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第二十五話 報告

『ケルベロス』との戦闘で受けた傷は、

 ・放り投げられて木に激突した強度の打撲(一部骨折)

 ・噛みつかれた左肩(大量出血・肩の骨折有り)

 間違いなく重症である。


 直ぐにでも医師による治療をするような大怪我だがここに医師はいない。


 代わりに治癒魔法を使えるクラーラさんがいる。


 クラーラさんは

「無茶し過ぎです。

 治癒魔法も万能じゃないから無茶はするなと

 アリシアさんに言われましたよね?

 それなのに、こんなボロボロになって...」

僕に説教しながら、そして泣きながら僕に治癒魔法をかけ続けている。


 彼女を泣かせてしまった罪悪感は感じるが、それと同時に依頼を成功させた達成感も感じていた。




 クラーラさんによる僕の治療も終わったので今度は依頼達成の報告に向かわなければならない。


 その為に王都に向かう事になる。


 シュプール侯爵には案内兼見届け人が報告するだろう。


 ただ今回の正式な依頼人は王国なのでそちらに報告するのが筋と云うものだ。


 一応討伐の証拠としてケルベロスの遺体を『異空間収納袋』で回収して置く。


 そして僕達はゆっくりと王都に向かうのだった。




 王都でもシュプール侯爵家を訪ねた時のように宿屋で一泊してから王城へ向かった。


 これもまたシュプール侯爵家の時と同じように小奇麗な服装で、だ。


 但し今回は短剣は勿論、手甲などの防具も身に着けていない。


 これは王の安全を高める為にやむを得ない措置だ。その辺りは貴族令嬢として養育されていたので心得ている。




 謁見の間に通され、王に向かって片膝を突いて頭を下げる。クラーラさんは緊張しきりで動作がなにやらぎこちない。


 ついでに周囲は僕が姿を現してからなにやらざわついている。


 やはりまだ二十歳にもなっていない、しかも女性が謎の存在を討伐した冒険者だとは信じられないのだろう。


「『ルシフェルス』ギルドより派遣されたフィーナ=エルザードと申します。

 此度、ベルリア王国より御依頼されたシュプール侯爵領での

 謎の存在の討伐を完了しました事、ご報告致します」


 形式が大切な場所なので分かり切った事ではあるが、頭を上げずにそう言上した。


「ふむ、大儀であった。

 面を上げよ」


 そう言われて初めて僕は頭を上げた。


「ほう、話には聞いていたが本当に若い、そして美しいな」

「恐縮にございます」


 僕の顔を見て、当然の感想を口にした王に謙遜で返す。


 そんなやり取りをしていると、

「陛下、騙されてはなりません。

 こ奴はなにもせず、王家から金を巻き上げようそしている不届き者です!」

謁見の間に勢いよく飛び込んできてそう叫んだのはシュプール侯爵の息子であるランディだった。


 続けてランディは意気揚々と自分の臣下が謎の存在を討伐したと語りだす。


 しかし王は表情も変えず、寧ろ呆れきってすきなように言わせている感じだ。


 ランディの自画自賛が終わった所で王が

「と、お主の息子は言っておるが、

 シュプール侯爵、どうなんだ?」

その場に列席していたシュプール侯爵に話を振った。


「いえ、あの、その...」


 シュプール侯爵は息子のランディ程莫迦ではない。


 実際に討伐した僕の前で自分達の功績だとは云えずにしどろもどろになっている。


 その態度にランディが再び騒ぎ出すが、

「黙れ!」

流石に王だけあって、威厳の籠った一言でランディの妄言を押さえつけた。


「では聞くが、まず謎の存在は一体どのようなものだったのだ?」

「それは『ケルベロス』でございます」


 案内兼見届け人から聞いたのであろう。自信満々に答えるランディだったが

「で、お主の臣下はどのようにして『ケルベロス』を倒したのだ?」

この王の言葉で返答に詰まる。


 流石に『ケルベロス』に生半可な攻撃が通用しない事は知っていた様だ。


 更に

「ではお主の臣下が討伐した証はあるか?」

これにもランディは答えられない。


「ではフィーナ=エルザードよ。

 先程余がこのランディにした質問に答えられるか?」


 王は僕に

「はい、お答えします。

 先ず討伐方法ですが、私は少々前に『セレステ』にて

 『ヒュドラ』を討伐し、その毒を所持しております。

 その毒を以て『ケルベロス』を行動不能及び瀕死とし、

 止めはここにおりますパーティーメンバーのクラーラが刺しました」

この答えに回りの貴族達から歓声に近い声が上がる。


 それこそクラーラさんを単なる荷物持ちの様に思っていたのかもしれないが、とんでもない誤解だと釘を刺しておく。


「『ヒュドラ』の毒とは、とんでもないものを持ち出したものよな。

 して、討伐の証拠は?」

「ございます。

 もしこの玉座の床を汚しても良いと仰るなら、

 討伐した『ケルベロス』をお見せ出来ますが」


 これには王だけでなく貴族達も食いついてきた。


 自分達は立場もあり、『ケルベロス』の様な危険な怪物のいる所には行けない。


 しかし今は、その怪物を直接見れるというのだから。


 ただ周りの貴族というよりお付のような連中が床を汚すのに難色を示したので、用意された大きな布の上に出す事になった。


「さあ、焦らさずに見せてくれ」


 40は過ぎているであろう王も、この時ばかりは少年の顔つきになっている。


 そこへ僕は胸の谷間の『異空間収納袋』から『ケルベロス』を取り出した。


「おお、これが…」


 王も周りの貴族達も感激している様だ。


 ひとしきり感激した所で王はランディに向き直る。


「さて、『ケルベロス』討伐が

 フィーナ=エルザードの功であるのは明白となった。

 シュプール侯爵嫡男ランディよ、余を謀ろうとした罪、

 軽くは無いぞ」


 その表情は怒りというよりも、威圧を発してるように感じる。


 信じていなかったから謀られてはいなかったが、王に虚言を吐いたのは許されないという事だろう。


「シュプール侯爵共々、

 親子で謹慎しておれ。

 正式な沙汰は後日にする!」


 そう宣言してシュプール侯爵の嫡男ランディが起こした騒動は治まった。


 王は玉座に戻って座りなおすと

「改めて此度の事ご苦労であった。

 余からも礼を申す。

 なにか望みがあればなんなりと申すがよい」

そう言うが、僕にして見れば特に望みは無い。


 精々、依頼料を早く払って欲しいくらいだからここでいう事ではない。


「ご配慮痛み入ります。

 しかし私は冒険者。

 依頼を受け、それを果たしただけにございますので、

 お気になさらずに」


 要するに依頼料さえ払ってくれればいいよ、という意味だ。


 因みに依頼料はギルドを通じて支払われる。


 2割ギルドに持って行かれるが、揉め事になる可能性を極めて低くする必要経費と云うか保険だ。


 冒険者個人で王侯貴族から依頼を受けた場合、達成した後から言い掛かりをつけて支払いを渋ったり、値切ったり、最悪踏み倒そうとしてくる可能性がある。


 しかしギルドを通せば、そういった言い掛かりは通じない。


 下手にギルドと揉めると今後問題が起きた時に依頼を受けて貰えなくなる。


『ルシフェルス』は自治区で国の支配を受けていないので、無理やりどうこうも出来ない。


 欠点は『ルシフェルス』に戻らないとお金を受け取れない事だが、『セレステ』での行動をメインにしているので支障は無い。


 ただここで王は話を変えて来た。


「やれやれ、欲のない娘だ。

 それでいて美しく、勇ましい優秀な冒険者とはな。

 どうだ、我が国に留まらぬか?

 望むなら準男爵級の待遇を用意するぞ」


 これが王の本命の話だったのかもしれない。


 四大国の全てで優秀な冒険者不足に悩まされている。冒険者として優秀な程「セレステ」を望む傾向がある為だ。


 だからこういった依頼で誼が出来た優秀な冒険者はなんとか手元に置きたいのだろう。


 爵位級の扱いは大盤振舞いだがそれだけ本気だと言える。


 しかしそんな誘いに対する僕の返答は決まっている。


「私は冒険者で自由に行動するのが性に合っておりますれば、

 この地に留まるのはご容赦ください」


 丁寧な言い方をしたが要するに”拒否”の回答だ。


 王は知らないから仕方が無いが、僕は隣国の貴族家の出奔者。


 そんな人間がいくら請われても留まれる筈が無い。


 すると王も諦めたらしく溜息を吐きながらも

「分かった。

 今宵はフィーナ=エルザードの依頼完了を祝して

 夜会を催す故、楽しんでくれ」

そう言って王は玉座から離れて行った。


(やっぱり夜会からは逃れられないか...)




 その夜、僕とクラーラさんは夜会に出る事になった、出ざるを得なかった。


 王としても脅威が去った事を国の内外に周知する事は必要だから当然と言える。


 まあ、ギルドからもそう言った催しが先ず間違いなくあるから用意をして置く様に注意されていた。


 だから僕もクラーラさんも『ルシフェルス』で買い揃えてあった。


 僕はまだ年齢が年齢なので大人しめの色気を押さえたドレスを用意した。


 肩には『ケルベロス』に噛みつかれた傷がまだ残っているのだが、それは化粧の塗料を使って誤魔化している。


 対してクラーラさんは色気を重視したドレスだった。


 王の挨拶で夜会が始まると程無くして、貴族連中に囲まれてしまった。


「いや、本当に美しい」

「冒険者にしておくのはもったいない」


 など、容姿をべた褒めされる。


 ただそれって性欲の対象にしか見ていないのではと疑ってしまうので、あまり嬉しくない。


 そんな中、周りの貴族の一人が

「『ヒュドラ』の毒を持っているそうですが、

 他にも何か珍しい物をお持ちなのでは?」

冒険譚や武勇伝が好きな御仁なのだろう。


 冷たくあしらう手もあったのだが、僕はここで

「こう云った物もありますが」

そう言って、胸の谷間の『異空間収納袋』からユニコーンの角を取り出した。


 回りでその瞬間を見ていた貴族達は

「胸から角が…?」

「ユニコーンの角?

 何故それが胸から...」

「胸から出た事に驚くべきなのか、ユニコーンの角に驚くべきなのか...」

皆、ずれた所で悩んでいた。


 その所為でまた喧騒が起きてしまったが、概ね好評の内に夜会は進んで行った。


 そうしていると楽団が出て来て、ダンスの時間となる。


 すると主賓である僕の方に何人かの男性が近づいてきたが、その中でも一番先に、というか、周りが譲って先頭でやってきた人物の顔を見て僕は固まってしまった。


「勇ましくも美しいお嬢様、

 一曲お願い出来ますか?」


 そう言って軽く頭を下げて来た人物には見覚えがあった。


 それは僕が『ルシフェルス』に向かう途中の街『ローデン』で出会った”エル様”だった。


 ただ今は冒険者とは思えぬ紳士として振舞っているが、間違いない。


 不覚にも顔が赤らみ胸が高鳴ってしまう。


 一曲だけ踊る事になったのだが、僕は伯爵令嬢として養育されていたのでダンスは問題なく踊れる。


 修練よりも学問よりもダンスの方がしっかりと叩き込まれた。


 当時は嫌で嫌で無駄としか思えなかったダンスの練習だったが、今は”エル様”と踊る事が出来るようになっておいて良かったと思えてしまう。人間万事塞翁が馬とはよく言ったものだ。


 踊っている際に

「黙って消えなくても良いじゃないか。

 でも見つけたよ」

小声でそう囁かれて、その声がなかなか耳から離れなかった。


 その後、義務として何人かと踊り、そこまでしてやっと今回の依頼は終わりを迎えるのだった。



取り敢えずは、外伝からの移植はここまでにさせていただきます。


これ以降はかなり改変しないとならないので、ストーリーが結構歪んでしまうのです。


いずれまた、外伝のストックが溜まりましたら改変も含めて移植するかもしれません。


本当に、いったいどっちが外伝なんでしょうね。

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