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第二十二話 後始末と今後

「やっと帰って来た...」 


 第七階層から入って三階層に渡る地下ダンジョンの探索からやっと第三階層の街まで戻って来た。


 帰還アイテムや呪文がある訳ではないので、帰りの道も行きと同じ苦労は付き纏った。


 第五階層では魔獣の襲撃を何度も受けたし、地上に出た後は当たり前のように砂漠の昼の暑さと夜の冷え込みに苦しめられた。


 その上での帰還となれば、当然の様に僕やクラーラさんだけでなく師匠もかなり疲労しているのが見て取れる。


 ただこのまま宿屋に行っても良かったのだが、まだ日が暮れていない。おそらく正午位の時間だ。


「まあ、取り敢えずは…」


 空腹なのは間違いないのでしっかりと腹ごしらえをする。


 出立前に準備していた食料や水はまだ3分の1ほど残っている。


 調理器具等もあり、出先でも調理出来たからと言って、やはり街のちゃんとした店で食べる食事の方が遥かに美味しいのは間違いない。


 知らない人が見たら、食料が尽きて倒れる寸前だったのではと思われるほどの量を三人で食べたのだった。


 それが終わると今度はギルドへ向かった。


 要件は先ず第五階層を中心にして大量に入手した魔石の換金だ。


 ギルドの受付嬢も目を丸くするほど、否、金額は目が飛び出るほどになるかも知れない。


 魔石は魔獣の種類によって大きさや用途が違ってくる。


 僕達が第五階層で倒した魔獣は地上やこれまでの階層の魔獣より一ランク上の強さを持っていた。


 当然の様に魔石も大きく、上質になり、それは値段にも反映される。


 それと一部の少数ではあるが希少種の魔石もあり、それは更に高い値が付く。


 総額で幾らになるか、楽しみでもある。


 そんな事を考えていると、師匠がギルド職員に声を掛けられて少し離れて行った。


 貴族級冒険者の師匠にはなにか特別な話があるのかもしれない。


 魔石の換金の計算を待っている間に”功績”の報告をする。


 ”功績”は読んで字の如く、冒険者としての偉業ともいえるものである。


 これが大きくなると優秀な冒険者と認められ平民級冒険者から貴族級冒険者になる事が出来る。


 僕が報告する”功績”をギルドの受付の前に並べる。


 大量の魔石もそうだが、それよりもなによりも、最も大きな功績になるのがユニコーンの角。これを入手するのは貴族級冒険者の師匠でさえ成し得ていない大きな”功績”だ。


 続いて『ヒュドラ』の牙、毒、それに鱗付きの皮。


 これほどの大型の怪物の討伐と素材の回収も大きな”功績になる。


 最後にそれなりの量のミスリル。


 この辺りの階層では第四階層の『ミスリルタートル』からしか採取出来ない希少金属なのでこれも”功績”としては充分な価値がある。


 ユニコーンの角は兎も角、『ヒュドラ』の素材一式やミスリルは師匠とクラーラさんのおかげなのが大きいのだが

「フィーナもかなり成長してるから、

 そろそろ貴族級の冒険者になっておきなさい」

との師匠の言葉があったので全て僕の”功績”として報告された。


 これはクラーラさんも納得しているので問題は無いのだが、少し申し訳ない気持ちになった。


 ただこれだけあれば充分貴族級の冒険者に慣れるだろうとの師匠の言葉だった。


 因みに魔石以外はまだ売らない。


 これらはお金以上の価値を生む場合があるので、いざと云う時の取引に使う方が良いらしい。


 それに売ったら売ったで、どれだけの値が付くのか...。全部売ったら魔石の分も合わせると、このギルドのお金が枯渇するんじゃないか?


 そう思っているとギルドの受付嬢が

「こちらのユニコーンの角は詳しい鑑定をしたいので...」

と言って、ユニコーンの角が乗ったトレイを持ち上げた。


 そのまま奥に持って行こうと動いた瞬間

”ガシッ!

受付嬢の手が掴まれた。


 掴んだ主は師匠だった。


 職員との話が終わって戻ってきたようだが、その師匠の目は怒っている。


 それも並みの怒りではなく、怒り心頭といった目をしている。


「ひっ...」


 腕を掴まれた受付嬢は明らかに怯えている。こんな目で師匠に睨まれたら僕でも怯えてしまいそうだ。


「なにを持って行こうとしているの。

 鑑定ならここですればいいでしょ」


 静かだが怒気を含んだ重みのある声で告げると、受付嬢はトレイを置いて専門の鑑定士と変わり奥に引っ込んで行った。


 後に聞いた事だが、ユニコーンの角の様なかなり珍しく高価なものを持ち込むと鑑定をすると言って奥に持って行き偽物とすり替える事があるそうだ。


 だからこういった物の鑑定はすり替えが出来ない様にその場でするのが冒険者間の常識らしい。


 僕はまだ駆け出しに近いから、騙せると思ったのかもしれない。


 こういった行為を公的機関であるギルドでも平然と行われるのが怖い所だ。


 そんな心労が溜まるような事がありながらも大人しく待っていると、先程とは違う受付嬢がやって来た。


 そして

「”功績”の評価は受け付けました。

 叙爵は確実と思われますが、諸々の手続等がありますので

 また明日お越しいただけますか?

 その時に魔石の評価額をお支払いいたしますので」

先程の同僚の行為など知らぬとばかりの態度で僕達に告げた。


 余計に心労が溜りそうだったが、ただでさえ疲労困憊の僕達は大人しくその受付嬢の言葉に従った。




 翌朝、朝食の前にギルドへとやって来た。


 すると直ぐに魔石の代金が支払われた。


 その金額はかなりの額になり、3等分したとしても一年は余裕であそんでくらすことができる。


 辛い砂漠を旅して、大量の魔獣を倒した甲斐があった。


 でももう二度と行きたくない。それ程過酷な道中だった。


 そして僕の叙爵の件だが問題なく受け入れられた。


 これで僕も貴族級冒険者となり、転移門で登録してある階層なら自由に行き来が可能になった。


 まあ、面倒な義務も増えるのだが、それはそれ。




 ギルドでの要件を済ませてから朝食を摂りながら今後の事を相談する。


 その席で僕は2、3日の休養を提案した。


 砂漠や第五階層での魔獣との連戦を得て、見えない怪我や疲労の蓄積を考慮したからだ。


 それを説明すると、師匠はにっこりと微笑んで

「合格よ。

 休養の重要さは理解したみたいね」


 師匠に認められる、否、褒められるのは本当に嬉しい。


 その上でその休養中に一旦『ルシフェルス』に降りる事も提案する。


 目的は第四階層で手に入れたミスリルを加工して短剣にする為だ。


 ミスリルの加工は熟練の技術が必要なので当然鍛冶屋に依頼する事になる。


 ただこの第三階層にはそんな腕のいい鍛冶師は住んでいない。


 この『セレステ』、並びに『ルシフェルス』の特徴として、やはり腕のいい職人や研究者は『セレステ』内部ではなく『ルシフェルス』に居をおく傾向が強い。


 まあ、『ルシフェルス』が住居の根幹となっているから当然と言えば当然だ。


 態々『セレステ』内部の上の階層に引っ越す理由は職人や研究者には存在しない。


 だから『ルシフェルス』に降りて短剣を作って貰おうとの提案だった。


 無論、加工に掛かる費用は僕の取り分から出す事、ミスリルの分け前は師匠やクラーラさんにも渡す事を合わせて説明した。


 しかし

「そのミスリルの分け前は私は要らない。

 だってもうミスリルの剣は持ってるから」

「私もミスリルを貰っても使い道が無いですから。

 フィーナさんの役に立つならそれ以上は望みません」

と、二人が言ってくれたので今回は厚意に甘える事にした。




 話し合って決めたとおり、三人とも第一階層、そして『ルシフェルス』へ降りて来た。


 そして師匠に腕の良い職人を紹介してもらい、その人にミスリルで短剣を造って貰う事を依頼した。


 鍛冶師も貴重なミスリルを加工するとなって気合が入り、細かな打ち合わせがされた。


 特に刀身の長さや柄はその大きさで扱い易さが段違いになる。


 だから入念に打ち合わせを行った。


 なんとか頼み込んで二日後に完成する事になったので、冒険の再開は二日後に決まった直後、

「フィーナ、クラーラ、

 私は一旦、パーティーから離脱させて貰うわ」


 師匠の言葉にふざけてるとかの感じはまるでない。つまり師匠は本気でパーティーから離脱するつもりだ。


「なんでそんな急に...」


 確かに師匠にパーティーを組むように頼んだ時、暫くの間で構わないと言った覚えはある。


 しかしまさかこんな早く解散を申し出られるとは思ってもみなかった。


 しかしそれは半分僕の勘違いだった。


「え~と、勘違いさせちゃったかな?

 ごめん、説明が足りなかったわね。

 でも”一旦”離脱、ってちゃんと言ったわよね?

 また暫くしたら戻って来るつもりだから」


 師匠の話を詳しく聞くと、これは貴族級冒険者の義務を果たす為だった。


 この『ルシフェルス』には優秀な冒険者が一攫千金を狙って、又は冒険を探求する為に集まって来る。


 その所為で四大国は慢性的に優秀な冒険者が減ってしまうといった事態が起こっている。


 しかしどうしても冒険者が必要な場合、多くは王侯貴族が、『ルシフェルス』のギルドを通じて依頼をして来る事がままある。


 それは間違いなく難易度が高い上、王侯貴族からの依頼だから、冒険者の選定は慎重を期す必要がある。


 その為に制定されたのが貴族級冒険者と平民級冒険者の区分けにである。


 転移門での特権を餌に、優秀な冒険者を常に把握しておく事にした。


 これで冒険者の選定がかなりし易くなった。


 更に言うなら貴族級を爵位分けしているのは、その冒険者の技量をある程度計る目安としている。


 つまり例えば比較的簡単な依頼なら男爵級、超が付くほど困難ならば公爵級を派遣するといった具合だ。


 無論、冒険者側も依頼を拒否が出来るのだがあまりに拒否の回数が多くなると最悪爵位を取り上げられてしまう。


 そもそも王侯貴族の依頼は報酬が高いので断る冒険者は、余程の事情がある場合に限られている。


 おまけに思わぬ特典が転がり込む場合もある。


 依頼を受けた侯爵級女性冒険者が依頼をした貴族の嫡男と結婚して、侯爵級冒険者から侯爵夫人になった逸話があるくらいだ。


 つまりは、その四大国のいずれからの依頼が師匠に割り振られて、師匠は貴族級冒険者の責務で依頼を受ける為にパーティーを一時抜けると言ってるのだ。


 これでは引き止められない。


「二人がまだ放っておけない位の未熟者だったら断ったかもしれない。

 でも一人前とまではいかなくても、

 無茶をしなければ大丈夫な実力がある事は見せて貰ったわ。

 私もいつまで冒険者でいられるか分からないしね」


 認められた嬉しい言葉の後に事実ではあるが悲しい言葉が告げられる。


 少しだけしんみりしてしまったが

「まあ、まだ引退する訳でもなければ、

 今生の別れでもないから。

 私の依頼が終わったら、また三人で組みましょう」

師匠が無理やり話を明るい方に切り替えて納得した。




 さて師匠が一時的とはいえ離脱する事になったのでパーティーの資産を分配する必要があった。


 話し合いの結果、現在所持している現金の半分を師匠に渡す事になった。


 これは分け前が多すぎると思われるかもしれないが、代わりにユニコーンの角や『ヒュドラ』の素材一式、ミスリルなどはパーティーに残す事になった。


 そもそも『ルシフェルス』に来てからの滞在費は勿論、僕個人は防具も買って貰っている。


 更に師匠はこれから依頼者の領地まで移動しなければならないし、餞別的な意味もあって師匠に多めの現金を渡した。


 因みに残りの現金は残りの半分がパーティーの運営費、残りを僕とクラーラさんで等分する事になった。


 素材に関しては手放した時の条件によって考えるとした。


 細かい事だが、こういった事をなあなあで済ますとパーティー内での不和を起こして瓦解してしまう例が多々ある。


 これで師匠も一応は後顧の憂いなく旅立てることになった。


 師匠はその日の内に旅発つ事にした。この辺り、師匠は行動が早い。


「自惚れない事と無茶はしない事、これだけは絶対に守りなさい。

 じゃあ、元気で頑張って」

「はい、師匠の早い帰還を待っています」


 これで終われば良かったのだが

「戻ってきたら、

 またたっぷりと可愛がってあげる♡」

最後の最後で雰囲気をぶち壊すのは師匠らしかった。






 

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