第二十三話 依頼
「こんにちわ~」
「おう、あんたらか。
注文の品なら出来てるぜ」
師匠がパーティーを一時離脱してから二日後。
鍛冶屋にやって来た僕はミスリルの短剣を受け取った。
「やりがいのある仕事だからもっと時間が欲しかったんだがな」
鍛冶師としてはいくらか無理をしたらしい。
しかしこの鍛冶師が手を抜いたり、粗悪な物には絶対にしないと信用している。
だってあの師匠が信頼してるんだから。
その分、少々多めの代金を支払ったが、これで僕の攻撃力が上昇した。
その一方で僕達は昨日、体を休めつつ買い物をしていた。
これは日用品や娯楽品を買っていた訳ではない。
二人の武装を強化していたのだ。
先ずクラーラさんは駆け出しの冒険者の装備しか持っていなかった。
そこで魔法制御がよりし易くなるロッドや、防具として軽量な鎖帷子、魔法や火炎に耐性のあるローブなどを揃えた。
僕は手甲や足甲を改良した。新しく買う事も考えたが、やはり師匠に買って貰った物だから、ね。
具体的には拳、膝、肘に刃の部分を付けた形になった。これでこれらの部位で行う攻撃が衝撃だけでなく切り裂く、抉る効果も生まれる様になった。勿論誤って装備者の僕を傷つけないように細心の注意がはらわれている。
幾分重くなったが動きに影響はない程度に抑えてある。
師匠に所持金の半分を渡したのによくそんなにお金があったなと思われそうだが、これで殆ど0になってしまった。
それではこれからの事を考えて無さそうに見えるかもしれない。
しかしちゃんとこれからの事も考えてある。
クラーラさんと相談して決めた事だが、もう一度第七階層からの地下ダンジョンへ向かうつもりだ。
これは僕とクラーラさんという前衛と後衛の連携を良くする実戦訓練の為だ。
実際問題、最大戦力だった師匠が離脱してパーティーの戦力は激減した。
それでも冒険を続けるならば、戦力強化を考える必要がある。
その方法として個々の武装も充実させたが、それだけに留まらず連携の強化を図る事にした。
行くまでが厄介なのが難点だが、あの第五階層なら訓練の相手である魔獣には事欠かない。
物資の補給は僕の手持ちの宝石を売って資金を得た。
訓練で魔石を入手すればこれからの活動資金にする事が出来る。
少々無茶をする事になるが、決して無理ではない。
安全第一で考えるなら『セレステ』内部ではなく周辺の森で修行をするべきかもしれない。
しかし『ルシフェルス』近郊の森は余り魔獣や野生動物がいない。
この街の冒険者が狩り尽くしてしまうのだ。
その所為で訓練相手の魔獣を探すだけで一苦労となってしまっている。
魔獣が害獣である以上、単純な生活や交易の為にはこの方が圧倒的に良いのだから文句も言えない。
それならば、こんな強引な方策を取るしかないだろう。
二人で頑張ろうとクラーラさんに言ったら、随分と感動したような表情をしていたが、もしかして言葉選びを間違っただろうか?
「しぶとい、このっ!」
「危ないっ、下がって!」
僕達は再び砂漠を抜けて第五階層へやって来た。
本来の目的は連携強化の実戦訓練だが、少しだけ他の冒険者的な仕事もする事にした。
それはこの第五層に来る為には通過しなければならない第六階層の詳細なマップを数日かかりで作り上げたのだ。
これをギルドに報告すれば、この地下ダンジョンの捜索がもっと進むかもしれない。
これも一種の”功績”となる。
まだ考えるのは早すぎるが将来的な昇爵の為にはこまめに”功績”を稼いでおきたい。
そのついでという訳ではないが、『千変万果』もしっかりと採取した。
幸か不幸か、効能に関しては前回と同じだった。
まあ、好事家に売れるかもしれないし、『異空間収納袋』に入れておくと時間経過での劣化はしないので腐ったりはしないから良いのかな?
そしてやって来た本当の目的地である第五階層だが、前回来訪した時と同様に次々と魔獣の群れが襲い掛かって来る。
ただ今回は第四階層へ降りるつもりはないし、第六階層のように詳細なマッピングをするつもりはない。
だから降りて来た階段から余り離れない場所で戦闘をしている。
階段は魔獣が絶対に入ってこないので休息や危機に陥った時の一時避難に最適だからだ。
「このクラスの魔獣を一撃で仕留める威力は無いんです」
「それなら目とかを狙って動きを止めてくれるだけでも助かります」
『成る程、それなら精度が命になりますね」
そう云った反省会も階段で行っている。
そしてこの第五階層の訓練での収穫としては、装備のおかげもあるが、クラーラさんの魔法力に余裕が生まれた。
正確には魔法の運用が上手くなり、少ない魔力で効果を落とさずに魔法を放てるようになった。
クラーラさん最大火力の広範囲殲滅呪文である『浄化の炎雨』も以前なら一発放つのが限界だった。それも直後は倒れそうになる程消耗していた。
しかしこの訓練を進めていく内にあと二発くらいなら大丈夫になった。しかも自力で動ける余力を残してである。
それだけでなく、速射が苦手だったのか、実践レベルでは使えなかった初級の攻撃呪文を殆どタメ無しで放てるようになった。
だから一発で仕留められなくても、援護としては充分過ぎる戦力になっていた。
僕も装備が充実した事で更に攻防共に力を増していた。
その上で最重要の課題である連携も上達していた。
そうやってパーティーの力を底上げして、約2週間の実戦訓練をこなして第三階層の街へと帰還した。
第三階層に戻って直ぐに魔石の換金の為にギルドへと向かった。
ギルドではまた大量の魔石を持ってきた僕達に女性職員が驚いているが、それとは別に確認する事があった。
「お尋ねしますけど、
『アリシア=ベルツ』がやってきませんでしたか?」
師匠が『セレステ』に戻って来ていないか聞いてみた。
「『アリシア=』ベルツ』様ですか。
少々お待ちください。
・・・、何も承っていませんが」
どうやら師匠はまだ戻って来ていない様だ。
王侯貴族の依頼は、難度だけでなく時間が掛かる厄介な依頼の可能性が高い。
師匠への依頼もその類だったのかもしれない。だからまだ依頼達成とならずに戻ってこれないのだろう。
ただそれを僕が確認しようにもギルドは絶対に依頼の詳細を教えてはくれない。
王侯貴族の依頼だから、前世で言う守秘義務が発生しているのだ。
一応、ギルドは僕達のようなケースに備え、伝言の受け渡しはしてくれるのだが、それが精一杯。
僕達の方から修行で第五階層へ向かったと師匠への伝言をギルドに託しておいたのだが、師匠は受け取りに来ていないとの事だった。
まだ暫くの間は二人で活動を続ける事になりそうだ。
まあ、あの師匠の事だから依頼が終わっても真っ直ぐに戻って来るかは甚だ怪しいと言わざるを得ないのだが。
そんな事を考えながらギルドに提出した魔石の清算を待っていると
「失礼、『フィーナ=エルザード』様でしょうか?」
ギルドの職員が話しかけて来た。
『エルザード』というのは、僕がこの『ルシフェルス』で貴族級冒険者として叙爵した時に着けた家名である。
僕は出奔する時に『フィリシア』の名と共に『アルヴィース』の家名も捨てている。
その為、貴族級冒険者として叙爵した時に新たな家名として『エルザード』を名乗る事にした。
因みに、この『ルシフェルス』では元々平民や訳ありの人物が多い。
そう云った人が貴族級冒険者になった時に、家名を付けるようになる。
そして師匠もそんな中の一人だったのだが、僕もそんな中の一人になったのだ。
そんな僕に慇懃無礼な態度で話しかけてきた職員に肯定の意で返事をすると
「お話があるので、どうぞこちらへ」
貴族級冒険者の僕には敬語で話さなければならないのだが、こんなどこの馬の骨とも分からない小娘に使いたくないというのが見て取れる、いや、聞いて取れるというべきなのかな。
クラーラさんにも同行して貰い、応接室へと通され、そこでギルドの幹部を名乗る人物から話を聞く事になった。
「フィーナ=エルザード男爵、
貴殿にギルドに来ている依頼の遂行をお願いしたい。
詳しくは、この職員から聞いてくれ」
とだけ言うと、その幹部は席を外してどこかに行ってしまう。
残された僕は、同じく残された慇懃無礼な職員とは別の女性職員から話を聞く事になる。
「詳しく、且つ端的に申しますと、
四大国の一つベルリア王国から『ルシフェルス』のギルドに
冒険者派遣の依頼がありました。
内容としては怪物、或いは魔獣の調査と可能ならば討伐です」
怪物と魔獣は似て異なる存在だ。
それすら述べられないとは…、と考えていた所で続きが説明される。
「実は正体不明の存在でして、既にある村が襲われ、
家畜のみならず村人にも被害が出ているとの事です。
それも被害者は一人二人ではなく村人全体の2割にも達していると。
生き残った住民から話を聞こうにも、まったく要領を得ない様でして...」
住民の人数は分からないが、村の2割の人を殺すとはかなり狂暴な存在だという事だけは分かった。
「その存在を討伐しろと」
「はい。
男爵の手に余った場合は、
最悪でもその正体をギルドに報告して戴きたいのです。
そうすればこちらも改めて対策を考えられます」
そこで僕はクラーラさんに目配せすると、彼女も黙って頷いた。
「承知しました。
その依頼、確かにフィーナー=エルザードが受領しました」
こうして僕の貴族級冒険者としての初任務が決定した。
その後、報酬だけでなく詳しい場所や段取り、他にも細かい注意事項も説明された。
ギルドに対する依頼でも王侯貴族が絡んでくると、いろんな慣習や面子も絡んで手続きが煩雑になる。
貴族社会の面倒臭さは伯爵令嬢として養育されていたのでよ~く分かっている。
但し、報酬だけはかなり良かった。
僕とクラーラさんは色々と面倒な準備を終えると、依頼主の元へと向かった。




