第十八話 合流
師匠が合流し、双方の情報交換と云うか、行動の報告を行った。
先ず師匠の方から、僕への贈り物があった。
それは防具の胸当て。
「希少金属とまではいかないけど、それなりの素材を使ってるから馬鹿には出来ないわよ。
これ以上を求めるのはもっと稼いでからね」
いや、これでも充分有難い。
やはり戦闘で一撃必殺の心臓が開いているのは心許ない、というよりも、服が破れた時恥ずかしいし、そうでなくても激しい動きで胸が弾むのを凝視されたらかなり恥ずかしい。
精神は男なのに恥ずかしいのかと言われそうだが、情欲の目で見られ続けていられると考えたら恥ずかしくない筈が無い。男がパーティーメンバーにいなくても、あの二人がいるんだよね…。
だから師匠が胸当てを買ってくれたのは素直に嬉しい。
しかし師匠は胸当てにこだわりがあってちゃんと採寸しないと認めないとかいってたけど…。
(ニヤリ)
僕が疑問に思って師匠を窺った時の不敵な笑みで全て悟った。
師匠は僕の胸の細かなサイズを知っていたんだ。
目視か直接触ってか、方法は分からないが、僕の胸の大きさ、特徴の詳細な情報を持っていたのだ。
そして共に『セレステ』に入るより前に『ルシフェルス』で注文していたのだ。抜け目の無い師匠ならそこまでする。
ともあれ、僕の防御力が少しだけ上がった。
それと師匠の買い物はもう一つ、『異空間収納袋』があった。
これはかなり量に制限があるとはいえ、多くの荷物を異空間に収納できるマジックアイテムだ。
師匠が購入した物は一般的な六畳の部屋位の容量らしいが、それでも高価で注文しても順番待ちとの事だった。だから師匠が注文したのは約半年前でやっと完成したらしい。
「これで水や食料、狩りで得たアイテムや野生動物の運搬が楽になるわ」
前世でのファンタジー作品では同じみの品だが、この世界では希少な素材をふんだんに使い、熟練の職人が丁寧に作る為、いつでも入手が難しいとの事だ。
必然的に高値になるのだが、それでも必要とする冒険者は絶えない。だから中々手に入らない。
「フィーナ、それは貴方が持ってなさい」
「え、でもこんな貴重な物...」
「私は持ってるから」
そう言って懐から同じ『異空間収納袋』を取り出した。
確かに貴族級冒険者の師匠なら持ってて当然かも知れないが、こんな貴重な物を簡単に渡すなんて…。
「貴方に必要になるかも知れないから注文してたのよ。
だからフィーナに渡すのは当然でしょ」
流石師匠。気前がいい。
「あとはフィーナに頼まれていたこれも渡しておくわ」
師匠がそう言って僕に渡したのは短剣。
それも普通の素材で作った短剣ではなく、ミノタウロスの角を素材にした短剣だ。
僕が師匠にミノタウロスの角を渡したのは、それを武器に加工して貰う為だ。
ミノタウロスの角は普通の鉄よりも固く、それでいて弾力がある。
それを師匠がおそらく無理を言って、特急で鍛冶に加工して貰ったのだろう。
そのミノタウロスの角で作った短剣は間違いなく、これからの冒険で役に立つだろう。
防御力と共に僕の攻撃力も確実に上がった。
師匠の報告が終わると、次は僕達の報告だ。
「休養はちゃんとしたんでしょうね?」
出鼻に師匠から確認された。やはり無理してないのか心配だったらしい。
「はい、昨日はしっかりと休めたので、
心身ともに回復しました」
総報告すると、師匠の表情が曇る。
「昨日は?
じゃあ、一昨日はどうだったの?」
当然の質問だった。
そこで正直に
「ユニコーンの角を取りました」
「え?
もう一回言ってくれる?」
「ユニコーンの角を取りました」
「まじで?」
師匠からしても僕達がユニコーンの角を取った事は信じられない様だ。
それ程ユニコーンの角は入手難度が高い。
僕は証明する為に懐からユニコーンの角を取り出した。
「これです」
「・・・、
フィーナの胸の谷間からユニコーンの角が出て来たことに驚いたわ」
「驚くところが違います!」
ユニコーンの角はとんでもなく貴重なので持ち歩いてる所を見られたらとても危ない。
人目に付かず、紛失を避ける警護の厳重な場所にと考えたら懐に入れるしかなかった。
服の内側を少しだけ細工して、ユニコーンの角が入るようにしていただけで、別に胸の谷間に挟み込んで所持していた訳ではないんだけどね。
師匠は手に取ってユニコーンの角を見ると、
「間違いなさそうね。
どうやってこんな貴重な物を...」
師匠にとってもかなりの衝撃だったようだ。
だから僕がユニコーンの角を入手した方法を説明すると
「清らかな処女、か...。
私じゃ無理だったわね」
自虐的に師匠が呟くが、師匠って処女なのかな?
「さて、これからの予定だけど」
互いの報告が終わると、今度はこれからの予定を話し合う。
「先ず転移門で七階層に向かって…、何?」
外がかなり騒がしい。
喧騒とかそんな生易しい騒がしさではなく、怒声、悲鳴、鳴き声、断末魔が非常事態を告げる警告音の様に響き渡っている。
宿屋から急いで外に出ると、その騒ぎは西の方から起きているらしい。
直ぐに西に向かい、門の上から外を見ると、野生動物や魔獣の群れがこの街に向かって来ている。
「これは…」
「まさか大氾濫?」
大氾濫とは魔獣が何らかの理由で大量発生して街に向かう現象である。
大規模な大氾濫であれば大きな街ですら壊滅的な被害を出す場合もある。
しかし師匠の見解は違った。
「違うわ。
大氾濫なら野生動物は混じらない筈だし、
それにあの程度ではすまないから」
確かにあの群れには魔獣だけでなく、野生動物も混じっている。
「おそらくあれは、何かに怯え、逃げ惑っているのよ。
フィーナ、クラーラ、行くわよ」
「はい!」
「行くってどこにですか?」
「あの群れは多く見積もっても100。
それに厄介な魔獣は見受けられない。
それなら街の冒険者に任せても問題ないわ。
私達はその元凶を叩くわよ!」
師匠の決断は素早かった。
僕達は押し寄せてくる群れを迂回して、その後方へと向かった。
群れの最後方にも元凶らしき大物は見受けられなかった為、元凶はもっと後ろにいるのだろう。
押し寄せてくる群れをやり過ごしてから、更に後方へと向かうと、第二陣とも言うべき群れが現れた。
その中にはミノタウロスも何体かおり、
「ちょっときついですかね」
「でも今更逃げられないわよ」
僕と師匠は迎撃の構えを見せる。
「クラーラ、貴方は後方に...え?」
師匠がクラーラさんへ指示を出そうとするとある事に気付いた。
「『慈悲深き炎の聖霊よ』」
クラーラさんが何かを口ずさみ始める。
「『その慈悲を以て大いなる力を顕現させよ』」
これは詠唱?
「『我が前に現れし、穢れた全ての存在を焼きす為に』」
魔法が使えない僕にも、クラーラさんに大量の魔力が集まっているのが分かる。
「『浄化の炎を天空より降り注ぎさせ給え』」
呪文が発動する。
「『浄化の炎雨』」
次の瞬間、敵の上空から小さな、そして無数の炎が降り注ぎ始める。
それは正しく炎の雨であり、魔獣達は瞬く間に炎に貫かれ、焼かれて数を減らしていく。
「凄い…」
「まさかクラーラが上級魔術師だとは…、
ってクラーラ!?」
クラーラさんの魔法に驚いていたが、彼女は胸を押さえて地面に膝を突いていた。
「すいません、これが限界です」
「やはり体への負担が大きかったのね。
充分よ。
後は任せなさい」
師匠がそう言って群れの方を見ると、かなりの数が呪文の餌食となり、残っているものも辛うじて生きている程度だった。
これなら僕と師匠で殲滅するのは容易かった。
しかしこれで終わりではない。
「この暴走の元凶、それはあれね」
殲滅した群れの後方から巨大な怪物が現れた。
それは全長5mはあろうかという『ヒュドラ』だった。




