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第二十四話 正体

僕とクラーラさんはギルドを通じての依頼を果たす為にベルリア王国シュプール侯爵の領地へとやって来た。


 道すがらクラーラさんが

「それにしても存在の討伐はおろか、

 正体すら分からないなんて、

 シュプール侯爵家はどうなってるんでしょう?」

とぼやいていた。


 確かにこういった事態の時に備えて調査部隊や腕利きの人間を集めておくのも領地貴族の務めだ。


 僕も伯爵令嬢として暮らした経験が無ければクラーラさんと同じ事を思ったかもしれない。


 シュプール侯爵はベルリア王国の所属で、僕のいたヘイルダム王国の臣下ではない。


 しかし侯爵ともなれば、良くも悪くもさまざまな噂が他国にも入って来る。


 そして僕の生家の伯爵家ともなると他国の貴族の情報も収集していた。


 その入って来たシュプール侯爵家の噂よると、当代のシュプール侯爵は暗愚ではないが凡愚という評価だった。


 侯爵という地位にいるのは累代の家系のおかげで決して己の才覚で昇爵した訳ではない。


 ただ権謀術数だけは得意だったらしく、そちらにばかり注力していた節がある。


 そんなシュプール侯爵だから領内に優れた冒険者が居ない現状や、有事の際の備えなど考えていなかったのだろう。


 そんな事をクラーラさんに説明すると

「そうなんですか、って

 フィーナさんは何故貴族の噂にそんなに詳しいんですか?」

と怪訝に思われてしまった。




 シュプール侯爵領で一泊してから侯爵の屋敷へと赴いた。


 今回の依頼の正式な依頼人はベルリア王国だが実質的にはシュプール侯爵家だ。


 言うなればシュプール侯爵領の面倒事を早期に解決して欲しいと、ベルリア王国が『ルシフェルス』に依頼した形となっている。


 無論シュプール侯爵家には王家から話がいっている。


 僕達がシュプール侯爵の屋敷の前やってくると門番が近づいて来る。


「なんだ、お前達。

 ここはシュプール侯爵の屋敷だぞ!」

「『ルシフェルス』のギルドからの要請でやって来た

 フィーナ=エルザードです。

 シュプール侯爵にお取次ぎを」


 毅然と言い放ち、ギルドからの紹介状を門番に見せた。


 すると態度が一変し、

「これは失礼しました」

そう言って、屋敷内の人間を読んで案内させてくれた。


 こうしてやっと会えたシュプール侯爵は50は過ぎたであろう壮年の男性だった。


 その隣に息子であろう30前後の男性が控えている。


「お初にお目にかかります。

 『ルシフェルス』より派遣された

 フィーナ=エルザードです」


 こちらが名乗りを上げたのに、向こうは難しい顔をしたまま何も言わない。


 それどころか溜息を吐いて、頭が痛そうなそぶりを見せている。


 ギルドに注意されたように、冒険者の服装ではあるが汚れのほぼない小綺麗な格好をしているのにこの扱いは正直腹が立つ。


 小綺麗な格好をしているのは貴族というのは自分が気を遣われるのが当たり前だと思っている連中が殆どなので、普段着でいけば侮り、そして不機嫌になる。


 だから態々宿屋から小綺麗な服で来たというのにこんな扱いをされる謂れは…、あった。


 それは僕がまだ年の若い、若過ぎると言って差し障りのない女性だからだ。


 男尊女卑の風潮だけででなく、若過ぎるのが信用を毀損しているという訳だ。


 侯爵の息子はずかずかと歩いて僕に近づいて来ると

「『ルシフェルス』も余程人材不足と見える。

 こんな小娘で誤魔化そうとはこのシュプール家も

 軽く見られたものだ」

上から目線でそう言い放った。


 しかし僕の顔をまじまじと見て

「まあ、今回だけは目を瞑ってやろう。

 その代わり、今夜、僕の夜伽の相手を...」

「失せろ、愚物が!」

シュプール侯爵の息子に声を荒げたのは僕ではない。クラーラさんだった。


「き、貴様、なんと言ったーー!」


 侯爵の息子は激高するが、僕もクラーラさんと同じ考えだ。単にクラーラさんが一足早く切れただけだ。


「シュプール侯爵、

 私がまだ若輩の女だから信用できないと思っているなら心外です。

 それに私は冒険者、つまり成果を上げる事で生活を成り立たせているのです。

 評価は仕事が終わってからにして頂きたい」


 そう言うとシュプール侯爵も渋い顔ながら納得した様で

「下げれ、ランディ」

「しかし父上!」

「下がれと言っておる!」

父である侯爵に厳しく言われてランディはやっと引き下がった。


 僕達はその後、詳しい説明を執事のような男性から受けるのだが、愚物(ランディ)はずっと僕達を睨んでいた。絵にかいた様な小物だな。


 それにしても偉い人ってなんで自分で説明しないんだろう。




 そんなやり取りを経てから僕達は問題の存在が出るという村へ向かった。


 その村はその存在が出るようになってから誰も住まなくなって現在は廃村となっている。


 ただシュプール侯爵としてはさっさと問題を解決しないと都合が悪いらしい。


 シュプール侯爵領は王都に近く、放置すれば王都に被害が出る可能性もある。


 そうなると保身を考える王族や貴族から早期解決を求められている。


 しかしシュプール侯爵が一向に解決する目星を付けないので、王家が『ルシフェルス』に依頼する事態になったとか。


 これらの事を案内兼見届け人から説明して貰っている内に廃村に到着した。


 案内人は存在の恐ろしさを聞き及んでいるから腰が引けている。


 村の中に足を踏み入れ捜索するが中々見つからない。


 もしかしたら別の場所に移動したのかと思った時、目の前から巨大な何かが突っ込んできた。


 あまりに突然で的確な判断をする間が無かった。


 咄嗟に手甲で防御したが、偶然にもそれが大正解だった。


 その存在は体当たりをしてきたのではない、噛みつきに来ていたのだ。


 だから僕の手甲に噛みついて動きを止めたので、その存在の正体が明らかになった。


 この存在、それは『ケルベロス』だった。


『ケルベロス』それは三つ首が特徴の狼の怪物だ。


 全長は3m程になり、狼に近い姿から想像できる通りにかなり素早い動きをする。


『ケルベロス』は僕に噛みつきを止められて姿を露わにされたが、それがどうしたとばかりに押し切ろうとしてくる。


 僕は真ん中の頭の噛みつきを手甲で防いだが、それだけに過ぎない。


 押す力が強く、反撃に手を回せないのだ。


 しかしクラーラさんが『ケルベロス』に魔法を放とうとすると、『ケルベロス』は押し切るのを諦め、僕の手甲を噛んだまま振り回す。


 絶望的なまでの力の差に僕はいい様に振り回され、そして放り捨てられた。


 その勢いのまま木に激突した。一瞬、息が止まるほどの勢いで戦闘不能には陥らなかったのは幸運でしかなかった。


 クラーラさんが速射の初級魔法で『ケルベロス』の気を引いている間に立ち上がると、『ケルベロス』も僕に気が付いてまた噛みついて来る。


 しかし今度は左右の頭で同時に噛みついてきた。


 それを左右それぞれの手甲で防ぐのだが、噛みつかれたせいで動きを止められ無防備になってしまう。


 そこに『ケルベロス』の真ん中の首が噛みつきに来て、頭は免れたが左肩に噛みつかれてしまった。


「あ、あああーーーー!!」

「フィーナさーん!」


 僕は凄まじい激痛に悲鳴を上げてしまった。


 噛みつかれた場所から大量の血が噴き出す。


 その血が偶然にも『ケルベロス』の顔に掛かった。


 それによる僅かに『ケルベロス』の気が削がれ、激高したクラーラさんの魔法が放たれた。


 その魔法は『ケルベロス』の右側の首の目に命中し、右手に噛みついていた首が離れた。


 半ば偶然ではあろうが、そのおかげで右手が自由になり、その右手に持っていたミスリルの短剣を『ケルベロス』に突き刺した。


 しかし悲しいかな力不足で、浅く突き刺さった程度だった。


 ただ『ケルベロス』にはそれなりに痛みを与えたようで、僕の肩に噛みついていた首は僕から口を離した。


 しかし『ケルベロス』はまだ噛みついている左側の首で再び僕を放り捨てる。


 ただ僕はミスリルの短剣をしっかり握りしめたままだった。


 その為、放り捨てられる勢いで『ケルベロス』の真ん中顔、鼻の辺りだが、を切り裂いた。


「ギャアーー!!」


『ケルベロス』がまるで悲鳴のような鳴き声を上げる。


 いかに『ケルベロス』でも顔を引き裂かれれば痛みを感じる様だ。


 しかし当然、この程度では致命傷にならず、むしろ肩に大きな負傷をした僕の方が圧倒的に不利なのは間違いない。


(『ヒュドラ』みたいに再生はしないようだけど、

 そもそも切り落とせないし…)


 僕は師匠が離脱する前に倒した『ヒュドラ』の事を思い出していた。


(これは逃げるしかないな...、待てよ、『ヒュドラ』?)


 此処で僕はある策を思いつついた。


 今、僕が来ている冒険者の服はちょっと内側に細工がしてあり、胸の谷間に『異空間収納袋』が挟んである。


 そのおかげで突発的にでも収納してあるアイテムを取り出すことが出来るのだが、そこで僕は”ある物”を取り出した。


(これをこうして...)


『ケルベロス』が顔を切り裂かれた痛みせいか、慎重になって向かってこない隙に策の準備を済ませる。


 そして『ケルベロス』に正面から突進する。


『ケルベロス』は噛みつきだけでなく、その首から強力な火炎を吐き出す攻撃もある。


 それがこの此処で放たれた。


 その火炎での攻撃を真正面から受けた僕は火達磨かと思いきや、『ケルベロス』の火炎を『ヒュドラ』の鱗付きの皮で防いだ。


『ヒュドラ』の鱗は強力な対魔法、耐火性があり、『ケルベロス』の火炎もほぼ完全に防ぐことが出来た。


『ケルベロス』には僕がまるで自分の吐いた火炎を掻き分けて向かってきた様に見えたのだろう、動きが完全に止まっている。


 そこで僕は手甲で突きを繰り出す。


 狙いは『ケルベロス』の中央の首にミスリルの短剣で付けた傷だ。


 拳で砕くのではなく、手甲の刃になった部分で抉るように叩き込んだ。


 間違いなく『ケルベロス』の傷口に僕の手甲は命中、突き刺さった。


 しかし『ケルベロス』の頭蓋骨を砕く程の威力ではない。


 寧ろ土壇場で『ケルベロス』が足を踏ん張り突きの威力を完全に受け止めた。


 僕の方は全力の突きを受け止められて動きが完全に止まっている。


 そこに『ケルベロス』が攻撃を仕掛けてくれば間違いなく命は無かった。


 しかし『ケルベロス』は一向に襲い掛かってこない。


 良く見ると足が震えていて、四つ足でなければ倒れそうになっている。


「狙い通りだ。

 さしもの『ケルベロス』も『ヒュドラ』の毒は効いたみたいだな」


 そう、僕は『ケルベロス』に突っ込む前に、『異空間収納袋』から以前手に入れていた『ヒュドラ』の毒を取り出して手甲に塗っていたのだ。


 その手甲の攻撃を傷口に受けた『ケルベロス』は『ヒュドラ』の毒をまともに受けたのと同じ状態になった。


『ケルベロス』は四つ足にも拘わらずふらつき始めた。


 もう火炎も吐く力も残っていない『ケルベロス』の口へ突きを叩き込んでやる。


 突きをねじ込まれた『ケルベロス』は手甲の所為で口を閉じることが出来ない。


 その口の中にクラーラさんが魔法を叩き込むと『ケルベロス』の一つの首が息絶えた。


 それを三回繰り返すと、完全に『ケルベロス』が息絶えた。


 同時に僕も気が抜けてその場に倒れ込んだ。


「フィーナさん、直ぐに治癒呪文を掛けるのでしっかりして下さい」


 僕がクラーラさんの治癒魔法で動けるようになるのに、幾分の時間を要するのだった。



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