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双子の星

作者: せつ

双子の星


「何を見ているんだい」

「う…ん、あの星を…。見て。今日は一段と輝いているように見える。」

そう言って、君が見上げる先には他の星々よりも一段と輝いている二つの星が見える。あの星こそ、僕らの星である。僕ら二人はあの二つの星を双子の星と呼んでいた。どちらがあの星たちを見つけたのか、どちらがそう呼び出したのかは、君は覚えていないだろう。

僕らは双子としてこの世に生まれた。僕の名前はシリウス、もう一人はカスタリア。僕らの見た目はどこも同じ、しゃべり方も同じ、何をするのもどこに行くのもいつも一緒。僕らを区別することは親も難しいほど僕らは似ている。そして、今までもそうだったようにこれからも僕らは一緒なんだ、いや一緒じゃないとだめだ。僕はそれを確信している。

でも、カスタリアは違う。他の人たちがどれほど僕らが似ていると言っても、僕にはカスタリアは全く違う風に映る。他の人たちが僕らの考えかたも似てるねと言っても、全く違うことは僕がわかっている。それは、僕がこんなにもカスタリアに思いをこがしても、カスタリアは違うってこと。僕がどんなにカスタリアと一緒にいたいと思ってもカスタリアは違う。そう。カスタリアは星に思い焦がれている。

雨の日でも、雪の日でも、毎夜ベランダにでては飽きずに星を眺めている。最初は僕も必死でカスタリアと一緒になろうとして一緒に眺めていた。でも僕はカスタリアみたいに星に思いを焦がせない。ずっとなんて眺めていられない。僕はカスタリアとしゃべりたいのに、普段では考えられないぐらい無口になる。そしてずっと星を眺めているんだ。不気味なほど無口だと思っていたら、突然笑い声をあげたりする。そんな時のカスタリアは僕の知らないところにいるんじゃないかと僕に思わせる。それがたまらなく嫌だ。

 そんなある日、カスタリアが言った。

「僕、将来宇宙飛行士になって双子の星に行くことにする。」

僕は驚きでしばらく声がでなかった。だめだ!!そんなのだめだ!!カスタリアは僕と一緒にいなきゃだめだ!!

「だめ!!」

僕の思わぬ否定に、カスタリアは純粋に驚いた顔をした。そして不思議そうに顔を傾け、どうして、と聞いてくる。僕にはその問いに明確にこたえることができなかった。とにかく駄目だと僕は言い続け、カスタリアと思わぬ喧嘩になったことを覚えている。僕自身どうしてあんなに否定したのかわからない。ただ、カスタリアにもう双子の星のことを考えてほしくなかった。

 そうして僕たちは身体も精神も大きくなっていった。そうなると、周りにも小さい頃は同じに見えた僕らも段々と違う性質が見えるようになった。カスタリアは星から幅を広げ宇宙の勉強をするようになった。もちろん宇宙飛行士になるために。そんなカスタリアについていくため僕も宇宙飛行士をめざしていた時期があった。しかし、とても難しい狭き門を突破できるほど僕は宇宙に熱中していなかったし、というかむしろ僕は嫌いだった。

分かっている。この歳になり、僕のカスタリアへの執着がおかしいということは。多分カスタリアが正常でぼくがおかしいのだろう。でも、僕の中では相変わらずカスタリアは特別な存在だった。それはカスタリアも同じだと思う。カスタリアの中での僕は特別だろう。でも、それと同様にいやそれ以上にカスタリアの中では双子の星も特別だったんだ。

僕とカスタリアは一緒に住んでいる。空気の澄んだ星がよく見えるところ。

「ねぇ、カスタリア、そろそろ宇宙飛行士になるための試験が始まるね」

「うん、すごく緊張する。でもそれ以上にうれしくてたまらないよ。それにね、シリウス。僕はね、なれるっていう確信があるんだ。だから不安は全くないよ。」

そう言うカスタリアの顔には確かに不安の表情はなかった。僕は心の中で落ちればいいのにと思った。しかし口にでたのは応援の言葉。

そうしながら、二人はいつものごとく、双子の星を見上げる。長年見ているが、未だに僕にはただの星にしか見えない。ああ、カスタリア。

月日が流れるのは早い。あれからカスタリアは言葉どおり、試験にとおり訓練を重ね、今では最年少の宇宙飛行士となった。そして今日カスタリアは飛び立つ。

「シリウス、元気でね。」

そう言うカスタリアを僕は抱きしめると、頬にキスをする。嫌だ。いかせたくない。僕はだだをこねる子供のようにカスタリアを離さなかった。両親もカスタリアに挨拶をし、しかし僕とは違い息子の雄姿をほめたたえる目をむけていた。しかし僕は泣くことしかできなかった。行くな、と。行っては嫌だと。僕はなぜかとても不安だったんだ。不安でしょうがなかった。そう、このままカスタリアが帰ってこないんじゃないかと。そんな僕にカスタリアは困った顔を見せて、そして僕にある石をくれた。不思議な石だった。僕にはそれがわからず、泣きはらした顔でカスタリアを見ると、「お守りだよ、この石がシリウスを守ってくれるから」

そう言ってカスタリアは行ってしまった。ああ、カスタリア

突然の知らせに僕は悲鳴をあげた。ああっ!!カスタリアが!!カスタリアが!!なんてことだ。僕は息ができなくなる、目の前がゆれる。僕は泣き崩れる両親とともにその場に立ちつくんだ。しかしなぜか涙はでなかった。心はわれんばかりに悲鳴をあげたのに、涙は一切でないんだ。こうして、カスタリアの葬式が行われていった。聞いた話によると、カスタリアの乗った宇宙船がなぞの行動をとったあと、忽然と消滅したらしい。カスタリアと同様、乗っていた他の乗組員も行方不明。いや、死んだも同然だろう。

僕は、お葬式の夜、茫然といつものように双子の星を眺めていた。そして、気付いた。双子の星のひとつが消滅していることに。僕は茫然とした。間違えているのかと思ったが、長年見てきたのだ、間違えるはずがない。ない。双子の星がない。そして、はっと気がついた。双子の星。双子の星がカスタリアを連れていったのだ。そう。僕はこうなることに最初から気付いていたんだ。あの、初めて双子の星を見た時から。カスタリアが双子の星と名付けた時から。その時になって、僕の目から涙があふれだした。なんてことだ。そう、僕は気付いてはずなのに。カスタリアが双子の星に恋しているのと同様に、双子の星もカスタリアを求めていることに。そして、カスタリアは分かっていたんだ。双子の星がカスタリアを迎えていくることを。どうしてっ。

「あ…うあ、あああああ、あああああ」

涙がとまらず溢れだす。僕のカスタリア。どんだけ思ってもカスタリアの目には僕は映らない。いつだってカスタリアの目には違うだれかが映っていたんだ。そしてそれはきっと双子の星。僕らの星。だから僕は嫌いだったんだ双子の星なんて。そして、今双子の星が一つになってしまった。カスタリアは行ってしまった。僕をおいて。カスタリアっ。

そうして僕は頭が痛くなるまで泣き続けた。泣きつかれて夜が明けるのを茫然とみていた。そうすると、僕は自然とすることが思い浮かんだ。当然するべきものとして。そう、僕も宇宙にいくんだ。そしてカスタリアを取り戻す。僕は疲れた目で、しかし決心をともして空を見上げた。今まで嫌いだった宇宙もカスタリアがいると思えば、好きになれそうな気がした。必ずもう一度カスタリアに会う。それに僕には会えるって確信があるんだ。だって僕らは一緒じゃなきゃだめなんだから、ねぇカスタリア


終わり


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