第九話 秘密
「あ、あぁ、師匠、そこ、気持ちいいです...♡」
「ふふふ、じゃあ次はここをこうしてあげるわ♪」
「そ、それも良いです♡
もっと、もっとして下さい♡」
僕は今、下着姿でソファーにうつ伏せで横たわっている。
そして全身を師匠にマッサージされているのだ。
僕が師匠の教えを毎日受けていた頃から、師匠は鍛錬の後には必ず僕の全身をマッサージしていた。
”弟子の体のメンテナンスは師匠の義務”
が師匠の信条だからだけど、これが堪らなく気持ちいい。
この心地良さの前には僕の精神が男だ、などという意地は吹き飛んでしまい、艶めかしい女性としての声を上げてしまう。
全身を目一杯酷使させる師匠の鍛錬は過酷だったが、このマッサージは楽しみであり、そして疲労回復には最適であった。
尤も、師匠は僕の体を遠慮なしに触り、撫でまわす事が出来る、といった理由もありそうだけど。
「鍛錬はしっかり続けていた様ね」
僕のマッサージを続けながら、師匠が突然真面目な口調になった。
そう言えば先程の立ち合いは、師匠が僕の上達度合いを確認する為だった。
疲れすぎて忘れてた...。
「それで、今の私は合格ですか?」
「そうね。
まだまだ危なっかしい感は否めないけど、
そう簡単に男共にやられる事もないでしょう。
ギリギリ合格よ」
師匠の言葉にホッとすると同時にマッサージの快感がまた襲ってくる。
「し、師匠、そんな、そんなにされたら...♡」
「どうなるのかしら?」
「そんなの、言えません!」
「言いなさい!」
「は、恥ずかしいんです、ダメ、ダメ、ダメーー♡」
マッサージの快感に流されてしまう。
「それにしても...」
まだ僕の体を丹念にマッサージしている師匠が言葉を続けた。
「今までかなり無理してたわね」
”ギクッ”
師匠の言葉に責めるような響きが含まれており、思い当たる節だらけだ。
馬でとは言え一晩中掛け通し、狼や魔獣の討伐、寝込みを襲った不埒者の成敗に、野盗の討伐。
短期間にこれだけでも相当だが、そこに追われているという精神的な重圧がのし掛かっている。
これで無理していないと言うのは無理があった。
でも自分が選んだ道なので、師匠に弱音を吐く事は出来ない。
「アルヴィース家から出奔してまだ、いえ、もう数日かしら。
全身に物凄く疲労が蓄積しているのが分かったわ」
流石に一流のマッサージ技術を持っている師匠だ。バレてしまった。
「出奔してから今までの事、詳しく話しなさい」
そう言われても、なんとなく言い淀んでしまう。
師匠は僕を厳しくも、注意深く育成してくれた。
だから以前から殊更に無理をする事は厳しく戒められていたのに、最近は無理をしまくっている。
「ちゃんと話しなさい。
出ないと…」
「師匠、そこ、そこは止め...」
「本当に止めて欲しいのかしら。
我慢できるの、フィ・リ・シ・ア♪」
「や、止めないで欲しいです、
言います、言いますから~~♡」
マッサージ中は師匠に絶対に逆らえない。これが今も昔も僕の現実だ。
一通り僕の話を聞いた師匠は
「成る程、それだけ無理をすればこれだけ疲労も堪る筈よね」
「すみません、無茶をして」
「まあ、貴族令嬢が出奔して、此処まで無茶しないで済む訳が無いから、
今回だけはフィリシアを責めたりしないわ。
ただ...」
師匠のマッサージに込められる力が強くなる。
「し、師匠、つ、強すぎます。
そんなに強くされたら、こ、壊れちゃうっ」
マッサージはただ力を込めれば良いのではなく、頃合いの力がある。
それを無視するなんて、師匠、もしかして怒ってる?
「その野盗の頭目、一度生き返ってくれないかしら。
その上で今度は殺して欲しいと思う程の苦痛を与えてから仕留めてやりたい...」
師匠が黒いオーラを発している。
「な、なんでそんなに怒っているんです?」
「だってフィリシアの”縦三角締め”で仕留めたんでしょ?
フィリシアの股間に顔を埋め、太腿で頭を挟まれる、
そんな羨ましい事、許される訳がない!
寧ろ、私がされたい!」
そっちか! 心の中で思わず突っ込んでしまった。
師匠には鍛錬をして貰っていた時に、座学の様に前世で覚えていた技を話していた。
だから『ローリングソバット』も対処されたし、『縦三角締め』も師匠は知っている。
でも羨ましいって…、まあ師匠にそういう気があるのは知ってるけどさ。
師匠に全身を余すところなくマッサージされてかなり体が軽くなった。
やはり疲れが溜まっていたのも事実だし、師匠のマッサージの腕も一流だ。
「それで師匠はこれからどうするんですか?」
僕の腕前はギリギリとはいえ、合格だと言っていた。
このまま僕を問答無用で捕らえて、アルヴィース家に引き渡すとは言わないと思うけど。
「そうね、どうしようかしら。
フェリシアはどうして欲しい?」
「質問に質問で返さないで下さい」
まったくこの人は…。
取り敢えず話題を変えた方がよさそうだ。
「それにしてもどうして”少年”を探してると聞いて回ったんですか?
私が男装してない可能性もあるのに」
実際に女性にしか見えない僕が男装したら悪目立ちしそうなので男装していなかった。
「ああ、それはフェリシアが男装したらかえって目立つから、
してないって方に察しがつくわ。
でもあいつらの手前、少しだけでも時間を稼ぎたかったのよ。
私が貴方と接触する為の、ね」
僕と接触したい理由は聞いている。
しかし”あいつらの手前”?
「師匠、あいつらとは?」
「『アレフ』に私と一緒に来たアルヴィース家の捜索隊よ。
向こうは私が仲間だと思ってるけど、
私はフェリシアの腕前を見るまで保留だと思ってるから、
そこは認識の違いね」
どうやら事態は思っていたより切迫していた。
まだ見つかってはいないが、師匠以外の追手も『アレフ』まで来ていたのだ。
野盗討伐の報酬で手甲や足甲、胸当てなどの防具を買いそろえようと思っていたが、あと3日は報酬が支払われない。
しかし師匠の話から判断するに、そんな暇はなさそうだ。
「逃げ切れるかしら?」
師匠が僕の考えを読み取って言葉を続ける。
「私と一緒に来た連中だけが相手なら『アレフ』を脱出する事は可能でしょうね。
でもアルヴィース伯爵はあいつらだけでなく、
”影”まで使ってフィリシアの捜索をしているわ」
”影”とはアルヴィース伯爵家お抱えの諜報、暗躍部隊の事だ。
貴族とは綺麗事だけで済む世界ではない。
そんな中で裏方というか、汚れ役を担うのが”影”と呼ばれる存在で、アルヴィース家だけでなく、多くの貴族家が抱えている。
僕はまだ年若く、(不本意ながらも)女性なので詳しくは教えて貰っていないが、一筋縄でいく相手ではないだろう。
「アルヴィース伯爵は流石大物貴族だけあって、
手遅れになる前に、容赦なく奥の手を出してきたわ。
”影”の数は凡そ10人。
今は全員で『アレフ』から出る人間を監視しているから、
気取られずに街から出るのは不可能に近い。
一対一ならフェリシアでも対応できるでしょうけど、
10人となると…」
先ず無理だろう。
かと言って『アレフ』に留まれば見つかるのは時間の問題。
それならば僕の取れる手は一つだけしかない。
「師匠、先程私に”どうして欲しい”と訊かれましたよね?」
「ええ、確かに言ったわよ」
「じゃあ、私が『アレフ』を脱出するのに手を貸して下さい」
今話を元にしたエロ話をノクターンに掲載しました。
タイトルは同名で”外伝”とだけ付いています。
あくまでこちらが本編で、あちらはエロを書いただけの単なる外伝です。
興味があれば御笑読ください。




