

 あの爺。何を考えているんだ?


 そんな話聞いた事がない。

 もちろん俺が学校に通っていた時とは状況が変わった可能性はある。しかしどうにもしっくりとこない。文字だけでなくヒトを見て判断しろだの、ヒトは変わるものだと、くどくど耳タコができるぐらいに俺へ説教をした館長とは思えない対応だ。それに図書館が利用できないと、学生は授業を受けていく上で、色々不都合も出てくるんじゃないだろうか。

 使ってはいけません、はい、わかりましたで済む話とは思えない。

「まさかわざと抗議される為じゃないだろうな?」

「わざとですか?何のために?」

 それを言われると返答が難しいが、あの館長の事だ。言った事を額面通り受け取るのは、色々危険である。館長の先読みの能力は、はっきり言ってヒトの範疇を超えた、賢者の域だ。


「でもオクトは実際今図書館にいるし。かといって、ヘキサの話を聞く限り、オクトが普通に利用しているという事はないだろ」

「えっ。もう図書館に行ったのですか?」

「地図上ではそうだな」

 オクトは結構本が好きだ。かといって、俺との約束をすっぽかしてまで図書館で本を読むほどでもない。

 だとすれば、何か図書館でこの待ち合わせ場所に来られない理由が発生したのだろう。今ある情報だけで考えれば、今回の図書館の制限が関係しているように思えてならない。


「いいや。とりあえず、図書館に行ってくる」

「分かりました」

 ヘキサは普段通りの生真面目な顔で頷いた。

 そこで、ふとオクトだけでなく、ヘキサも平等に可愛がらないといけない事に俺は気がついた。折角妹の為に心を砕いてくれたのだ。兄妹に差をつけると、後々仲違の原因になると聞いた事もある。

 同じぐらいの身長なのでやり辛いが、俺は手を上に伸ばしヘキサの頭を撫ぜた。


「ちょっ、何ですか?!」

 慌てたようにヘキサは俺から離れる。折角撫ぜていた手が宙をきった。ちぇっ。折角可愛がってやろうと思ったのに。いいけどさ。

「オクトの事、教えてくれてありがとう。またよろしくな、お兄ちゃん」

「い、いいですから。早く図書館に行って下さい」

 オクトもヘキサも本当に恥ずかしがり屋だよなぁ。

 ヘキサに促されるまま、俺は図書館の入口前まで転移した。





◆◇◆◇◆◇






「館長。俺の娘を返してもらいたいんだけど」

 地図を頼りに図書館を進んでいくと、オクトは館長の部屋にいた。

 ……どうして俺の娘はこんなに早く、厄介なヒトと知り合いになるのか。図書館の利用が制限されたにしろ、俺に相談してからでもいいのに。オクトは自立心が高くて困る。


「アスタ、ごめん」

「オクトは謝らなくていいよ。で、話が終わったなら、俺は娘を連れて帰りたいんだけど」

 別にオクトを待つのはそれほど苦痛でないのでいいのだが、オクトが帰れない理由が館長にあるというのなら話は別だ。さっさとこの場を離れるに限る。

 正直俺では、館長の考えを全て読み解くのは難しい。館長は何も考えていないような言動をするのに、結果は全て計算されたようなものとなる。

 館長の思い通りにならないようにする為には、オクトから先に事情を聞いた方がまだいいだろう。


「おお、噂はしてみるものじゃのう。今、ちょうど君の事を話しておった所じゃよ」

「俺の話?」

 ……何を話していたんだ、糞爺。絶対、碌な事を話していない気がする。

「ところで君にもオクト魔法学生の事で話があるんじゃが、ちょっとばかし一緒に来てはくれんかのう」

「なんで――」

「色々積もる話もあるしのう。どうじゃ?」

 積もる話なんて俺にはない。

 しかし館長はまるで、俺の秘密を握っているぞといったような顔をしている。そしてこの爺は、俺の学生時代を知る、数少ないヒトでもあった。

 俺だって若い時は色々失敗だってする。このままでは、オクトに何を話すか分かったものではない。

 あー、くそっ。


「……分かったよ。オクト、少し待ってて。すぐ終わらせるから」

 少しでも癒されてから行こうと思い、オクトの頭を撫ぜる。できる事なら、もうこのまま家に帰ってしまいたい。しかしそんなわけにもいかないのも分かっている。

 俺は心底嫌そうな顔で館長を睨みつけてから、部屋の外に出た。


「こっちじゃ」

 後から出てきた館長は案内するといわんばかりに、俺の前をひょこひょこと歩き出した。

「別に俺は廊下でもいいんだけど」

「そうかね?折角、美味しい茶菓子を出そうと思ったんじゃが」

「むしろ、早く終わらせたい」

 それに館長と薄ら寒いお茶会をするぐらいなら、オクトの手作りお菓子を1人で食べていた方がいい。館長はやれやれといった様子で肩をすくめるが、了解はしたようで足を止めた。


「せっかちじゃのう。まあ、よい。話は簡単じゃ。ちーっとお前さんの娘を貸してくれ」

「嫌だ」

「そんな即答せんでもええのに。減るもんじゃあるまい」

「俺とオクトの時間が確実に減る」

 俺は曖昧さを一切残さないように、きっぱりと、館長に答えた。オクトを館長に貸すとか冗談じゃない。


「娘を引き取ったと聞いたから、少しは丸くなったかと思えば。やれやれ。か弱い年よりの言う事なんじゃ。少しは耳を貸してはどうかね」

 何が、か弱い年寄りだ。

 年寄りには間違いないだろうが、この爺がか弱かった所なんて見た事ない。

「とにかく。何を企んでいるのか知らないけど、俺のオクトを巻き込まないでくれないか?」

 オクトは館長の件がなくても、色々と巻き込まれやすい体質なのだ。おかげでいつも、心配でたまらない。


「企んでいるとは酷いのう。折角の親切心をそのように扱うなんて」

「親切心?」

「そうじゃよ。オクトは混ぜモノじゃから、色々とちょっかいを出したがるモノも多い。その時オクトが図書館で働いていれば、中立である図書館の所属になるから、周りにもいい牽制になるじゃろ?」

 まあ、内容は理にかなっている。しかし館長がいくら可愛らしく小首を傾げて話しかけてきても、俺には何かを企んでいるようにしか見えない。というか、そんな可愛い性格じゃないだろ。

 

「それともなんじゃ。まだ、お尻ペンペンした事を根にもっとるのか。小さい男じゃのう」

 しれっと言った言葉に俺はぎょっとした。

 なんて古い話を持ち出すんだ。

「あの頃のアスタリスク魔術師は、本当にヒトをヒトと思っておらん、傲慢な鼻たれ小僧じゃったからのう。わしがお前さんを矯正せんかったら、今頃独り身で、寂しく悪の魔術師とかやっておったに違いないぞ。そう考えると、本当に丸くなったモノじゃなぁ」

 そう言って、館長は俺を見上げた。

 目は真っ白な眉毛の所為でよく見えないが、絶対笑っている。


「……脅しか?」

 この糞爺。

 ヒトの事脅しておいて、何がか弱いだ。

「わしはなーんもいっとらんぞ?ただ折角じゃし、子供たちに昔話を聞かせてやってもええのう。国一番の魔術師が、どれだけ性悪な悪餓鬼だったか」

 それを脅しと言うんだよ。この野郎。

 昔の事を知っている奴は本当に厄介だ。


「……アンタがやろうとしている事は、本当にオクトの為になるんだな」

 館長は先を読む事に長けている。だからきっと今回の事も、何か考えがあっての事だろう。

 ただ俺は館長が、子供に甘い事も知っている。館長はオクトを何かに利用しようとしているのかもしれないが、確実に子供の枠組みに入るオクトへ危害を及ぼそうとは思っていないだろう。

「もちろんじゃとも。あの子は、わしにとっては大切な子じゃ。もちろんアスタリスク魔術師もじゃよ?」

「薄ら寒いからやめろ」

 俺の事幾つだと思っているんだ。

 そりゃ館長からしたら、相当若いだろうけど。でもなんだかんだいって、館長の方が俺よりも長生きしそうなきがする。


「とりあえず、分かった」

 俺は負けを認めて両手を上げた。

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