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お久し振りです。ようつべにある『ゆっくり解説』に影響受けて、思いついたアイデアです。ゆっくりしていってね♪

   ヴォイニッチ手稿はガールズ・マガジンだった?




 私は昔から、ちょっとばかし勘がいい。調子のいい時は見えちゃいけないもの……霊、とかいうものまで見えちゃったりする。

 死んだお祖母ちゃんもそういう体質だったらしく、どうもウチの先祖には有名な陰陽師が居たようだ。はた迷惑な体質を遺伝させるな、まったく……。

 基本的に、見えることは親以外に言ってない。そういうものが居そうな場所には理由をでっち上げて行かないようにしてるし、特級呪物的な危なそうなものにも触れないようにしてる。偶然、見えてしまった場合、フル無視だ。あいつ等、こっちが見えると判ると縋ってきて、「何とかして」とウザくてしょうがない。

「――それが正解よ。『七人みさき』って怖いものも居るし」

 と、お祖母ちゃんも言ってた。

 ちなみに『七人みさき』ってのは、地縛ってる奴等が自分の身代わりにしようと生きてる人間を取り殺す祟り神で、何故か七人で1セットらしい。マジ怖い。



 ――



 夏休み間近の放課後。

 一歩でも外に出たら溶けて蒸発するんじゃないか?って地獄のような暑さに躊躇した私は、図書室で本を読みながら時間を潰してた。せめてもう少し弱くなれよ、日差し。

 スマホが震え、友人からのラインの通知ランプが点滅する。一応、図書室なのでサイレント・モードにしてある。

『これからカラオケOK?』

 行くか、バカ。肌にシミ出来たらどうしてくれんだ。

『…あつ。無理。死ぬ』

『え~!! あんたファンの他校の男ゲットしたよ??』

 合コンかよ。余計、行かんわ。

『モンスターボールに詰めて、海にでも投げとけ』

『りょ! あ、夏休み入ったら海行こ、海! 可愛い水着買ったんだ♪』

 スタイルのいいお前と並ぶと、自分の胸に絶望したくなるんだよ。判れよ。

『検討に検討を重ねとく』

『それ絶対行かないやつ~!w あ、呼んでる。また後でね~』

 は~。

 溜息を吐き、私はスマホをテーブルに置いた。来た時に適当に棚から持ってきた本をパラパラと捲る。暑い季節だからか、無意識に涼を求めてミステリー系を取ってしまったらしい。失敗した。

 ――AIで解くヴォ、ヴォイニ……ッチ手稿??

 まったく読めない字で書かれた横書きの文章と、何だかよく判らない植物の絵の頁や複数の女性がお湯に浸かってるような頁やら……。何だ、これ?

 説明書きによると、1912年にイタリアで発見された古書で、発見者の名前を取って『ヴォイニッチ手稿』と呼ばれてるらしい。何人もの言語学者や暗号学者、在野の研究家が解読に挑んだが、やれラテン語だの、アラビア語だの、古代ヘブライ語だの…果ては古代トルコ語だの、百家争鳴の状態のようで今だに全文解読に至ってないんだとか。

 で、現在、最新のAIで解析する計画が持ち上がってるらしい。

 ……へぇ~、でも……

 雑誌に掲載されてるその手稿の写真を指でなぞる。

「……毎月のアレ、温めた石を布で包んでお尻の真ん中辺りに充てな? 多少、痛みがマシになるよ。マジで。うちのお祖母ちゃん直伝」

 指を下の文章へ。

「……それマ!? うちはね、うちはね、このハーブを育ててお茶にして飲んでる。結構いいよ」

「……へ~。因みにそれ、植えるのいつ? 今からOKなやつ??」

 ――読めるじゃん。

 あれ? 何で読めるん、私?? ってか、何、このウチ等のグループLINEみたいなノリの文章??


『――へえ、読めるんだアンタ?』


 へっ?

 目の前に女の子が居た。赤みがかった長い金髪が窓から差す陽光に煌めき、好奇心旺盛なのか大きく開いた蒼い瞳が私を見詰めている。そして、これが一番重要なのだが……黒いトンガリ帽子にこれまた黒いローブをまとっており、童話に出て来る『魔女』の姿そのものだった。

「誰……あんた??」

「私はマリエラ。アンタが読んでる『本』の編集……というのかしら、今の時代だと?」

「本? 編集??」

 何を言ってるんだ、この女?

 いや、こんなコスプレ女、高校の図書室に居て……ってか、

「アンタ……透けて……る??」

 やばい、見えちゃやばい系かっ!? 会話しちゃったよ、私!?

 焦ってる私をマリエラと名乗った女は面白そうに眺めており、クスクスと笑っている。

「落ち着きなさいよ。別にアンタを呪い殺そうとか思ってないから」

「じゃ、じゃあ……何で、あら、あれ…あらら??」

「現れた?? だから落ち着けって。簡単に言うとね、アンタ、これを読んだことで私と『波長』が重なったのよ」

 ……波長?? 電波??

「私等も『向こうの世界』で面白おかしくワイワイしてたんだけどね~。やっぱり、私等の死んだ後どうなったか、知りたいじゃん? で、情報が入るように『波長』の合う人間から色々流れ込んでくるように設定してたって訳」

 ……??

 何を言ってるんだ、こいつ?? 全然、簡単じゃねえよ。

「う~ん……じゃあ、こう言えば判る? SNSで仲間内でグループ作ってるけど、ニュースで外の情報が入るように設定してるの。で、今回はアンタというニュースサイトをフォローする事にした、と」

 はっ?? それ、何てX? LINE??

「んん……うん、まあ、納得は出来ないが理解した。……したくないけど、思いっきりしたくないけど」

「ホントに嫌そうな顔ね」

 マリエラと名乗った女がクスクスと笑ってる。

 いつの間にか外は夕方のオレンジ色の空に変わってきており、私は問題の本を棚に戻し、スクバ(スクールバック)にスマホを仕舞って立ち上がった。

「じゃ、そういう事で。また」

 軽く右手を振って図書室を出たのだが…この自称魔女、付いて来やがる。

「……あの~、何で付いて来るんですかね? え~と……マリリンさん?」

「道歩いてて、風で捲れ上がったスカートの裾を押さえなきゃいけないような名前ね。う~んと……なんか面白そうだから?」

「……はあ」

 やばい、懐かれた??

 校舎を出て、まだ日差しの強い夕方の町を自称魔女と並んで歩く。

「木々が申し訳程度にしか植えられてないのね~。もう少しあればを遮ってくれるだろうにね~」

「いや~、間違えて杉なんて植えたら、春に花粉症患者達でキレて暴れ回りそうですから。ってか、魔女で合ってるんすか? マイケルさん??」

「それ、男の名前じゃない? 正面を歩くような姿勢で後ろに下がって行きそう。……魔女、っていうか『薬師』ね。昔は村々に大抵一人は居たのよ。薬草の知識に長けた人間が。この時代は違うの?」

「ああ、この時代は医者いますから。まあ、地方の医者不足はどこの自治体も悩みのタネみたいッすけど」

「この時代はこの時代で大変みたいね~。薬師ってほら、森の奥に入って薬草を取って来るじゃない? で、鍋で煮たりとか調合をするわけ。だから、煮汁とか跳ねてもいいように袖の長いローブとか着てるんだけど、これって見た目が童話に出てくる魔女そのまんまなのよ」

 あ、確かに。

 そこで上手く出来そうだとテンション上がって「イ~ヒッヒッヒッ」とか笑おうもんなら、もう……やばい奴認定されそう。

「じゃ、じゃあ……箒に乗って空飛ぶ某宅急便みたいなスキルは?」

「ああ、それね~。レッテルなのよ。まず大前提として、私達『薬師』は女が受け持つことが多い。それは何故だか判る?」

「??」

「女にとって切実な悩み……好きな男性との間に子供を作る事と、そして逆に望まぬ妊娠ならば速やかに堕胎する事。山賊に襲われて出来ちゃった時とかね。つまり、私達は『薬師』であり、『産婆』であるの」

「子供を作る……あっ!? EDな男を元気にする薬って事??」

 で、反対の堕胎は……。考えるのやめとこう。

「い~でぃ~?? 今はそう言うの?? ……でさ、生まれたばかりの赤ん坊って、とにかく病気に弱いわ。だから悪いものが室内に入って来ないように入口を箒でサッサッと掃くの。まあ、無事誕生した時の儀式みたいなもんよ。だから、魔女と箒はセットのように思われてるの」

「その解釈だと、空飛ぶ説明には弱くない??」

「女が夜、空を飛ぶ……暗喩メタファーよ。判らない??」

 ??

 全然わからん。

 自称魔女のマカロンさんがわざとらしく盛大な溜息を吐く。

「は~~。アンタ、処女ね?」

「わ、悪いか!?」

 誰にも迷惑かけてねえもんッ!!

「だからぁ、そういう意味よ。キリスト教はとかく女の色気……エッチな面は見ないように、触れないようにするでしょ? 結果、悪魔とか魔女とか、そういうのに結び付けられやすいのよ」

 な、なるほど……。飛ぶって、性的な意味なのか。

 羞恥で赤くなった頬を冷やそうと、少し立ち止まって深呼吸する。……はあ、はあ……。よし、落ち着いた。

「でさ、さっきからチョイチョイ現代の言い回しが混じるのは何?」

「最初に言ったでしょ? アンタの頭の中にある知識とか情報が私に入ってくるようにしたって。『納得は出来ないけど理解した』って言ったくせに、全然、理解出来てないじゃん。まったく……」

「なんか、ごめん」

「まあ、結構、意味不な言葉も流れ込んで来るんだけどね。……『僕と契約して魔法少女になってよ』とか……魔法少女って何?」

「う~ん……某Qべえ的な??」

 駅に着き、改札を抜けてホームに降りる。自称魔女のマグネットさんは、空気を読んだのか人前では黙っていてくれる。


『……『マ』しか合ってないじゃない』


 前言撤回。頭の中に直接語りかけて来やがった。何て器用な……。

 私の隣でニヤニヤ笑ってるし。

 何だよ、透けてるくせに。

 ホームに滑り込んで来た電車に乗り込み、揺られること三駅、そこで降りて、またテクテク歩き……結局、自宅のあるマンションまで付いて来ました、マーガリンさん。

「……私、パンに塗られる趣味は無いわよ?」


 ――


 夏休み。

 エアコンの効いた部屋で私は宿題をやりつつ、マリエラの相手をしていた。PCに興味を示し、私に操作させながらネットで色んな情報を仕入れ、毎日のように「へえ」とか「おお!」とか言っている。

 ちなみに今は、日曜朝八時から放映してるプリティでキュアな少女向けアニメに夢中だ。

「ねえ、マリエラ?」

「……なに?」

 テレビ画面から目を離さないで返事しやがったよ、こいつ。

「マリエラ達、魔女にもそれみたいに『敵』って居たの?」

「居たわよ~。まず魔女狩り役人ね。こいつら、ちょっとでも怪しいって噂のある人に『魔女だ』って容疑を掛けて、身内に『容疑を外して欲しかったら金払え』って暗に要求したり、捕まえた魔女の財産没収とか、後、その町に『悪い奴を捕まえてやったんだから、金払え』って徴税するの。それで一財産作った奴も居たわ」

「うわ……。怪しい噂って、たとえば?」

「『犬があんなに懐いてる、きっと使い魔だ!』って」

 ひどっ!

「針を突き刺して、血が出なかったら魔女ってされたんだけど……ホプキンスって奴は、押したら針が柄に引っ込む細工したニードル使ってたの。ほら、子供の玩具であるでしょ? ナイフが引っ込むやつ。あれと同じ原理」

「そんなん、やりたい放題じゃんか!?」

「そう、やりたい放題。あの時代、誰も彼も『魔女』って単語ワードにおかしくなってたのよ」

 ようやくアニメが終わったようでこちらに向き直るマリエラ。語ってる話とアニメのエンディング曲が合わな過ぎる。

「『まずは』って言ってたけど、他にも?」

「やっぱり教会関係かな? 節制とか禁欲とか修行やり過ぎて、たまに変な奴が出て来るのよ。え~と、この時代だと……エムに目覚めちゃう、って言うんだっけ? 逆に、平然と女の子に手を出しちゃう奴とかも居て……」

 えっ!? ドン引きなんですけど。

「いい人はホントいい人なのよ? さっき言った魔女狩り役人に対して、『そんな大量に居てたまるか! お前等、やり過ぎ!』って怒ってくれた人も居たし。でもね……」

「でも?」

「何の修行してたんだか、男としての一部分がステータス補正かかってるというか……何かの宝具かよ、って言う奴も居て……。ロシアのあの人とか」

「『宝具』って表現やめい。ファンから怒られる。……ってか、そんなに凄いの??」

「あ、興味ある? 思春期だね~」

 うっさい、ニヤニヤすんな。

 教科書の横に置いてたペットボトルの紅茶を一口飲み、宿題で酷使してた右肩をぐるぐると回す。

「しかしさ、マリエラ達は何でそんなに迫害? 弾圧? されたん??」

 私の質問にマリエラが「う~ん……」と頬に指を当てて小首を傾げる。どこでそんなあざと可愛い仕草覚えた、この魔女め?

「幾つもの理由が複合してるみたい。ただ、一番大きなのは……私達が『薬師』だから、かな?」

「『薬師』だから??」

「薬は使い方次第で『毒』にもなるの。貴族社会って、政敵の排除で毒殺が横行したのよ。 有名なとこだとボルジア家とかヴィランバリエの姉さんとか、アンタも聞いたことあるんじゃない??」

 ……知らん。

「は~……。世界史、アンタ、Zね?」

「Zなんて成績評価、無えよッ!!」

 やれやれ、って感じで肩を竦めるな。

「ボルジア家ってのは中世のまだ都市国家の乱立するイタリアの貴族で、悪徳の貴族って二つ名で有名なのよ。当主が教皇の座に登り詰め、その息子はマキャベリが『君主論』のモデルにしたってぐらい、これまた優秀でさ~。更に妹ちゃん、すっごい美人」

「会ったことあるの!?」

 さすがに無いわよ、とマリエラが右手を左右に振ってケラケラ笑う。

「そのボルジア家が秘伝として使ってたのが『カンタレラ』って毒薬なのよ」

「へえ~。ヴィランバリエの姉さんってのは?」

「う~ん……。あの姉さんの事、あんまし教えたくないんだよね~。変な影響受けられても困るし……。早い話、『働きたくないよ~、男と遊んで暮らしたいよ~』って思ってるダメ人間が夢を叶えるにはどうしたらいいか考えて……『そうだ! 親の金があるじゃん!』って閃いたの」

 現代で言うと、親の年金を当てにするニート?

「で、姉さんの父親、司法官なんだけどなかなか有能な人で要職を歴任した大物なのよ。つまり、高給取り」

「へっ? でも、娘なんだから小遣いぐらい貰えば……」

「言ったでしょ? 『男と遊んで暮らしたい』って。結婚してたんだけど、不倫しまくってたのよ。で、その噂を聞いた父親は大激怒。司法官の権限使って不倫男を逮捕して、かのバスティーユ牢獄に叩き込んだ」

 これ、外国の話だよね? 2ちゃんの不倫板じゃないよね??

「……話がここで終われば良かったんだけど、不倫男、牢獄で厄介な変態と友達になっちゃった。毒マニアの変態? まあ、毒薬の研究家」

「はっ!?」

「当時、立て続けに起きてた貴族の『謎の死』があって、この男が作った毒が原因じゃないかって疑いがかかって拘束されてたらしいんだけど、まあ、そこで出会っちゃった訳よ。で、その毒マニアの変態から不倫男はその知識を伝授されたの」

「ちょ…続き聞くの、怖いんですけど??」

「牢獄から出てきた不倫男と姉さんは感動の再会?? で、始めちゃうの。二人を離れ離れにした父親に対する復讐の為の毒の開発を」

「お~い!?」

 ぶっ飛び過ぎだろ!?

「で、苦心の末、完成したんだけど…いきなり本命の父親に飲ませて失敗したら、元も子もないじゃん? だから二人はテストすることにした」

「テスト? 動物実験か何か??」

「病院に入院してる患者やその家族に差し入れって、その毒を注入したお菓子とかを持って行ったの。一応、姉さん、侯爵夫人の肩書あるから『貴族の義務』ってやつね。患者と家族たちは『美しくも優しい、天使のようなお方』って、涙を流して喜んだらしいわ」

「うわ~……。で、でも、その差し入れを貰った連中がどんどん死んでいけば、病院だって疑問持ったんじゃないの??」

「患者が貴族なら、それなりに調べたんだろうけど……入院費払うのもキツイ、一般庶民だからね。『容体が急変』で終わっちゃったわ。それに当時の医療レベルだと、たとえ解剖に回したって姉さんの毒を発見出来たかも怪しいし」

「そんで、次は父親?」

「うん、もう面倒だから端折るけど、自信を持った姉さんは父親に面会に行き、隙を見て食事に毒物を混入。倒れた父親を医師は『年齢から来る体調不良じゃないか?』って診断。姉さんは『介護』の名目で24時間付き添って少量ずつ毒を投与し、最終的に父親はガリガリにやせ細って死んだらしいわ」

「……そんで、遺産ゲットか。すごいな……」

「ううん、まだ男兄弟が居るもん。分割された遺産で満足出来るような人じゃないわ、あの姉さん」

 実の兄弟まで殺ったのッ!?

 マリエラが肩を竦める。

「ま、最後は不倫男が『自分も殺されるんじゃないか?』って怖くなっちゃって自首。そんですべての犯行が明らかになって姉さんは逮捕、延々と水を飲ませる拷問にかけられて自白し、結局は火炙りの刑なんだけどね」

 最期は火炙りか……。

 絶句してると、マリエラが俯いてこめかみに手を当てる。

「どうした?」

「……姉さんからメッセ来た。『私は男と四六時中、イチャイチャしたかっただけだ。そんな殺し好き(シリアルキラー)みたいに言うな!』って」

 いや、誰が聞いてもサイコパスでしょ、そのお姉さん?

「え~と…そのお姉さん、マリエラみたいにこっちに出て来ないよね?」

「ああ、それは大丈夫。姉さんはあの本読んでないし。アンタと縁は出来てない」

 あの本?? ああ、あのヴォイニッチ手稿ってやつか。

 なんか、どっと疲れて溜息を吐く。

「マリエラ達、魔女って……そういう変な人ばっかなの??」

「いや、私はブランヴァリエの姉さんほど変じゃないわよ? それに……」

 マリエラがニヤッと笑い、私の顔を指差す。

「わたし?」

「違う違う。アンタがしてるメイク、アイシャドウとかマニキュア。クレオパトラの姉さんもやってるわよ」

「はッ!? マ??」

「古代エジプトだと、ハエが水分求めて目に近寄って来たんだって。それで病気になる人も多かったから、虫よけにアイシャドウ塗ってたらしいわ」

「マニキュアは?」

「ヘナって花から摂った汁で赤く塗ってたって。位が高い人ほど濃い赤で、男も塗ってたらしいわよ? 抗菌作用もあるから、指先を清潔にするって意識もあったみたい」

 おお、古代に居たのか、ネイル男子!!

 クレオパトラって、何か国語も話せた才女とか絨毯に包まって何とかってオッサンに近付いたとか、色々伝説多いが……私達と同じ、可愛いとか綺麗にテンション上がる普通に女の子だったのか。一気に身近になった。

「他には?」

「後、アンタが知ってそうなのは……ジャンヌ? アンタは見えちゃう系だけど、あの子は聞こえちゃう系でね。すっごい苦労したらしいわよ? うっさくて」

「それってもしかして……ジャンヌ・ダルク??」

 マジか?

「もうヤケになって戦場に行って、祈りのポーズとか決めてたら、あれよあれよという間に勝っちゃったとか……」

 旗を掲げるあの名シーン……まさかの映え狙い??

「あ、メッセ来た。……『私は自分の人生に後悔してないし、受け入れてるので死んだ後に『聖女』にされたのは苦笑いしたけど……神風で泥棒とか、裁定者ルーラーって何?』だって」

 ああ、それは某少女漫画と某ゲームですね。、詳しくは説明出来ません。

 そっと本棚に視線を向ける。……うん、気付かれてない。

「しかし、死後の世界でみんな仲良くやってんだね~。マリエラみたいにこっちに来てる人、居ないの?」

 私の問いに、マリエラは両腕を組んで「う~ん……」と唸った。

「来てる、と言うか……多分、あのオジサマ、まだ『こっちに居っぱなし』じゃないかな?」

「『居っぱなし』??」

「ほら、アンタが見せてくれたアニメによくある設定、『ゲームからログアウト不可』って状態になってるのよ。この世からね」

 はっ!?

「ちょ、ちょっと待って……。それってもしかして『不老不死』って意味??」

「うん。私が会った時は『サンジェルマン伯爵』って名乗ってただけど……知ってる?」

 サンジェルマン伯爵っ!?

 その某ゲームや異世界で漂流する某漫画にも……いや、それはどうでもいいのだが、マジに実在するの??

「やっぱ、オネエ口調なの?」

「えっ??」

 マリエラがきょとんと小首を傾げる。またあざとい仕草を、コイツ。

「ごめん、ちょっと別の話。……サンジェルマン伯爵って伝説が多過ぎてキャラの濃さ半端ないよ? 錬金術師で不老不死で、東欧の滅んだ王家の末裔で……それからフランス王の密使で、薔薇十字団の団員で……どこまで本当なの??」

 指折りながら尋ねる私に、マリエラが右手を振ってケラケラと笑う。

「あのオジサマだったら、そんな設定、意味ないわよ。アンタも会ってみれば判るって。ゲームで例えるなら、レベルがカンストして全魔法使える魔法使いに、『得意な魔法は?』って訊くようなもん」

「『カンスト』なんて言葉、どこで覚えた? おい??」

「何だっけ?? ほら……途轍もない威力の炎系魔法ぶっぱなしといて、『ただのメラだ』って言い放つ魔王。マジでそれよ? それも明るく笑いながら」

「マジにどこで覚えた、そのネタ!?」

 サブカル文化まで完璧か、この魔女??

「そういえばオジサマ、日本にも来たことあるって言ってたような?? もしかしたら近所に居るかもね」

「にこやかな顔で怖いフラグ立てないでくれる!? マジなの??」

「うん。フランス王妃のマリー・アントワネット……ほら? ギロチンにかかった……あの子、日本の工芸品のファンだったの知ってる??」

「工芸品?? 日本刀とか??」

「違うって。王妃様の趣味が刀剣集めって、怖過ぎでしょ? それとも『刀剣男子』ファンか?? 漆器よ、漆器。最初はお母さんのマリア・テレジアから貰った蒔絵の小箱らしいんだけど、そこからハマったみたい」

「おい、まさか……」

 マリア・テレジア。通称『女帝』と称されるオーストリアの大公妃だ。『ベルばら』で読んだ。

「うん、マリア・テレジアに最初に日本のことを面白おかしく話したの、オジサマ。それもお土産付きで」

 マリエラがそれはもうニッコリと、まさに家族を自慢するような笑顔で頷く。

 私はゆっくり息を吐いた。はあ、はあ……。落ち着け、私。 

 世界史は確かに苦手だが、来てもいないマルコポーロが『東方見聞録』で日本を「黄金の国ジパング」なんて書いたのは知ってる。中尊寺金色堂の噂を聞いたのかも知れないが、神秘と幻想の国ってイメージが西洋に伝わった瞬間だ。

 で、江戸時代。いわゆる鎖国体制で交易する国は清(中国)やオランダなど数か国に絞られていた。となると、少ない日本製品と多い中国製品は一緒くたに西洋に運ばれた可能性が高い。オランダも交易の独占を狙って、日本についての情報を大々的に広めようとはしなかったろうし。

 そこに、「いやいや、この漆器こそマルコポーロが書いた『黄金の国ジパング』の逸品ですよ」なんてドヤ顔で説明するサンジェルマン伯爵……。

 結果、マリーアントワネットなど王族や貴族がコレクションしだし……。

 江戸時代も後半になると今度は浮世絵が西洋に伝わり、ゴッホを始めとする多くの画家たちに影響を与える。

 同時期、オタクの聖地巡礼とばかりにシーボルトが来日し、植物など多方面から日本を研究。その中で伊能忠敬の精密な日本地図を見て「これ、欲しい!」とオタク心を刺激されたか、国外に持ち出そうとして追放処分……現代で言う、炎上を起こす。

 そして、帰国したシーボルトは日本の解説本を出版。これを読んだペリーを始めとする他の国の連中が「俺も行きたい!」とやって来て……。

 結果、「太平の眠りを覚ます蒸気船」となり幕末の動乱に……。

 やばい。銀髪外人のオッサンが「やあ!」とか言いながら、ニコニコ笑顔で面倒ごとを持ち込む未来が見える。絶対に逃げよう。


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