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第三話 初仕事

 ギルドで登録を済ませた僕は狩りへと向かう事にする。


 時間に太陽が真上に達していたので、正午頃と思われる。

 

 クエストを受注出来たら良かったのだが、それは登録したての駆け出しでは難しい。やはり何事にも実績に裏打ちされた信用が必要なのである。


 だから駆け出しでも問題のない狩りなのだが、この世界での狩りは二つに大別される。


 一つ目は元の世界と同じ様に主に食料としての野生動物の狩りだ。


 食料に向かない種類も牙や骨の採集の為、そして害獣駆除の観点から報酬が支払われる。


 二つ目は魔獣と呼ばれる生物の狩りだ。


 魔獣は食料としては適さないのだが、それ以上に魔獣の体内にある”魔石”の需要が絶えない。


 魔石は原料、燃料、加工素材として用途が多いので魔獣を討伐すれば魔石が出に入る。その魔石の引き渡しで、報酬は野生動物の倍以上になる。


 尤も、魔獣はほぼ全てが狂暴で、野生動物に比べ危険度が高い。


「これで少しでも稼がないと野宿か、なけなしのお金をはたくか…」


 そんな切迫した懐事情なので一刻も早く出来れば魔獣、ダメなら野生生物を見つけようと森を探索する。


 2刻も森を探索しただろうか、日が傾きかけて来た。


 夜に森での狩り、野営は危険が大き過ぎる。収穫なしでの帰還も覚悟しなければならなくなってきた。


 そんな折、

「見つけた」


 やっと狼型の獣の群れを発見した。


 見たところ狼と思われる。食用には向かないが、牙や骨、毛皮に需要があるのでそこそこの値でギルドに引き取ってもらえる。


 魔獣ではなく野生動物だが贅沢は言ってられない。


「数は…、5頭か」


 数を確認すると僕は腰から短剣を2刀とも抜いた。


 僕が武術として鍛錬したのは短剣を用いた双剣術だ。


 長剣を使用する剣術の方が見栄えがするので、優雅さを重視する貴族には人気だ。


 しかし短剣だから森やダンジョンと云った狭い場所でも自由に振るうことが出来る。双剣だから攻撃と防御を同時に行うことが出来、群れを相手にし易くなる。そして片手剣だから女性の僕でも自在に振るう事が出来る。


 僕はその利点に加え、この世界への転生で得た身軽さを剣術に組み込んだ。


 生半可な事ではなかったが、男と結婚する事を回避するなら何の事はない。


 双剣を構え、狼の群れへと突進する。


 野生動物の狼の方が人間より察知能力は高いので奇襲攻撃にはならなかったが構わない。


 実力で狩って見せる。


「僕の今日の食費と宿代になって貰う!」


 相手が人だったら完全に盗賊の心理なので引かれそうだが、知った事ではない。


 人間、衣食住の確保は全てに優先される。


 真っ直ぐ突進してくる僕を迎撃するかの如く、狼も僕に向かってきた。


 ”ザシュッ、ザシュッ”


 狼の攻撃を寸前で躱して、すれ違いざまに2頭の狼の首を斬った。


 首を斬ったと言っても切断したのではなく、気道と頸動脈を掻っ切ったのだ。


 ドラゴンなどの巨大生物を倒すには火力不足が否めないが、このクラスなら気道と頸動脈を斬るだけで生物を殺す事は可能だ。


 僕は2頭を斬っても足を止めず更に突進を続ける。


 そして3頭目の狼の目の前で横へと方向転換する。直後に木を蹴って高く跳躍する。


 その空中から短剣を投擲して1頭を、落下する力を利用しての斬撃で更に1頭を倒した。


 こうした立体的かつ、予見が難しい動きで相手を攪乱する。そして最小の労力で仕留める。


 それが僕の戦い方だ。


 そこで僕は腰の後ろの方に装備していた予備の短剣を抜き、再び双剣の構えをとる。


 ここまで来たら小細工は必要ない。残る一頭も気道と頸動脈を掻っ切って仕留めた。


「ふう…」


 会心の結果といって差し障りないだろう。


 投擲につかった短剣を回収しながら

「どうするか...」


 問題は報酬を受けとる為には、この仕留めた獲物を街のギルドまで運んで行かないとならない。


 しかし5頭もの狼を担いでいく力は女性の身である僕にはない。


 かといって1頭ずつ運んでいては時間がかかり過ぎ夜になってしまう。


 夜の森に何度も足を踏み入れるのは危険度が高すぎる。


「一番高くなりそうなのを持って行くしかないか」


 残りは明日の朝まで野生動物に喰われないでいるのを祈るしかない。


 少しだけ損した気分だ。それに野生動物の狼一頭だけでは夜の食費にはなっても、宿泊費を加えれば足が出てしまう。


「今夜も野宿か...」


 がっくりと肩を落としていると

 ”ガサッ”

後ろで物音がした。


 即座に反応して双剣を構えながら振り向くと、そこには騎士の鎧に身を包んだ5人の男性がいた。


 ただ一人だけ明らかに鎧が違い、この人が中心人物と思われる。


 無論、それがカモフラージュで他の四人の中に中心人物がいるのかも知れないが、そこまで考える必要は今は無い。


「驚いた、戦闘の気配がするとは思ったが、

 まさかこんな美しい女性が戦っていたとは」


 一団の中心人物と思われる男性がそう呟く様に言葉を吐いた。


 面と向かって”美しい”と言われて不覚にもドキッとしてしまった。


 でもくどいようだけど、僕の精神は男なんだって。だから男にときめいたりはしない、はず。


 どうやら貴族の子弟とその護衛っぽいけど、名乗らないので断定は出来ない。


 ただ敵意は無さそうなのと、アルヴィース家の追手ではなさそうなので構えは解いた。


 無論、最低限の警戒は解いていないが。


「それでこの狼は君が一人で倒したのかい?」


 続けてそう尋ねられた。


「はい、ただ街に運ぶのは一頭が限度なので、

 残りをどうしたものかと考えあぐねていました」


 この程度なら本当の事を話しても大丈夫だろう。


 すると中心と思われる人物が

「確かに女性では、否、男でも5頭は無理だな。

 おい、お前達、手伝ってやれ」

回りの男達にそう指示を出した。


「ええ~~、エル様、酷いっすよ~~」


 部下と思しき四人からそんな声が上がる。


 上下はあるが、砕けた関係の様なのが見て取れた。


 そんな声に

「お前らな~、あんな美人の助けになろうって気は起きないのか?

 だから揃いも揃って独身なんだぞ」

呆れたように『エル様』と呼ばれた人物が言った。


 他の四人はその言葉で僕の方を窺い、じっと見つめた後、

「まあ、確かに...」


 そう言って、各々が狼を抱え上げ始めた。


 男って悲しいよね。




「ありがとうございました」


 森で出会った五人組のおかげで狼5頭全てをギルドに運び換金する事が出来た。


 これで数日分の食事と宿泊代相当のお金を手に入った。


 ”エル様”にお礼を述べると

「こちらこそ、美人のお役に立てて光栄だよ」


 誉め言葉を所々に挟んでくるので、ドキマギして会話を続けていられない。


「それでは、私はこれで...」


 僕の姿は女性なので一人称を”私”にして挨拶をして、その場を後にしようとした。


 すると

「良かったら名前を教えてくれないか?」

と、尋ねられた。


 拒否しても構わないのだが、恩があるのでそうもいかない。


「名前ですか。

 私はフィーナといいます」


 僕は”フィーナ”という偽名を使って冒険者登録をしているので、そう答えた。


 いや、もうアルヴィース家に戻る気はないので、”フィリシア”ではなく、”フィーナ”で生きていく事になるだろう。


「フィーナ、か」


 "エル様"がその名前を反芻している内に、僕はその場から離れた。




 二日ぶりに入る事が出来た寝台で色々と考える事になる。


 先ず、僕が出奔した事でアルヴィース家ではそれなりの騒ぎになっているだろう。


 流石にいなくなって一日では父も本格的な捜査は行わないだろう。それは確信に近い。


 何しろ、僕が夜の内に姿を消すのはこれが初めてではない。


 出奔計画の訓練や下見の為に社交界に出た年齢の頃から、何度かやっている。


 無論、翌日には帰るのだが、その度にしっかりと叱られた記憶がある。


 だから今回も同様に直ぐに帰って来ると思い、初期動作が遅くなるのは間違いない。


 騒ぎを嫌う貴族家の面子の問題も考えると、2,3日様子を見てから動き出すと思われる。


 そして王家に僕の出奔が知れる前に連れ戻す事が出来れば、それがアルヴィース家にとっては最善なのは間違いない。


 だからそろそろ捜索の動きを始めるが、王家に知られない様にする為に大規模な捜索は出来ない。


 僕の行方を推測した上で、秘密裏に数人を派遣する程度が限界だろう。


 しかし王家に知れてしまったら、王家の面子も関わってくるので婚約の事実すら無かった事にするしかなくなる。


 その時点でアルヴィース家に上がり目も無いが、処罰も行われなくなる。表向きは”なにもなかった”のだから。


 同時に僕の捜索がなくなり、万事丸く収まる。


 王家に知れる期限は確たることは言えないが、数日で王家に知れる事はあり得ない。


 しかし父は王国の慣習に従って僕と王子の婚約を断っている筈。


 そして婚約の再度の申し込みが遠からず行われ、その時は王家に知らせざるを得なくなる。


 その期限は僕の推測では長くて一月。


 それまで僕がアルヴィース家の捜索に見つからずにいるか、『ルシフェルス』まで逃げ切る。


 と、これが出奔計画についてだ。


 それと気になるのが”エル様”についてだ。


 敬称を着けて呼ばれているから立場のある人なのは間違いない。しかし実権があるかというと、周りの気安い態度からするとない可能性が高い。つまりは貴族の子弟、それも次男や三男以降という事になる。


 そうなるとこれ以上、関りを持つのは避けた方が良いかも知れない。


 私の正体に気付かれて、アルヴィース家に連絡されでもしたらかなり厄介な事になる。


 でももう関わらないと考えると、少し寂しい気がする。


 もう顔を会わさない方が安全なのだが、また会いたい気持ちも間違いなく存在して...。


 あ~~、なんでこんな複雑な気分に悩む事になるんだ!


「兎に角、”エル様”の事は明日からの成り行きに任せる!」


 僕はそんな事を考えながら眠りに就いたのだった。







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