第十七話 愛して下さい
夕食後はまた僕のマッピングの勉強となった。
色ボケ気味のクラーラさんだが、ONとOFFの切り替えがしっかりしてるのか、教えてくれる事は的確だった。
勉強も終わり、就寝になるのだがクラーラさんは僕を部屋に帰そうとしない。
無理やり引き離す事も可能かもしれないが、こういう強烈な依存状態の人を独りにするとそれはそれで危ないかもしれない。
本人が納得して徐々に離れてくれるのが最善だと信じて、今日も一緒の寝台に入るのだった。
ただ昨日よりも密着の度合いが強い。
完全に僕の腕にしがみ付いて胸を押し付け、足も絡ませる直前までしている。
顔も寝息が聞こえるどころか、息が微かにかかる程接近させている。
これほど接近し続けられると、お風呂上がりのクラーラさんの女性特有の甘い香りがするような気がしてしまう。
ただ忘れてはならないのはクラーラさんは大変魅力的な大人の女性だという事。
彼女は知らないとはいえ、精神が男の僕は煩悩を鎮めるのに大変で中々寝付けなかった。
翌日の昼間は二人で街を散策した。
久しぶりにリラックスした日常を味わう事が出来た。
冒険者としての生活は苦痛ではなく、寧ろ楽しいと言って障りはない。
しかし心底リラックス出来るかと言われると、疑問符が付く。
やはり適度以上の緊張はしなければならない。
そう云った観点からすると、精神的、肉体的な休養は必要だし、付き合ってくれたクラーラさんには感謝している。
しているのだけど、終始僕に対する言動がまるで恋人に対しているかのようで...。
そして今日も夕食やマッピングの勉強を終えると、部屋に戻るのをまた引き止められる。
無理やり引き剥がす事も出来ずに、クラーラさんと一緒にお風呂に入った。
クラーラさんに全裸を鑑賞されるのは心底恥ずかしかったが、その後二人で一緒に布団に入った。
ただ傍に寝ているクラーラさんはまたもや僕にしっかりと密着している。
昨夜と違うのは今夜は僕も彼女も全裸だという事だ。
即ち、彼女の体の感触や体温までも僕は感じ取ってしまう。
視線を横に移すとクラーラさんは安らかな寝息を立てている。
そんな無防備な状態を見せられると、精神が男の僕はどうしても我慢がならない。
引き寄せられるようにクラーラさんの胸に手を伸ばしてしまう。
そして僕の手がクラーラさんの胸を掴んだ瞬間、逆に僕の手首が彼女に掴まれた。
「やっと手を出してくれましたね♡」
その後、どうなったのかは説明の必要はないだろう。
「・・・、あ、クラーラさんが隣に...。
このまま温かくて気持ちいいから、抱き締めなおして...」
半分寝惚けていた頭でそんな行動をとってしまった。
「何してるのよ、あんたらは!」
静かだが怒気を含んだ声を聞き、一瞬で完全に目が覚めた。
「し、師匠?!」
「本当に私がいない間に何をしてるんだか、って
ナニをしていたのは分かるんだけどね」
怒りを通り越して呆れているといった様子の師匠の言葉に反論が出来ない。
掛け布団はクラーラさんがが掛けてくれたようだから、決定的な証拠はまだ見られてないかも知れない。
しかしクラーラさんと添い寝して、寝惚けて抱き締めたのはばっちり見られてるからな~。
これで言い逃れをするのは難易度が高すぎる。
そんな中、目を覚ましたクラーラさんが起き上がる。
これで掛け布団が捲れ、言い逃れ不能になる証拠が師匠に晒された。
何しろ僕とクラーラさんはお互いに全裸で寝ていたのだ。
掛け布団をしてくれたクラーラさんも流石に服までは…。
「いえ、違うんです、これは、その...」
「なに、その浮気がバレた夫みたいな態度は。
まさか心配で急いで帰って見たら、
愛しの弟子は他の女に寝取られてしまっていたなんて」
師匠の言葉が恐怖感を煽る。
師匠はあくまで師匠であり、僕の恋愛に口を出す権利はない(クラーラさんとの関係が恋愛だと云うわけではない)。
しかし師匠は間違いなく僕を恋愛、というか性愛の対象として囲っておきたいと思っているのは過去の言動から明らかだ。
「違うんです、アリシアさん!
私とフィーナさんは本当に愛しあって…」
更に事態を悪化させそうな言葉をクラーラさんが吐きそうになったので、慌てて口を塞いだ。
本当に浮気がバレた夫と愛人の構図になってしまっている。
「ふふふ、まあ、冷静に話し合いましょう。
れ・い・せ・いにね」
一番冷静さを欠いているのは多分師匠だろうな...。自分に言い聞かせてるのかな。
「ふ~ん、一番重要な点だけを抽出すると、
クラーラをパーティーメンバーにしたいと、
それで間違いない?」
「はい、そうです!」
師匠に何とか昨夜までの事を説明したのだが、これが物凄く苦労した。
浮気じゃない(よね?)という事を交えながら、クラーラさんのトラウマを刺激しない配慮をしながら、更に倫理観を守った言葉のみで説明する。
そんな分かりずらい説明を師匠は僕の意図も、苦悩も理解してくれた上で纏めてくれた。
流石、長年の師弟関係は伊達じゃない。
そこでクラーラさんが
「そうです。
私とフィーナさんはもう身も心も結ばれて...」
またもや話を拗らせかねない事を言いだそうとする。
再び口を塞いで黙らせたのだが、この人、態とやってないよね?
師匠は少し考えてから、クラーラさんをだけを手招きする。
そして彼女と肩を組むようにして顔を近づけ、僕に背を向けて小声で話しかけている。
(ねえ、クラーラ、分かってる?)
(はい、アリシアさんとの事は心得ておりますし、
弁えますので何卒)
どんな話をしたのか僕には聞こえない。
ただ師匠の口から伝えられた結果は
「分かった、クラーラをパーティーメンバーに加える事を承知するわ。
治癒魔法の使い手がいるのは、間違いなく有用だからね」
僕達の要望通りに、クラーラさんがパーティーメンバーに加わった。




