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第六話 第二の街

「は、は、ハックション!」


『アレフ』へ向かう馬車に揺られるなか、僕は何度目かのくしゃみをする。


(やっぱり服を変えなかったのが災いした…)


 湖に落ちてずぶ濡れになったにも拘わらず、服を着替えずにいたので、体が冷えて完全に風邪をひいてしまった。


「だから着替えろって言ったのに」

「無理して着替えないからだ」

「俺達の事なんか気にしないでいいのに」


 その最後の言葉が無理なんだよ!


 そりゃ、どうしてもとなれば目の前ではなく、少し離れた茂みの陰とかで着替える事にするだろう。


 でもお前ら、絶対覗くだろ!


 下着も濡れてるから素っ裸で体も拭かなきゃならないし!


 僕の裸、最低でも下着姿を見ようとするだろ!


 なんで10名弱の男に完全に覗かれると分かってるのに着替える事が出来るんだ!


 大きめの毛布にくるまって寒気を堪えながらもまだ着替えていられない。


(『アレフ』に着いたら速攻で宿屋に入って着替えるんだ…。)

 

 女性って不便だよな…。


 そうこうしている内に、第二の都市『アレフ』に到着した。


 ここもまだアルヴィース家の領内なので気は抜けない。


 明日以降、体調を整えてからギルドに探りを入れた方が賢明かもしれない。


 アルヴィース家の『アルフェリス』と『ルシフェルス』の交易の楔となる街なのでかなり賑わっているんだが…、何かおかしい。


 なんだが街が荒れている。


 散らかっているというよりも、人が緊張している。


「どうなってるんだ?」


 それは馬車の持主である商人や他の冒険者達も同じ感想な様で、皆首を傾げている。


 そこから察するにこの荒れ方は最近、こんな状態になったと考えられる。


(治安が悪くなったのかな...)


 治安と人心の荒廃は密接な関係にある、とかなんとかの学説があった気がする。


 でも今の僕は風邪で頭が回らないので、これ以上は回復してから考える事にした。


 街中を進む馬車が不意に止まった。


「嬢ちゃん、そこが宿屋だ。

 ここでお別れだな」


 普通は乗り合いの人間の目的地まで乗せてくれることは先ずない。


 馬車の目的地で解散が普通なのだが、今回は僕の体調を考慮して気を利かせてくれたのかな。


 ふらふらしながら馬車をおり、

「世話になりました」

「こっちも商売になったよ。

 また縁があれば利用してくれ。

 出来るならばな」


 なんだか含みのありそうな言葉を残して馬車は去って行った。


 しかしその事を吟味する余裕は今の僕にはない。


 ふらふらとしながら受付に行き、チェックイン。


 部屋に入ると濡れた服を直ぐ脱いで、部屋干しをする。


 下着も濡れているので同様に脱いで干しておく。


 それが終わると、僕の体力は限界に近かった。


 肉体的にも精神的にもかなりハードな夜を過ごしたと思ったら体を冷やして風邪ひいたからな…。


 幸い寝台の布団は暖かそうなので体を温めて眠れそうだ。


 本当は服を着た方が良いのだが、もうめんどくさいというか、これ以上何もする気が起きない。


 裸のまま寝台に潜り込んで泥の様に眠った。




「ん~、なに?」


 僕を深い眠りから覚まさせたのは、体にのしかかる重い感触。


 目を開けるとむさ苦しい中年男が顔を近づけていた。


 眠気なんて一瞬で吹き飛び、

「きゃ...」

女の子の様に叫びそうになったがその僕の口を男の手で塞がれた。


 もはや疑いようもない。僕の貞操の危機だ。


 片方の手は男に手首を掴まれて、自由が利かない。


 それならもう片手で反撃を、と思ったらそちらの手首も掴まれた。


 しかしこれで僕の口を塞いでいた手が離れた。


 その直後に僕は男の鼻の頭に頭突きを喰らわしてやった。


 唇を奪おうとしていたのか、かなり顔が接近していたので逆に頭突きをするにはお誂え向きの距離だった。


 潰れろとばかりの勢いでぶちかましてやった。


 不意打ちで鼻先に衝撃を喰らい、僕に覆いかぶさっていた男の体が跳ね起きた。


 そのタイミングに合わせて僕も上半身を起こす様に動いて、バランスを崩した相手の下から脱出する。


 僕は裸で寝ていたのだが、薄手の掛け布団を身に纏うようにして体を即座に隠している。


 借り物感が拭えないとは言え、女性体である自分の体を男に晒す気にはならない。


 立ち上がって向かい合う形になったが、僕の武器を含めた荷物は相手の後ろ側に位置している。


 捕まれば圧倒的不利なのに、荷物を拾う為に隙を見せるのはリスクが高すぎる。


 そうなれば、素手で...、と考えていた時に相手が向かってきた。


 体勢を低くして、僕の下半身へ体ごと突っ込んでくる。


(それならっ!)


 僕は開脚しながら跳躍して足を掴みに来た相手の手を躱す。


 そして下げられている相手の頭を股に挟んで着地する。


 体勢としてはお辞儀した相手の頭を足で挟み込んでいる形になる。


 動きが止まった相手を僕は力を振り絞って、逆さに持ち上げにかかる。


「パイル~~!」


 少し重かったが力を振り絞って相手を逆さに持ち上げると、


「ドライバー!」


 そのまま腰を落として相手の頭を床に叩きつける。 


 言葉通り、プロレスの『パイルドライバー』が決まり、相手は失神して痙攣している。


(やり過ぎたかな…。

 ついでに裸で相手の頭を股に挟むというのもやり過ぎたか)


 一歩間違えばお色気攻撃だが、僕のその意図はない。


 痙攣している男を無視して、僕は下着を含めて服を着た。


「よし、完全復活!」


 ポーズを取る必要はないのだが、なんとなくポーズを取ってそう宣言した。


 宣言も必要ないか。


 一眠りした事で体調は回復した。


「それにしても...」


 どうやらこの宿屋は安全ではない様だ。


 外部の人間か内部の人間かは分からないが、こんな輩が簡単に入ってこれるなんて、宿屋の従業員があえて見逃しているに違いない。


 もしかするとこの宿屋を紹介したあの商人もグルかもしれない。


 なにか思わせぶりな事を言っていたし…。


 もしそうなら次に会った時に覚悟しろよ。


 それはさておき、その位治安が悪化しているという事だ。


 一度だけ父に連れられて伯爵令嬢としてだが、『アレフ』に来た時はこんな治安が悪いとは思わなかった。


 無論、伯爵令嬢、つまり領主の娘に危害が及ぶような事が万一にも起こらない様に最新の注意を払っていた事は想像に難くない。


 それを差し引いても、印象と違い過ぎる。


 しかしその時の印象と風邪で警戒心が緩んでいたのは間違いなく、今後の反省として戒めておかなければならない。




 どうやら僕は丸一日眠っていたらしいが、体調が回復したので行動に移る事にする。


 出奔したくせに、水戸黄門の如くこの街の為になんて言う資格が無いのは承知している。


 それでも治安悪化を放置しておくのは元伯爵令嬢としても個人的にも気持ちのいい話では無い。


 ただ僕は実質お尋ね者であるのがネックになる。


 だから今後の自分の為になにか利点があるなら力を尽くすことになるだろう。


 そんな僕が宿の部屋から出て降りていくと、宿屋の従業員が驚いていた。


「私が部屋で眠っている間に”客人”をお通したのですね。

 ちゃんと私流で”おもてなし”をしておきましたからご安心を」


 嫌味と怒気を含めた笑顔でそう告げると、宿屋の受付は真っ青になっていた。


 主人の顔を覚えていないが、姿が見えない所から察するにあの男は宿屋の主人なのかな。


 で、その主人の悪行に従っている従業員は私が無事なのを見て驚きと恐怖に震えていると。


 分かり易い程、小悪党だな。


 本来ならこの街の代官にでも通報しておくのが最善だけど、お尋ね者は辛いよ。


 僕はそんな事を考えながらギルドへと赴いていた。


 やはり『ローゼン』と同じ様な目を向けられるのはもはや宿命ともいえる。


 そんなのは無視してクエスト募集の張り紙をみると、『野盗の討伐』があった。


 しかも報酬がかなり高い。


 受付で訊いてみると、この野盗が度々街で狼藉を働くので街の治安が悪くなったと。


 それで近々大規模な討伐隊を組むかもしれないと教えてくれた。


「それでこの野盗のアジトはどこ?」


 このクエストを受けると決めた僕が受付に尋ねると、受付嬢は驚いた表情で固まっている。


「アジトがどこかと聞いてるんだけど?」


 柔らかめの口調で話すとやっと、硬直が解けたようだった。


「それがはっきりしないんです。

 この街の北西にある山だとまでは分かってるんですが…。

 それよりも本気でこのクエストを受けるつもりですか?」

「う~ん、そのつもりだったけど…」


 短期でこれだけ稼げるクエストは是非受けたい。


 狩りと同じで事後報告でも可なので、信用不足は問題ない。


 問題はアジトの場所を探る為に山狩りも出来ないし、探す手がない。


 これでは残念ながら諦めるしかない。


 仕方がなく、狩りに出かけようとギルドを出て少し歩いているが、尾行している人間がいる。


 気配を消すのも下手くそな、そもそも消す気があるのか、雑な尾行だ。


 僕は自然を装って、尾行していた人間を人気のない場所へ誘い込んだ。


「それで、私に何か用ですか?」


 振り向かずに背後にいる男に直球で訊ねると

「なんだ、気付いていたのか。

 寧ろ俺より、姉ちゃんが俺達に用があるんじゃないのか?」

(この男、野盗だな)


 そう確信して振り返る。


 おそらくギルドでのやり取りを盗み聞きしていたのだろう。


 ギルドで冒険者を募集して大規模な討伐隊を組まれると面倒だと思い、偵察に来ていた。


 すると若くて見目麗しい女性冒険者が自分のアジトを探しているので、捕らえて慰み者にしようと考えて尾行していた。


「って、事で間違いないかな」


 僕が自分の考えを追跡者に確認してみると、厭らしい笑いを浮かべて

「ああ、その通りだ。

 でも自分の事を自分で”見目麗しい”なんて言うとは、

 相当見た目に自身があるんだな」

そう言って向かってきた。


 バレた時は実力行使。実に分かり易い。


「自分の姿が”見目麗しい”のは自覚してるよ」


 この男は私を殺したいのではない。僕を捕まえてアジトに連れて行きたいのだ。


 だから剣で斬りかかってはこなかった。


 偶然なのか繋がりがあるのか分からないが、この男も産宿屋の主人と同じく体勢を低くして突進して来た。


「パイル~~!」

「ドライバー!」


 全く同じように『パイルドライバー』で戦闘不能にしてやった。


 まあ、宿屋の男の方が裸で相手をしてやったから幸福だったのかもしれない。


 この男はこれからしっかりと役目を果たして貰うとするか。








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