第二十話 今後
目を覚ますと隣にはクラーラさんが眠っていた。
昨夜、就寝直前にクラーラさんが部屋を訪ねてきて、負傷個所の治療をして貰った。
それはとても有難いのだが、その際に傷を見せ、触れられ、そのままかなり弄ばれてしまった。
その事を思い出すと顔が熱くなるどころか、のたうち回りたくなる。
しかし師匠の前では平静を装わなければ...。
そんな微妙な空気の中、朝食を摂りながら今日の予定の打ち合わせをする。
「今日は先ず第七階層まで進みましょう。
それから道が二つに別れるわ」
「二つ、ですか?」
「ええ、一つは第七階層を無視して第八階層へ向かう道。
第七階層に着くと目と鼻の堰に第八階層への転移門があるから、
これが一番簡単ね」
第八階層に着いてからの事は後で説明するようなので、今は一旦置いておく。
「もう一つは察していると思うけど第七階層にある入口から
地下ダンジョンへ向かう道。
これは第六、第五、第四階層の地下三階まであるダンジョンよ」
今度は前回より大掛かりなダンジョンだ。
しかし今回は何故、第七階層を無視するような選択肢も提示するのだろう。
この塔は何らかの意思が介在しているとしか思えない仕組みをしている。
それならその地下三階まである地下ダンジョンに何も有用なものが無いとは思えない。
それなのに何故かと師匠に尋ねてみる。
「その疑問は尤もよ。
実際に有用な素材やアイテムは存在するわ。
ただ行くとなると準備をしっかりしておかないと危ないのよ」
そう前置きをした上で師匠が説明してくれた。
師匠の説明によると第七階層は砂漠の階層でオアシスも街もなく、水や食料の補給が不可能らしい。
つまりそれなりの量の物資を持って行かなければならないのだ。
『異空間収納袋』があるとはいえ、補給が不可能な以上、慎重で迅速な行動が求められるのは間違いない。
同時に砂漠というのは灼熱地帯というイメージがあるが、それは昼間だけで夜はかなり冷え込む。
その対策も必要だから、更に荷物は多くなる。
それなのに嫌がらせの如く、地下ダンジョンの入り口は絶対に一日では到達出来ない場所にある。
一直線に行けば精々10㎞程度なのだが、途中で巨大な擂鉢状の地面の窪みや岩山があり、迂回しなければならない。
つまり入口まで迷宮の様に複雑な経路を通って行かなければならない。
「その経路は案内に乗っているから迷う事は無いけど、
それでも炎天下の中、一日で行くのは無茶が過ぎるわね」
第七階層の地下ダンジョンを目指す道はハードルが高そうだ。
しかし報酬ではないが、地下ダンジョンで手に入る、正確には入るかも知れない希少な物は何かあるんだろうか?
「勿論あるわよ」
先ず第六階層には『千変万果』と呼ばれる不思議な木があるそうだ。
この木には魔法薬の様な効果をもたらす実が生るが、どんな効果を持っている実が生っているかはその時によって違う。
一般的な体力増強などもあれば、腕がゴムの様に伸縮したり、一時間以上無呼吸でいられるくらいの肺活量になる実が生っている時もある。
共通して言えるのは飲み薬と同じで、あくまで一時的なもので恒久的ではない事。
次の第五階層には特別な物はない。
しかし魔獣が大量に発生し続けているので、討伐すれば大量の魔石を得ることが出来る。
同時に運が良ければ(悪ければ)、『ヒュドラ』の様な怪物やユニコーンの様な幻獣に遭遇出来るかもしれない。
「まあ、第五階層でユニコーンを見たって報告はないけどね」
多分、別の幻獣が発見された事があるんだろう。それが捻じ曲がって噂になったのだろう。
最後の四階層は『ミスリルタートル』と呼ばれる巨大な存在がいるらしい。
これは『ミスリル』が名前についているが、それは”看板に偽りなし”なのだ。
と言っても甲羅がミスリルで出来ているとかではなく、何故か甲羅からミスリルが生えてくるのである。
金属が生えてくる生物などあり得ないのだが、実際にあるのだから仕方がない。
それなら倒して持ち変えればとんでもない財産になりそうだがこの『ミスリルタートル』は”死なない生物”と呼ばれて、どんな事をしても殺せないのだ。
自立稼働しているのだから生物にしか見えないのだが、何をどうやっても殺せない。
首を落としたり、呪文で焼き尽くす等が通用しないのだ。
だから『異空間収納袋』は生きている生物を収納できないので、生け捕りにして持ち変える事も出来ない。ただ甲羅に生えているミスリルをもぎ取って来るしかない。
「でも希少金属でもあるミスリルだからね。
取りに行く価値はあるかも知れないわ」
ミノタウロスの角から作った短剣はクラーラさんの協力で魔法剣にもなる。
僕の戦闘スタイルは双剣なので、魔法剣と対になる剣がミスリルの剣ならばかなり強力な組み合わせとなる。
ただそのミスリルを手に入れる為には危険を冒さなければならない。
「危険が伴う道でも、安全重視の道でも
私はフィーナさんの決断に従います」
クラーラさんがそう発言した。
そして師匠は相変わらず、こういった時は発言しない。
全ての決断を僕にさせるつもりだ。
パーティー内で意見が分かれないのは有難い。
そんな中、僕が選んだ決断は
「第七階層から、地下ダンジョンへ向かいましょう。
『千変万果』とミスリルを手に入れる為に」
危険はあるが見返りも大きい道を選んだ。
さて道は決まったがもう一つ確認するべき事があった。
「クラーラ、
あなた、どの位の魔法が使えるの?」
師匠からの言葉だったが、そういえば確認していなかった。
味方の戦力の把握はかなり重要な事なのに忘れていた。やっぱり疲れてたんだな。
その為、いきなり上級火炎魔法を使ったのには驚いて声も出なかった。
そもそも治癒魔法しか使えないと思って、それでも有用な存在だと思っていた。
しかし実際には火炎魔法も使えるのだから、戦力把握の為に師匠の言葉は当然だ。
「どの位、と言われると、表現に困るのですが、
一番得意なのは火系の魔法です」
クラーラさんのこの言葉に師匠が怪訝な顔をする。
「一番?
二番目が治癒魔法って事?」
「いえ、火系と治癒の他に水系と風系の魔法も使えます。
その中で治癒魔法が一番苦手です」
この言葉に師匠も言葉を失っていた。
魔法は使えない人の方が圧倒的に多いのだが、使えても一人一系統がせいぜいだ。
それをクラーラさんの様に三系統も使えるとなれば、逸材としか言いようがない。
因みに師匠は火系のみで、僕は魔法が使えない。
「水系の魔法ですと攻撃に使えるのは水そのものよりも凍結呪文です。
温度の変化を炎と逆にする、私にとっては得意な分野の魔法と、
それを魔法で作り出した水と併用して、敵を氷漬けにするんです。
あと飲料水としての水を大樽で五杯分出した事がありますが、
それ位なら余裕を持って出せます」
水があれば敵を氷漬けに出来る凍結呪文って簡単に出来るレベルじゃないよね。
しかもその水は自分で魔法を使って作れるって…、もう、水の問題は解決したに等しいんじゃないか?
「風系は範囲攻撃魔法で風で敵を切り裂くのですが、
並みの野生動物なら兎も角、金属級の固い物まで切り裂く事は無理です」
それでも充分なんだって!
そうなると何故ゴブリンに嬲られていたかが疑問になる。
それについてはクラーラさんは今まで全ての修練の時間を魔法に費やしてきたらしい。
だから体術に関しては一般人と大差がないとの事だった。
その所為で簡単に組み付かれ、その後は多くの魔法師がそうであるように、密着されてしまった場合の対処が出来なかったという事だ。
これで一応の疑問は解決した。
道も選び、疑問も解決した。
しかし出発は明日になるだろう。
何故ならこれから手分けして、必要な物資を揃えなければならないからだ。




