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20話  控えめな執着

「アスタ大丈夫?」

 転移魔法を何度も繰り返す事3日間。ようやくドルン国にはついたが、流石にくたびれた。一応何度か休憩は挟んではいたが、いくら転移魔法が得意だといっても国越えはきつい。特に国外だと一度も行ったことのない場所に転移する事になる為、事前の情報をしっかりと把握はしていたとしても結構神経を使う。しかもここは、混融湖という魔の森並みに魔法の歪みが出やすい土地だ。バランスをとる為の計算も半端なかった。

 しかし、それを言うとオクトが気にするかもしれない。本来国境を越えるなら馬車を使用するが、オクトが馬を怖がったので断念せざる得なかったのだ。どうも昔、馬に噛みつかれかけたのがトラウマになっているらしい。


「おー。少し休めば大丈夫だ」

 実際、魔力が不足して疲れているわけではないので、休めば何とかなるだろう。それにしても、オクトに心配してもらえるなんて、幸せだよなぁ。それだけで、疲れもなくなるというものだ。

「とりあえず、水」

 ああ、なんて気の利いた娘だろう。

 オクトは鞄からコップを取り出し、魔法で水を集めた。そういう仕事は、ペルーラにやらせておけばいいのに、オクトは相変わらず働き者だ。

 自分でもできるような魔法だけど、オクトが俺の為に用意してくれたというだけで、ただの水がすごく美味しく感じた。

 さらにコップを受け取った時にオクトがはにかんだように小さく笑うのが見れて、胸のあたりがほんわかと温かくなる。まるで俺の役に立ててうれしいかのような顔が可愛すぎて、俺はオクトの頭を撫ぜた。

「ありがとう」

 頑張って、転移魔法をして良かった。本当に良かった。


「オクト、あそこで採掘しているみたいだよ!」


「へえ」

 俺がオクトと話をしていると、エストがオクトに声をかけてきた。オクトは、採掘という単語に反応したようで、振り返る。さらにエストはそんなオクトの手を引っ張った。

 もちろんオクトの力は弱いので、あっさりと俺の前から離れ、エストの方に引き寄せられる。

 折角、オクトで癒されていたの何をするんだと俺は睨みつけたが、エストは気がついてませんとポーズするかのように俺の方を一切見ない。……この野郎。


「オクト」

「ん?」

 連れていかれたくない。行ってほしくない。ここに居て欲しい。

 そんな思いで名前を呼ぶと、オクトが不思議そうな顔で俺を見上げた。俺の声をちゃんと聞いてくれるオクトに、思った事をそのまま言おうとして、ふと館長やリストの言葉を思い出す。

 これも、オクトの行動を縛っているに入るのだろうか。エストがオクトをどう思っているかは別だが、オクトはエストを友人だと思い、異世界のモノに興味を持っているだけなのだ。

 今のオクトにそれ以外の気持ちはない。

「……あまりはしゃぐと危ないから、気をつけろよ」

「うん」

 結局、俺に言えるのはそれだけだった。

 オクトが逃げ出すような干渉って、どれぐらいなのだろう。オクトは結構我慢をしてしまう子なので、早々ない気がする。

 それでも、オクトの好奇心を押さえつけるのは駄目な気がするし、友人をすべて排除するのもオクトでは無理な気がした。そんな事をすれば、オクトがすごく悲しむのが目に見える。

 館長が残した言葉は、明確な線引きがされていなくて、すごく難しい。


「おーい。まずは今日から泊まる所へ行くぞ」

 考えこんでいると、ライがこれからしばらく、宿泊することになる場所を聞いてきたらしい。予定地点と変わりがなければ、この混融湖からそこまで離れていない場所のはず。

 見渡すと、少し離れた場所に、大きな屋敷の頭が見えた。歩いてはいける距離だが、少し遠いかもしれない。やはり転移魔法の為に正確さが求められるアールベロ国の地図に比べると、他国の地図は精度が落ちるようだ。

 さて、これからこの国でどうやって過ごそうか。そう思いながら、俺は腰かけていた石の上から立ちあがった。







◇◆◇◆◇◆◇







「アスタ、エストと買い物に行っていい?」

 ドルン国にやってきて2日目の朝。

 オクトがそう俺に尋ねてきた。そんなの駄目に決まっているだろ。そう言いたいのに、オクトの目があまりにキラキラしていて、その一言が言えない。

「何を買いに行くんだ?」

「エストがミウへのお土産を一緒に選んでほしいって言ってきたから。何か私もお土産をあげたかったし」

 ミウといえば、オクトと同じ学校の獣人の娘だったはず。今はエストが同じクラスで、オクトとは入学式以来の付き合いの子。

 これを駄目と言ったら、たぶんオクトは落ち込むだろう。

「……俺も行こうか?」

「アスタはもう少し休んでいて。昨日の転移魔法の疲れがとれていないと思う」

 オクトは俺の体が本当に心配らしく、少し眉をハの字にした。心配されているのは悪い気分じゃないが……エストと2人きりというのはどうなんだろう。

 

「えっと。アスタは明日一緒に行こう?」

「明日?」

「そう。できたら……その、ヘキサ兄にお土産買いたいから」

 ヘキサへの土産なんて俺は考えていなかったが、オクトはお土産を買ってあげたいヒトの中に入れていたらしい。

「後、アスタのお父さんとお母さんにも。それから職場にもいると思うけど……長持ちするお菓子はあるだろうか?」

 オクトってお土産好きなんだな。

 オクトと旅行に来たのは初めてなので、意外な一面だ。オクトはどちらかというと節約家な上に物欲が薄い。その為、あまり何かを自分から買ったりはしない。

 勿論今回買うのは自分のものではないけれど、それでも色々買い物をしたいみたいだ。

「それも先に下見しておくから……駄目かな?」

 上目づかいで心配そうに見上げてくるオクトを見て駄目と答えられるヒトがいるはずがない。とりあえず、俺には無理だった。

「……いいよ。ただし遅くならないようにね」

 俺はせめてもの抵抗で、遅くならないようにという言葉を付け加えた。



 そして、その数時間後。

「……何で。俺まで」

「お前は、護衛として来たんだろうが。ちゃんと仕事をしろ」

「へーい」

 エストと一緒に買い物へ出かけたオクトをライと一緒に尾行していた。買い物に行く事を許可はしたが、もしもエストがおかしな行動に出たら、魔法で消し炭にしようと思う。うちの娘に手を出したら、その落とし前はきっちりつけさせてもらうつもりだ。

 俺の勘では、エストはオクトに対して、友人以上の想いを持っていると思う。オクトがそれに気が付いているかどうかは知らないが、今のところ相手にしていないのは確か。しかし今後も、同じとは言えない。

 

「ちょっと、あれは近づきすぎじゃないか?」

「いや、2人で買い物に来ていたなら、離れて歩く方が変だから」

 何やら店の前で話しているようで、エストとオクトの距離がすごく近い。それにエストの方が身長がかなり高いので、エストは周りからオクトを守るかのように、必ず道側を歩いたりしていた。

 あれではまるで恋び――いやいや。兄妹だ。決してデートなんかに見えない。全然見えない。

 それにしても、オクトが所々で、柔らかい笑みを見せる。お土産選びはよほど楽しいのだろう。ああ。それにしても勿体ない。あの笑顔は、是非絵として残さなければ。

 俺はオクトに着けた追跡魔法の魔法陣を使って、自分の目の前にオクトの映像を小さく映し出した。そして、ちょうどいいタイミングを見計らいながら、画像を保存する。

「……師匠、ソレ何?」

「オクトの姿を記録として残す為の魔法陣だ」

 ライの方を見ることなく、俺は画像保存に集中する。

 まだ開発途中なので、それほどたくさん残すことはできない。残した画像も早めに紙か石版に写し直さないと、消えてしまう事があるので、課題も多いものなのだ。


「えっと。オクトはそれの事知っているんですか?」

「いや、知らないと思うぞ?」

 オクトは恥ずかしがり屋だから、知っていたら、絶対嫌がりそうだ。俺は絵に残しておけば、いつでも愛でる事が可能なので凄く素晴らしい発明だと思うのだけど。

「ようやくここまでの形になったのも最近だからな。上手く焦点が合わずにボケてしまうこともあるし。それに普通に絵画に残すようにオクトがじっとしていればいいのだけど、動くから、やっぱり絵がぼけやすいし」

 なかなかに、この微調整が難しいのだ。360度すべての角度からオクトを見れるようにはしたけれど、静止しているわけではないので、この辺りが今後の課題だろう。

「あー……たぶんオクトが知ったら憤死すると思うから、隠しておいた方がいいと思います」

「俺の楽しみだから、別にいいんだけどさ」

 そこまで嫌か?まあでも、オクトに見せる為に残しているわけではないのだし。

 とりあえず、あの見ているだけでイライラしてくる買い物に乱入できない代わりにと、俺はオクトの画像で綺麗なものをできるだけ残せるように集中した。

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