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10話  過保護な父による害虫駆除

 【オクトをお家に引きとめ大作戦】の為に、一度オクトの交友関係を少し整理しよう。

 

 まずオクトから聞く学校生活での友達は、カミュ、ライ以外に、エストとコンユウ、それに女の子の友達としてミウが加わった。図書館でも先輩と話したりはするようだが、オクトの口ぶりからすると、業務連絡程度でさほど仲が良いというわけでもないようだ。

「……なぜ男ばかり」

 まあそもそも男が多い学校だ。となれば必然的に男友達ができるに決まっている。決まっているが、普通数少ない女同士引っ付いて生活するのではないだろうか。少なくとも俺が学生時代はそうだった気がする。中には、一匹狼的な子もいたけれど――。

「あ。オクトもそれか」

 元々家で引きこもってばかりだったので、友達がどうしても欲しいというタイプではない。むしろ混ぜモノという事で怖がらせてしまうぐらいなら、最初から近づかない方が楽とか思っていそうだ。

 来るもの拒まず、去る者追わず。自分からは全く動かない。

 となれば、オクトが助けたというミウ以外の女の子は進んで混ぜモノに近づこうとはしないだろう。結果、友情が成り立たないのだ。

 そしてコンユウというツンデレ君以外の野郎は入学前からオクトとの面識がある。エストというデキスギ君は、ミウと同じで数年前の事になるがオクトに助けられ、確か文通が続いていた。結果的にオクトの交友関係は現在の状況に収まる。


「このツンデレ君とデキスギ君は嫌な予感がするんだよな」

 学校に入ってからオクトの話の中でよく出てくるようになった2人。

 オクトはツンデレ君とは相性が悪いように言っているが、結構ずけずけとモノを言いあえる仲となっている気がする。逆にデキスギ君とはそこまで言いあう事はないようだが、自分にはない対人関係スキルを持っていてすごいと褒めている。そしてこのデキスギ君の行動は、明らかにオクトに好意を持っているものに思えてならない。……オクトにいいところを見せようとか思ってるんじゃないぞ、クソガキ。

 っと、今はそんな事を考えても仕方がなかった。それでもオクトが笑顔で褒めているところを思い出すと、イラッとする。


 オクトがこの家を出ていかないように、オクトの中から俺以外の選択肢を潰す事を考えると、できたらこの2人はオクトの周りから排除してしまいたいところだ。

 しかしオクトのとても狭い交友関係を思うと、なくしてしまうというのは、それはそれで色々問題な気がする。やっぱり腹黒王子やそのお供以外にも、話せる相手というのは作っておくべきだろう。そうでないと、オクトまで腹黒に成長してしまいそうだし、ライのようにカミュに傾倒されても困る。

「となると、オクトの友達であっても、必要以上にオクトに接近させないようにしないとだよな」

 かといって、現状ではツンデレ君とデキスギ君の情報はオクトからしか貰えない。そもそも2人はオクトと違う学年な為、ヘキサからの情報も少ないのだ。第一ヘキサからの情報はまるで業務連絡で、あまり2人の弱点とか、そういう話は掴んで来てくれそうもない。


 どうするべきかと考えていると、部屋の扉がノックされた。

 今日は仕事も休みなので、子爵邸でのんびりしていたのだが……まだ食事の時間でもないし、こんな時間に珍しい。

「どうかしたか?」

「今オクトお嬢様のご友人の方がみえておりますが、いかがしましょう?」

「オクトの友人?」

 カミュやライだろうか?

 いや。あいつ等の時は、使用人もとりあえず客室に通してしまう。わざわざお伺いを立ててくるという事は別のヒトという事だ。


「オクトお嬢様は、今買い物に出かけておりまして……」

「相手の名前は?」

「ミウ様、コンユウ様、エスト様の3名です」

 ……噂すれば影という言葉をオクトに教えてもらったが、まさしくその状態だ。

 オクトがいない状態で彼らと話をするのは、中々ない好機だろう。

「俺が相手しよう。客間に通して」

 さて一体どんな子なのだろうか。

 俺は少しわくわくしながら客間へ向かった。





◇◆◇◆◇◆◇





「初めまして、オクトちゃんのお父様」

 そう言ってウサギの耳をピコピコ動かした子が、ぺこりと会釈した。ピンクの髪にオレンジ色の真ん丸な瞳。間違いない。この子が、オクトの唯一の女友達のミウだろう。

「初めまして。君がミウちゃんかな?」

「はいっ!」

 ミウは名前を呼ぶと、笑顔で元気よくうなづいた。オクトとは性格が真逆なタイプのようである。引きこもり、ぼっち体質なオクトが振り回されて少しぐったりしている様子が目に浮かぶ。

「お久しぶりです」

「どうも……初めまして」

 にっこりと愛想よく笑ったのがデキスギ君事エスト、紫色の瞳を伏せがちにしながら、ボソッと挨拶したのが、たぶんツンデレ君事コンユウだろう。

 ふーん。

 この2人がオクトの新しい男友達か。

「やあ。女の子の家によく遊びに来れたね」

 にっこりと笑いながら声をかけてやると、ピシッと2人は凍りついたかのように動きを止めた。動揺しているのが手に取るように分かる。

 なるほど。第二王子のような腹黒ではなさそうだ。


「オクトは今外出しているんだ。待たせてすまないね」

「い、いえ」

「とんでも……ないです」

 ビクッとしながらも、2人は一応礼儀正しく俺の言葉を否定する。ちゃんと社交辞令ということは分かっているようだ。

「私たちこそ、突然押し掛けてしまってごめんなさい。それにしても、オクトちゃんって、すごいお金持ちのお嬢様だったんですね」

「そうだよ。お嬢様なんだよ」

「オクトちゃんって気取ったところがなくて、気さくで、優しくて、全然お嬢様らしくないというか。ああ、もちろんいい意味でです」

「えっ?気さく――」

「本当ですね」

 コンユウが何か言おうとしたのを、慌てたようにエストが止めた。たぶん否定的なものだろうけど……普通は思っても口に出さないんじゃないか?

 エストの対人スキルというのは、オクトが褒めまくっていたように高いようだが、隣に居る人物が低すぎるのもそう見せる原因かもしれない。ただ対人スキルが高いだけではなく、面倒みのよさも付加されているようだ。……ますます、オクトの近くには置いておきたくない人材である。


「うんうん。ミウちゃんはオクトの事をよく分かっているね。そうなんだよ。うちのオクトは無自覚だけど、すごくいい子でね」

「それにこんなイケメンのお父様がみえるなんて、オクトちゃんが羨ましいです。オクトちゃんがお父様大好きになるのも分かるなぁ」

「えっ?オクトが俺の事好き?」

 思いもしないミウの発言にきょとんとしてしまう。そう言えば、俺ってオクトに好きとか言われたことないんだよなぁ。

 オクトは照れ屋なところがあるので、俺だけではなく誰に対してもそうなんだけど。子供っぽくない子供だった事がきっかけでオクトを引き取る事になったのだけど、たまには天真爛漫な子供のように満面の笑みで『パパ大好き』とか言われたい。

 ……あ、ヤバい。そんなの可愛すぎるだろ。

 想像だけで悶えそうになるが、流石にオクトの友人の前で悶えるわけにはいかず、俺はミウに優しく笑いかけた。なんていい子なんだろう。いい夢、ありがとう。


「はい。オクトちゃん、いつも話をする時に、お父様の事を持ち出すんです。特に魔法に関しては、『アスタに比べたらまだまだ』とか言って。オクトちゃんも、十分すごいのにっ!」

 まあ、そりゃ、俺だって伊達に80年生きているわけではないので、オクトより魔法が上手く使いこなせるのは当たり前だ。しかし当たり前のことでも、オクトに尊敬されていると思うと、すごく照れる。そうか。オクトは俺の事を認めてくれてたんだな。

「ミウちゃんはすごくいい子だね」

 俺はよしよしとピンクの頭を撫ぜてやる。すると、ぴこぴことウサギ耳が揺れた。


「でもそんな自分をよく分かっていないオクトだから、害虫はちゃんと駆除してやらないといけないと思ったんだよね」

「害虫?」

 きょとんとするミウに、なんとなく察したのか青くなる2人。うん。こんな素直に反応する奴って俺の周りには少ないから、少し面白い。これが腹黒王子なら上手く流すだろうし、エンドだったら本気の喧嘩になってしまう。

 俺はからかい半分、本気半分で、にっこりと野郎に笑みを向けた。

「というわけで、オクトに手を出すつもりがあるなら、俺を倒してからにしろよ?」

 といっても、俺を倒すには100年早いけどな。もちろん年下だろうと、向かってくるなら容赦する気はない。これで彼らがオクトの友達を止めるなら、そこまでの男だったという事だ。

 

 俺はそう思い、色々厄介そうな2人に宣戦布告をした。

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