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第二話 第一の街

 この大陸には四つの大国といくつかの中小の国で統治されている。


 四つの大陸は表面上の友好を保ちながら、相互協力で緩やかな発展を続けている。


 その四つの大国の国境が交わる地点、即ちこの大陸の中心にとてつもなく巨大な塔が立っている。


 その塔が”神の創りし塔”と呼ばれる『セレステ』であり、その麓の街が『ルシフェルス』だ。


「もう、見えて来た...」


 屋敷から馬を一頭拝借して屋敷を出奔した僕は馬を潰さない様に適度な速度で、休憩をとりつつも一睡も取らずに夜通しで走り続けた。


 アルヴィース伯爵邸から出奔して、郊外に出てから程無くすると天気が良かったこともあり、『セレステ』が見えて来た。


 僕はそこで馬を降りた。


「ここなら帰巣本能で屋敷まで帰れるだろう。

 無理をさせて悪かったね」


 僕はそう言ってねぎらった後、馬を開放した。


「さて、まだ『セレステ』は遠いんだろうな」


 そう、僕が馬を降りたのはここから『セレステ』が近いからでは決してない。これ以上いくと、馬が距離的に帰巣本能だけでは屋敷に帰れなくなる可能性があるからだ。

 

 馬はあくまでも(黙って)拝借したのだから、アルヴィース家に返すのが筋と云うものだ。


 ただ繰り返すがここから『セレステは決して近くない。 


 確かに『セレステ』はここから目で見る事が出来る。


 それは単純に『セレステ』が巨大過ぎるからである。


 何しろ、頂上は雲よりも高いと言われていて、全高は誰も知らない。


 しかも幅も10Km以上に及び、魔法が存在するこの世界でも人間が建造する事は不可能だ。


 太古に想像が及ばない程発展したロストテクノロジーが存在したか、そうでなければ人間を超越したなにかが作ったとしか思えない、それが”神の創りし塔”『セレステ』である。


『セレステ』は巨大なだけではなく、内部で様々な財物を採取する事が出来るので古くから冒険者と呼ばれる人たちが集まった。その冒険者達と商売人達によって次第に『セレステ』の麓に街が形成された、という歴史を持っている。


 僕が行くのはその『セレステ』の麓の街『ルシフェルス』で、そこで当然の様に冒険者になるつもりだ。


 この方針を固めてから、かなりの研鑽を重ねて来た。


 先ずは生き抜くのみならず、狩りも出来る実力を身に着ける為に剣術を習った。


 それも”野良犬剣術”と揶揄される優美さとはかけ離れた剣術だ。


 淑やかさが求められる貴族令嬢に必要は無いと両親は渋い顔をしていたが、

「もし戦が起きた時は妻も常在戦場の覚悟を持つべきです」

と屁理屈で押し切った。


「もし許されなかったらこっそりと鍛錬しただろうな。

 だって他に道が無いし、転生してから僕の体を考えれば最善の選択だと思う」


 女性だった事以外にも僕の体には軽い変化が備わっていた。




「夜か...」


 出奔した夜は馬を走らせ続け、昼間は休憩を挟みつつ歩き続けた。


 そして夜の帳が降り始めた。


『ルシフェルス』はアルヴィース伯爵邸のある領内最大の都市『アルフェリス』からかなり離れており、1、2日で到着するような距離ではない。


 そして僕が屋敷から出奔する時に持ち出した荷物は短剣を三振りと脛当て、服の予備、それに換金出来る僕個人所有の貴金属とお金が少々。その他には数日持つか持たないかの携帯食料位のものだった。やはり秘密裏に準備を進めようとすると家人の目もあるのでこの程度が限界だった。


 装備に防具が殆ど無いのは武器としてどうしても短剣が三振必要で、それだけで僕が自由に使えるお金が殆どなくなってしまったからだ。一応、質は大した事がなく安い脛当てだけは購入出来たのだが、本当は手甲や足甲、それに胸当ても欲しかった。


 貴金属はいずれ換金する為に持ち出したが、領内で換金すると出奔計画がバレる可能性があるので事前にする事は出来なかった。同時に足取りを辿られない用心の為にまだ領内にいる現時点でも換金できない。


 防具が無いのは少々心許ないが、無い袖は振れないので、負傷しないように気を付けるしかない。


 そんな僕がこのまま直接『ルシフェルス』に到着できるかと云えば先ず無理である。


 水は街道沿いに川が流れているので問題ないが、数日以内に食料が避けるのは避けられない。


 ではどうするか。


 答えは簡単で、道中で立ち寄る街で補充すればよい。


 そもそも僕が結婚を避ける為、『ルシフェルス』を目指さなければならない理由は僕が伯爵令嬢である事が大きく関わっている。


 市井の民ならいざ知らず、伯爵令嬢の僕が出奔しても国内にいれば正体がバレた途端、実家に連れ戻されてしまう。


 他国でも、その国から見て友好国の貴族の娘という事が自国で見つかれば即座に身柄を抑えられ、親元に引き渡されるのは必至だ。


 しかし『ルシフェルス』は『セレステ』での探索を目当てに集まった冒険者達のいわば自治区で、四大国の干渉を受け付けない。


 つまり僕の身分がバレた所で誰も興味を示さないので、身を立てるにはうってつけだ(勿論、なんらかの才覚は必須だが)。


 つまり腰を据えて生活をするには『ルシフェルス』しか無い訳だ。


 しかし一気に『ルシフェルス』に移動するのは、前述したとおり距離的に困難を極める。


 ただ『ルシフェルス』はその都市の性質上、他国との交易も盛んなので各国国境近くの街とは行き来絶えない。


 僕の計画は途中の街で腰を据える事は出来ないが、冒険者として小銭を稼ぎまがら街を渡り歩いて『ルシフェルス』へと向かうつもりだった。


 そんな計算を再認識しながら、夜の間は体を休めるのだった。


 


 翌日、アルヴィース伯爵邸のある『アルフェリス』から『ルシフェルス』に向かう場合には最初に到着する街『ローデン』に到着した。


 『アルフェリス』もだが『ローデン』も活気に満ちた良い街だ。因みにこの『ローデン』もまだアルヴィース伯爵領だったりする。


 活気のある街に入り、当然の様にギルドへ向かう。


 冒険者登録をして、クエストを受注する為である。


 最低限のはったりとして肩甲骨辺りまで伸ばしたプラチナブロンドの髪を後ろで結び、短剣を腰に装備する。


 ドアを開けて入った途端、無遠慮な、品定めするような、同時に情欲の混じった視線を向けられる。


「ひゅ~う♪」


 あからさまに口笛を鳴らしている輩までいる。


 ギルドにやってくるのは武骨な男の冒険者が圧倒的に多いので、僕のような娘は珍しい。


 しかも自分でいうのもなんだが僕は結構美人で、貴族令嬢として厳しく躾けられてので気品もあると自覚している。


 そうなると当然、

「おい、姉ちゃん、ここはアンタみたいな別嬪さんが来るところじゃねえぞ」

下卑た笑顔を貼り付けた男が話しかけて来た。


 僕はその男を無視して受付の方へと足を向けるが、その行く手を遮るかのように別の男二人が正面へとやって僕の進路を塞ぐ。


 どうもこの三人はパーティーを組んでいる様だ。


(面倒臭いな!)


 そう思いながらも、先に手は出せない。あくまで先に、である


「おいおい、無視かよ。

 そんな小娘には礼儀を教えていやらないとな」


 回りの冒険者と思われる男達もニヤニヤと面白そうに見ている。


 男が僕の肩に手を置こうとした瞬間、僕はその手を躱す。


 少しだけ驚いた表情をした男だったが

「大人しくしてれば、痛い目どころか、いい思いをさせてやるぜ」

と言いながら、再び僕の肩に手を伸ばすがそれも躱す。


 すると馬鹿にされたと思ったのか、男たちは三人とも僕へと襲いかかって来た。


 男性冒険者と比べれば明らかに小柄な僕は捕まえられれば終わりだ。


 しかし捕まえようとする男達を僕は軽快に躱していく。


 捕まる訳がない。


 僕がこの世界に転生して成長していく内に気付いた事だが、身体能力が前世に比べてかなり上昇している。


 それも単純な膂力などではなく、身軽さに特化している。


 これは体操選手だった前世が影響しているのかもしれない。


 無論、いきなりではなく同年代の子供としては優れている程度ではあったが、それを元に鍛錬を続け、鍛錬で上がった体力を更に厳しい鍛錬に注ぎ込む。そんな好循環で育った僕の身軽さ、軽快さをもってすればこの程度の事は容易かった。


「どうした、どうした~」


 回りが囃し立てて騒ぎが大きくなる。


 しかしギルドの職員は普通の女性なので冒険者の騒動を止められずオロオロするばかり。


 もうこのままでは収集が付きそうになかった。


 そこで僕は躱すのではなく、反撃に移った。


 いきなり一人に向き直り、正対した状態から飛びつく様に跳躍して相手の頭を僕の太腿で挟んでやる。


 体勢としては向き合って肩車をしているような状態になった。


 そして即座に相手の頭を挟んだまま後方へと回転する。所謂、プロレスの『フランケンシュタイナー』と呼ばれる技だ。


 ”ガツッ!”


 鈍い音を立てて相手の頭が床に叩きつけられる。


 実戦的ではないと思われる技だが、技を知らない相手にはかなり有効だった。


 しかもプロレスの様なマットの上ならいざ知らず、硬い床に頭を叩きつけれれては堪ったものではないだろう。


(それでも一瞬でも、女性の太腿に頭を挟まれた天国の感触を味わえただろ♪)


 先に剣を抜く訳にも、ましてや殺す訳にもいかないので、初見殺しの技で叩きのめすのが最適解だ。


 頭を押さえてのたうち回る男を他所に、僕は二人目を仕留めるべく、呆気にとられて立ち尽くしている男に『ローリングソバット』を叩き込んだ。


 尤も、通常のそれとは違い自分の脛の横側で相手の後頭部を蹴りつけてやった。


 こちらも見栄え重視な技の感はあるが、やはり初見では対処し辛い。


 勿論、通常なら僕の一撃で仕留められる程の威力は無い。しかし今の僕は一応とはいえ脛当てをしている。


 そんな脛当てを叩きつける様に放った蹴りは威力が違う。


 くらった相手は一撃で悶絶している。


 二人を叩きのめしたが、僕に絡んできた男はもう一人残っている。


「このアマっ、ふざけやがってー!」


 やや後ろから、剣を抜いて斬りかかって来た。


 僕はその横薙ぎの斬撃を高い後方宙返りで躱し、男の背後に着地すると同時に腰に装備していた短剣を抜いた。


 抜いた短剣の刃を相手の男の首に当てて

「動くな。

 これ以上、やるというならこのまま首を落とすぞ」


 静かにはっきりと告げた僕の言葉に男は動けなくなる。


「わ、分かった、俺が悪かった、

 だから…」


 許しくれと言わないのは、最後のプライドなのだろうか。


 僕も剣を治めて、改めてギルドの受付で冒険者登録を済ませた。








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