第十五話 二人きり
地下ダンジョンから外へと出た僕達が向かうのはこの第三階層にある街だ。
この『セレステ』の内部には多くの階層に街が造られている。
これは冒険者の野営を減らして体力の消耗を減らす事と、補給をしやすくする為に造られた。
とも言われているがその実、その商売を当て込んだ商人たちが『セレステ』内部に進出したと云った方が正しいのかもしれない。
ともあれ、夜になるまでにはまだ時間があるので、野営ではなく街まで行って宿泊をするのは当然であった。
第三階層の密林を只管南へ向かうと、平原に出た。
但し、密林に比べると狭いらしいが、それでも十分な広さだ。
その比較的狭い平原に街を造ったと。
「さあ、ここまでくればもう少しよ」
詳しい位置を知っている師匠がいてくれるのは本当に心強い。
その師匠の先導で第三階層の街へとやって来た。
街に入る頃には日が傾く位の時間だった。
そのくらいの時間となれば当然空腹を感じていたので、そのまま食事に向かった。
「あの、私、御馳走になっても宜しいのでしょうか?」
クラーラさんは一緒の卓に付きながら遠慮と云うか恐縮しきりの様子だ。
元々クラーラさんはこの街に着いた直後、僕達と別れようとしていた。
しかし
「ちょっと待って。
そんなさっさと行こうとしないで。
食事位奢るわよ」
師匠が何やら企んでいる顔でクラーラさんを引き留めて今に至る。
その師匠はクラーラさんの疑問に、
「ええ、言った通りここは私の奢り。
フィーナもね♪」
僕も遠慮せずに食べている。
今日に限れば遠慮はいらないだろう。
昨夜、あれだけ体をいい様にされたのだ。これくらい奢って貰ってもばちは当たらないと思う。
クラーラさんも空腹に負けて食事を摂り、簡単な情報交換をしながら時は過ぎて行った。
「ところでフィーナ。
明日から3日程、この街に滞在するわよ」
「なにかあるんですか?」
僕が尋ねると、師匠は溜息をついた。
「休養よ、休養。
『アレフ』を脱出してから今日まで、
ゆっくり休む暇が無かったでしょ。
冒険者たるもの、休める時に休んで、
なるべく体調を最良に近づけておくものなのよ」
そういえば『アレフ』を脱出してから、”影”を警戒しながらの野営の連続で、昨夜やっと寝台で寝たのだった。おまけに師匠に体を弄ばれて...。
だから疲れが溜まっているだろうと、それ位自分の体をちゃんと管理しろと師匠は言っているのだ。
「ちなみに私は一旦、『ルシフェルス』に戻るわ。
簡単な買い物と、前回来た時に頼んでいた物が、
そろそろ完成しているから、取りに行ってくる」
師匠は要するに買い物か。
僕はその間、一人でなにをしていよう?
「それでクラーラ。
貴方はその間、フィーナの相手になってやって」
「「え?」」
師匠の言葉に僕とクラーラさんが同時に疑問の声を上げた。
「師匠、迷惑ですよ」
僕としてはクラーラさんがいてくれたら、迷惑どころか有難い限りだ。
やはり相手がいるかいないかで、大きく休養の度合いが違ってくる。
しかしクラーラさんにも予定というか、考えがあるだろうから迷惑はかけられない。
しかし
「いえ、私は迷惑なんかじゃありません。
まだ今後の身の振り方も決まっていませんし」
はっきりとクラーラさんが僕の言葉を否定した。
「決まりね。
その宿屋の宿泊料は二人分とも支払っておくから。
じゃあ、私は先に行ってるわ」
そう言って師匠は席を立った。
因みに師匠が行くといったのは宿屋ではなく、『ルシフェルス』にである。
明朝でなく、今『ルシフェルス』に行くのだ。
『セレステ』内部に造られた全ての街には『宝珠』と呼ばれる大きな玉が置かれている宿屋が必ずある。
この『宝珠』の力で第一階層の転移門に転移することが出来るのだ。
そして第一階層の転移門からこの『宝珠』へ転移する事も出来る。
しかもどの階層の『宝珠』へ転移するかも選択可能だったりする。
予め『宝珠』へ本人の直接登録が必要だが、登録は『宝珠』に触れるだけの簡単なものだ。
だから一度言った階層なら、問題なく瞬時に行き来する事が可能になる。
問題なのはこの『宝珠』は街の老舗の宿屋が管理しているのだが、使用出来るのは貴族級冒険者のみ、となっている。
師匠は子爵級の冒険者なので使用が可能だから、食事の後『ルシフェルス』に転移して、向こうの宿屋に宿泊するのだろう。
「師匠、それならこれをお願いします」
僕はそう言って師匠にミノタウロスの角を渡した。
「いいの?
記念に取っておくのも悪い事じゃないわよ」
師匠の僕の意図を察した言葉に、黙って頷いた。
そして師匠は『ルシフェルス』へ向かい、僕とクラーラさんが取り残された。
「あ、あの…」
クラーラさんが師匠が強引に決めた事に戸惑っている様だが、僕からすれば師匠が強引なのはいつもの事だ。
「クラーラさん、行きましょう。
この機会にマッピングの技術をもっと教えて下さい」
そう言ってクラーラさんを半ば強引に引っ張って宿屋へと向かった。
その日、夜までクラーラさんに教わったおかげでマッピング技術の勉強はかなり進んだ。
「じゃあ、今日はここまでにしましょう」
「はい、ありがとうございました」
クラーラさんが泊まる予定の部屋で勉強していたので、僕は自分が泊まる部屋に戻ろうとした。
しかし
「ま、待って、待ってください...」
クラーラさんが僕を呼び止めた。
「はい、何か?」
普通に尋ねたのだが、クラーラさんは答えない。俯いて辛そうな顔をしているだけだ。
こんな表情をしている女性を放って置けないが、きつく追及も出来ない。
クラーラさんから話してくれるのが一番なのだが、どうすれば…。
「クラーラさん、お風呂に入ったらどうです?」
お風呂はリラックス効果があるとか聞いた事がある。
それならクラーラさんも落ち着きを取り戻すのに良いのではないかと思って提案すると
「はい...」
思いのほか、クラーラさんはあっさりと了承した。
僕はまだ部屋に帰る訳にはいかず、クラーラさんがお風呂からあがって来るのを寝台に座って待っていた。
「お待たせしました…」
「え…?」
お風呂から上がって来たクラーラさんの姿に驚いた。
彼女は服を着ずに、裸に大きめのタオルを巻いただけの姿だったのだ。
僕より少しだけ年上の女性がそんな煽情的な姿で、目の前に佇んでいる。
これが一人だけ宿泊するのなら分からないではない。
裸の方が落ち着く裸族と呼ばれる人がいるとか、前世で聞いた覚えがある。
しかし今回は僕がいる。
クラーラさんの考えがまるで分からない。
そんな僕を更に狼狽させるかのように、クラーラさんは体に巻き付けていたタオルを一気に外した。
「・・・」
驚いた。言葉が出ない。
それほど月明りに照らされたクラーラさんの全裸は美しく、そして溢れんばかりの色気を放っていた。
まさかこんな素晴らしい体をしているとは想像もしなかった。
クラーラさんのまるで芸術作品の様な全裸姿から僕は目が離せなくなっていた。
二人とも声を発しない状態が数分間続いただろうか、均衡を破ったのはクラーラさんの方からだった。
「フィーナさん、
私の裸、如何です?」
「・・・、すご...」
「汚いですよね、気持ち悪いですよね、
存在自体が汚らわしいですよね…」
クラーラさんは僕が賛辞の言葉を吐きかけると、その言葉を途中で遮って自虐的な言葉を紡ぐ。
それも目から涙をボロボロと流しながら。
「なにを言って...」
「だって私はゴブリンに襲われたんですよ。
妊娠こそさせられませんでしたが、全身を撫でられ、
舐め回されて...、そんな穢された女なんです!」
なおもクラーラさんは自分を卑下する言葉を吐き続けている。
そこで僕も自分の考えの浅はかさを思い知った。
ゴブリンに襲われて平気な女性がいる訳がない。
あんな醜悪な化け物に集団で襲われて、責められたら穢されたと思ってもおかしくはない。
しかもクラーラさんはパーティーメンバーを目の前で殺されているのだ。
悲しみと絶望は察して余りある。
僕は嫌悪感と怒りを爆発させて、ある種の発散をしたから大丈夫だけどクラーラさんはそうではない。
内に溜まってしまったんだ。
そんな大きなトラウマを負った女性の慰め方なんて…。
僕は泣きながら膝を突いて俯いているクラーラさんの顎を摘まんで顔を上げさせると
「んっ...」
有無を言わさずに唇を合わせた。
僕の予想外の行動にクラーラさんも驚き過ぎて動きが固まっているようだった。
しかし僕は構わずに彼女の唇を貪るようにキスを続ける。
今回に限っては精神が男だったのが幸いした。綺麗な女性とキスする事に嫌悪感がまるで湧かないからね。
そうしているとクラーラさんも正気を取り戻したのか、抵抗しようとする。
しかし僕は両手でクラーラさんの顔を挟み込んで動きを封じると、師匠が僕にするキスの様に攻めに回った。
師匠とキスする時は僕は何時も受け身だ。しかし受けたからこそ攻めも知っている。
拙い僕の攻めのキスだったがクラーラさんには効果が絶大だったらしく、大人しく受け入れ、いつしか僕の首に手を回して濃厚なキスを交わした。
「ふぁ...」
僕が唇を放すとクラーラさんは気の抜けた様な声を漏らした。
呆けてしまって、目の焦点が合っていない様な気がする。
そして僕は
「クラーラさんは穢れてなんかいません。
私が見惚れてしまう程、美しくて色っぽいです。
女性として羨ましいくらいですから」
そう告げた。
その後直ぐ、僕はお風呂に入った。
クラーラさんは自分を全否定するほどネガティブを通り越して自暴自棄になっていた。
だから僕が受け入れる、肯定してあげる事で最低限の自信を取り戻して欲しかった。
そして僕の行為と言葉を咀嚼させる為に一人にさせた。
心理学者でもない僕のこの行動が正しかったのかどうかは分からない。
でもクラーラさんには立ち直って欲しい。
僕の行為と言葉が立ち直る一助になれば...。
そう考えてお風呂の中で待ち続ける。
一時間もしただろうか、
「失礼します」
クラーラさんがお風呂に入って来た。
自分のした結果を見届ける義務があるのに、僕は結果が怖くて、クラーラさんの方が見る事が出来ない。
するとクラーラさんは僕の後ろに回って、
「フィーナさん、ありがとございます。
私、クラーラを生涯、貴方のお傍に置いて下さい♡」
全裸のまま抱きついてきた。
え? どういう事?
長らくの間外伝に掛かりきりだったので更新がありませんでしたが、今話から外伝の話をエロのないように改変して投稿します。
どっちが外伝なんだか、と呆れられそうですが宜しければ御笑読ください。




