短編
「ねえ・・・浩君・・・。また、会えるよね?」
「うん・・・勿論だよ!僕達は・・・また、会えるさ・・!」
「うん・・・。じゃあ、今は一旦お別れだね・・?」
「・・・そうだね。安心してよ、僕は絶対貴女の事を見つけるからね?」
「ほんとに・・・?」
「ああ、本当だとも・・!僕が今まで嘘ついた事あった?」
「ううん・・・。約束自体を、忘れる事はあったけどね・・・」
「うっ・・・」
「あはは・・・。・・・うん、信じるよ。浩君なら私を直ぐに見つけてくれるって・・・」
「・・・任せて。だから、今はゆっくり、お休み・・・」
「う、ん・・・。浩、君・・・」
「・・・なんだい?」
「絶対に・・・また・・・会える、よね・・・?」
「・・・当たり前だよ・・!絶対にまた会おうね!」
「うん・・・。浩、君・・・」
「・・・なに?奈緒・・・」
「私ね・・・浩君の事・・・本当に・・・」
大好きでした
ピッ、ピッ、ピーーーーーーーーーーーーーーーーー!
「・・・20時32分。神埼奈緒さんの死亡を確認されました。・・・この度はお悔やみ申し上げます・・・」
「・・・お医者様」
「・・・なんだい、浩平君」
「・・・奈緒は、奈緒は本当に助からなかったんですか?助ける事は出来なかったんですか・・・?」
「・・・・・・私どもの病院では設備の問題と医師の技量的問題で、延命措置がやっとでした・・・」
「・・・仮に、仮にですよ。奈緒を、他の大学病院に搬送を受け入れて頂けていたら、助かっていたのでしょうか・・・?」
「・・・絶対と言う言葉を医師は使う事は御座いませんが・・・。それでも助かる可能性は高かったでしょう・・」
「・・・そう、ですか・・・」
「浩平君は」
そこで医師は少し躊躇うように言葉を一度区切った。そして少しして意を決して彼女のベッドの横で膝立ちしている彼に尋ねる。
「君は・・・我々医師を怨みますか?・・・彼女の搬送を拒んだ大学病院を怨みますか?」
「・・・・・・。僕、は・・・」
そこで彼は言葉を切り立ち上がりながら再び口を開いた。
「あなた方を怨みません・・・。確かに延命しか出来なかったかも知れませんが、その延命で奈緒と話すことが出来ました」
彼は完全に立ち上がり、未だに彼女を見たまま口を開く。
「そして、大学病院も怨みません・・・。確かに搬送を拒否したのは許せません。しかし・・・彼らにはいつか、これまでのつけが溜まりに溜まって自らに帰ってくると思います。そしてそれが彼らに対しての裁きになるのでしょう。ですので、僕は大学病院には何もしません」
そして彼は此方に顔を向けながら又もや口を開いた。
「そして・・・奈緒は、貴方方を怨む事なんて望んでいない筈です。現に本当に怨んでいるのなら、先程も貴方を罵倒していた筈です。しかし奈緒はしませんでした。何故なら・・・少なからず感謝をしているからです。ですから、僕は・・・彼女の意思を汲みたいんです。必死で助けようとしてくれた貴方に感謝をしている奈緒を裏切るような事はしたくありません。それに・・・」
此方に完全に顔を向ける彼。その目には――――
「僕達は、また会えるって約束しましたから・・・」
――――――確信に近い何かと、僅かながらの狂気が混じっていた――――――――
「お~い、村谷!どうだ?これからサークルのメンバーと一緒に飲みに行こうって言ってんだけどよ~お前も行こうぜ!」
ここはとある地方の大学の教室内。そこで僕と同じサークルの友人である来樹が話しかけてきた。
「・・・すまない。今日は大切な用があるから行けないんだ・・・。本当にすまないな・・・。この埋め合わせは後日必ずしよう」
そう来樹に返す。
「そうかい・・・。まあ大事な用があるんなら仕方ねえな!分かったよ!また今度誘うから今度は参加しろよ!」
来樹はこういうときは深いところは聞いて来ないから好感が持てる。だから僕はこの大学に入って3年も経つが、こいつとは未だに交流を持ち続けている。
「すまないな・・・・」
「良いって事よ!・・・所でよ、もしかして、彼女の所に行っちゃったりする感じなのか?どうなんだ?」
「・・・・・・」
訂正。確かに深いところは聞いてはこないが、唐突に浅くも無く深くも無い所を突いてくるのはやめて欲しいんだが・・・。
「何故、聞きたい?」
「結構重要なことだからと単純に興味がわいたからだな」
「・・・・・・」
どうするか・・・。答えても良いんだが、後々面倒くさい気がするしな・・・。
「いや、答えずらかったら答えなくて良いぜ!唯、毎年今日だけは断るから何でかな~って皆疑問に思ってたんだよ!」
そう言われ周りのサークルの仲間たちを見てみると、皆一様に頷いている。
「そうなんだよな~」
「うんうん!確かに何時もなら何だかんだ言って付き合ってくれるのに、毎年今日だけは行かないからさ~」
「気にはなってはいたが、聞く機会がなくてな・・」
「だから今序に聞きたいな~って!」
「・・・まあ、大事な人との、特別な日、ってとこだな・・・」
「浩平・・・」
僕は今どんな顔をしているんだろうな・・・。来樹が悲しそうな顔をしているから相当酷い顔なんだな・・・。
「・・・悪いな。もう、帰るわ・・・」
「・・・・・ああ。また、明日な!あ、近い内に今日の埋め合わせの分の飲み会するからな~。財布と休日をキチンと確保しとけよ?」
最初は少し神妙そうに。中盤は気遣うように。最後はお茶らけた口調で俺に言う来樹。多分気まずくなった空気を換える為にしたんだろうな・・・。本当にそう言う所は尊敬できるよ。
「じゃあ、また明日な・・・。ばいばい・・・」
「おう!ばいばーい!」
「また明日ね~!」
そうして俺は学校から出て、ある場所へと向かった。
「ふ~・・・。ゴメンね、遅れて・・・」
僕は目の前の彼女に向けてそう言った・・・。いや、正確に言えば目の前の彼女の墓標に向けてそう言った。
そう・・・今日は彼女、僕の最愛にして唯一無二の家族とも言える人、神埼奈緒の命日である・・・。
「あれからもう、4年も経つんだね・・・。僕が、あの日、遊園地でデートをしよう、なんて言わなければ、君が死ぬ事なんて無かったよね・・・」
そう、彼女が死んだのは僕のせいだ。あの時、遊園地でデートをしようなんて言い出さなければ、こんな事には・・・。
あの日、僕達が付き合い始めて丁度1年が経った。それを祝してどこかでデートをしようってなった。そして僕は商店街のくじ引きで当たった有名な遊園地にデートに行こうと奈緒を誘った。
奈緒はとても喜んでくれて、僕達は嬉々として遊園地に向かった。そして遊園地に着いた僕達は時間が許すまで遊び呆けた。
しかし、悲劇は起こった。あれは18時位だっただろうか。急に明かりが消えだして僕達は不審に思った。そして事件は起こった。
行き成り黒尽くめの集団が現れたかと思うと手に持った銃を乱射し僕達は悲鳴を上げた。何でもここを占拠したテロ集団らしく、ここの人達を人質に今の政府と交渉をしているようだ。
幸い今の所は彼らは何もする気が無く此方が下手に刺激を与えなければ危害は加えられる事は無いだろう。
それから1時間位だろうか。警察の特殊部隊が突入し犯人を次々と確保していき皆安堵の息を吐き次々と犯人達に暴言を吐く人々。警官隊がそれを止めさす為に人々を抑えていく。
それを見て油断していたんだろう。一人の犯人が警官の拘束から抜け出し懐からナイフを取り出し僕に向かって突き出してくる。
他の人達は悲鳴を上げたり逃げろと言ったりしているが、僕の足はまるで根が生えたかのようにそこから動けなかった。
僕は走馬灯が浮かび上がり死を覚悟した。心残りが無かったわけではないが、それでも僕は助かる事は無いだろうと思っていた。
しかし、それは違った。誰かが走ってくる音が聞こえて次の瞬間、誰かに押されて地面を転がった。頭を振り僕を押した人を見ると、そこには・・・。
―――白いワンピースの腹部にあたる部分から―――
―――赤い、赤いナニかが、白のワンピースを赤く染め上げ―――
―――苦悶の表情を浮かび上げている―――
――――――僕の最愛の人、神埼奈緒が居た―――――
「・・・・・えっ?」
僕は理解が出来なかった。何で彼女がそこに居るのか。何で彼女のお腹にナイフが刺さっているのか。何で?何で?何で?
何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?
その後その犯人は警察に取り押さえられ他の人達が救急車を呼んでいたらしいが、僕の耳には入ってこなかった。
「どう、して・・・?どうして、僕なんかを、庇ったの・・・?どうして・・・?」
僕は彼女に問いかける。彼女は苦悶の表情を浮かべながら、僕の問いに答えようとする。
「どうしてって・・・・・・。そんなの、決まってるよ・・・。私が浩君の・・事が・・好き、だからだよ」
「だから、僕なんか・・何て、言わ・・ない・・でね?」
ゴホッ、ゴホッ!
奈緒が咳をすると血が出て来た。
「っ!?救急車は未だなんですか!?早く来てください!奈緒が、奈緒が!?」
「救急車来ました!!」
奈緒を救急車に乗せて僕も一緒に乗り込み病院に向かう。しかし近くの大学病院には断られ、時間が無く近くの市立病院に奈緒が運び込まれたが時既に遅く、延命措置しか出来ず奈緒は息を引き取った。
「僕があの時動けたら、君は僕を庇うことは無かった。いや、僕があの時行こうって言わなければ、君は死ななかった。僕が、居なければ君は・・・」
僕が今日ここに来たのは奈緒の命日で、お墓参りに来ているのもある。しかし、もう一つ理由がある。それは、
「僕は、もう疲れたんだ・・・君が居ない世界に・・・。だから、僕もそっちに逝くよ」
そう。僕はもうこの世界で、彼女の未来を犠牲に生き続けたこの世界に疲れきった。奈緒が居ないのに周り続ける世界。僕だけ違和感を感じる世界。自分が嫌で嫌で、奈緒と約束はしていたが、それでも何度も何度も自殺をしようとした。
しかし、どうしても、奈緒との、最後の約束が頭をよぎり、何時も躊躇わせた。そして幾許かの月日が経ち、喪失感が少しずつ癒えていき普通の生活には戻れた・・・表面上は。
しかし日常に戻れば戻るほど、奈緒が居ない事に対しての違和感が大きくなっていき、次第に未来に対しての希望が消えていった。
そして4年経った今日、僕は彼女の墓参りをした後に墓標の前で自殺する事を決めた。もう・・・限界だ。
「父さん・・・母さん・・・。親不孝者でゴメンね・・・。奈緒・・・君との約束、守れなくてごめん・・・。今、そっちに、行くね・・・」
そうして僕は持ってきていた包丁を逆手に持ち、自分の心臓に向けそのまま突き刺した―――――――
―――――筈だった。
「えっ・・?」
僕の腕を横から誰かが掴んでいる為、包丁が心臓の手前で止まっている。
僕は誰が邪魔をしているのか見るために目を開けて横を見た。そこには、今時の女子にしては珍しい、黒くて長い髪に真っ白いワンピースを着た、
―――――――奈緒に、よく似た雰囲気の女の子が、そこには居た――――――
「やっと・・・やっと会えたね・・・」
今日は7月7日。長い間、会えなかった恋人達が、再び一日だけ会える日。僕は、彼女と、失った筈の彼女と、再び会えた。
感想などお待ちしています。