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第十四話 木の実

「あ、あれ…」


 突如、強烈な眩暈に襲われた。


「どうかしたの、って!

 フィーナ、あなた、その出血!」


 珍しく師匠が慌てふためいている。


 師匠が持ってきたタオルで僕の顔を拭ってから、頭の天頂から少し横にずれたところをタオルで押さえる。


 すると

 ”ズキン”

鋭い痛みに襲われた。


 ここで僕も理解、否、思い出した。


(そういや、ゴブリンの一撃を頭に喰らってたっけ...)


 尤も頭から出血しているとは考えていなかった。


 その上で頭部からの出血なら派手に出ているだろう事も察しが付いた。


 全てを理解すると余計に眩暈が酷くなり、その場に倒れてしまった。


「フィーナ、しっかり、しっかりしなさい!」


 師匠が大声で心配しているのが分かる。


 しかし師匠の励ましとは裏腹に、僕自身は意識が虚ろになりつつあった。


(頭は、マズかった、のかも…)


 薄れゆく意識の中でそんな事を考えていると

「私に見せて下さい。

 治癒魔法なら使えますから!」

「本当?

 お願い!」

「はい、傷は…、ここですね。

 ”ヒール”」

ゴブリンから助けた女性の治癒呪文は僕に確かな効力を発揮した。


「ふう、これで大丈夫ね」

「心配かけてすいません」


 取り敢えず、危機的状況から脱する事は成功した。




 僕の治療を終えると、何より優先で行う事は”着替え”だ。


 師匠はまるで衣服に乱れすら無いが、僕はゴブリンに上半身の服はボロボロにされ、下半身のショートパンツも脱がされかけてしまっていた。


 ゴブリンに襲われていた女性に至っては、体に纏わりついているのは布切れとしか言いようがなく、服の機能を果たしていない。


 流石にこんな姿で歩き回るのは、痴女じゃあるまいしあり得ない。


 冒険を行うに当たって、着替えの服も持ってきていたのが幸いした。


「下着が無事なのは幸いね。

 あ、ショートパンツも変えなさい。

 ゴブリンの返り血で酷い有様よ」


 そんな師匠のアドバイスの元、替えの服を着用した。


 脱いだショートパンツは本当に酷いとしか言えない有様だった。


 敗れかけている上に臭いが強いゴブリンの血が大量についている。


 戦闘中に気付かないでいたのは錯乱状態だったからに他ならない。


 もはや二度と穿きたくないので、雑巾にでもするか…、いや、やっぱり捨てる一択だね。


 そしてゴブリンに襲われていた女性には師匠の服を貸す事になった。


 ただ、その女性は

(胸、きつくないのかな...)


 絶対に師匠の前では言えない心配をしてしまう体型をしていた。




「さて、着替えも済んだし早速だけど...」


 師匠が真面目な表情で女性と相対した。


 女性も少し緊張した面持ちになっている。


 そして

「本当にありがとう。

 貴方の治癒魔法のおかげで私の大事な弟子が助かったわ」

そう言って、深々と頭を下げた。


 師匠は色々と非常識な言動が目立つが、こういった時はまともな対応が出来る。


 これがいつもなら、最高の師匠なんだけどな...。


 そんな師匠の対応に女性は面白い程狼狽している。


「え、その、頭を上げて下さい」


 そういいながら、僕に視線で助けを求めて来た。


 しかし

「ありがとうございます。

 おかげで問題なく動けそうです」

僕も頭を下げる。


 こういう事は師匠を見習うまでもなく、しっかりとしておかないと。


「な、なんなんです?

 なんで助けられた私が頭を下げられてるんですか?

 これは虐めですか?嫌がらせですか?

 私何か悪い事をしてしまいましたか?

 お願いですから頭を上げて下さ~い!」


 女性はもう涙目になっている。


 見た目は20歳位だが、精神的にちょっと幼いのかもしれない。


 兎も角、これ以上困らせると本当に虐めになってしまう。


 僕も師匠も頭を上げて、改めて女性と相対する。




「先ずは自己紹介ね。

 私は『アリシア=ベルツ』。

 こう見えても、子爵級冒険者よ」


 この『セレステ』に於いて冒険者は大きく貴族級冒険者と平民級冒険者に分けられる。


 貴族級は公・侯・伯・子・男の五段階、つまり貴族の爵位の呼び方でランク分けされている。


 その下に平民級があり、駆け出しの僕はまだ平民級だ。


 貴族級に上がるにはちゃんと規定があるし、また義務が発生する。その一方で特権もあるのだが、それはまたいずれ。


 師匠の自己紹介が終わると次は僕だ。


「私は『フィーナ』

 まだ駆け出しで、この師匠に指導して貰っている」


 僕はもう『フィリシア』の名も、『アルヴィース』の家名も名乗る事はないだろう。


 出奔した時点で覚悟も割り切りも出来ている。


 僕の自己紹介が終わると最後は目の前の女性だ。


「私は『クラリッサ』と言います。

 治癒魔法が使えるので冒険者として、

 パーティーメンバーとやって来たのですが…」


 そこでクラリッサさんは俯いてしまった。


 そのパーティーメンバーというのは、間違いなくトロルの足元にあった肉塊にされてしまった人たちなのだろう。


 その二人がトロルにやられて、孤立無援の彼女がゴブリンに甚振られる事になっていた。


 そこに僕達がやって来たと、そういう事だ。


 それを聞いた僕は少しだけ自分を恥じた。


 僕は単純に冒険を楽しんでいた。


 しかしそれは師匠の庇護があるから出来る事だった。


 師匠がいなかったら、僕もあそこで肉塊になっているクラリッサさんのパーティーメンバーの様になっていたかもしれない。


 そう考えると恐怖を覚えると共に、浮ついた気分でいる自分を恥じた。


 とは言え、謝罪をする必要はない。


 ただ浮ついた気分を引き締めてくれた感謝の念はある。


 そんな僕に出来るのは、肉塊になってしまったクラリッサさんのパーティーメンバーの方に手を合わせて冥福を祈る事だけだった。




「自己紹介も済んだ事だし、ある意味これからが本題よ。

 クラリッサ、貴方これからどうする?」


 クラリッサさんは少しだけ考えてから

「厚かましい事をお願いするようですが、外の街まで御一緒させて貰えませんか?」


 賢明な判断だった。


 クラリッサさんの戦闘能力はゴブリンに襲われていた事を考慮すると大した事は無い。寧ろ、一人だと無事帰れるか怪しいレベルだ。


 それなら僕と師匠に護衛と云うか、パーティーメンバーとして同行した方が安全だろう。


「分かったわ。

 フィーナの件で借りもあるし、断る理由は無いわ」


 師匠は即決した。


 一応、僕にも視線で確認はしたが、僕にも異存はなかった。


「じゃあ、第二階層の特殊アイテムを回収しましょう」




 三人になった僕隊のパーティーは順調にゴブリンを始末しながらダンジョンを進んでいる。


「師匠、何処に向かっているかもそうなんですが、

 全然、迷いが無いですよね?」

師匠は別れ道でも躊躇なく進んでいる。


 僕とクラリッサさんはその後を着いて行ってるが、少しだけ不安になった。


「大丈夫よ。

 だって、ほら」


 師匠が見せてくれたのは、この地下ダンジョンのマップだった。


「こんなのあったんですか...」

「街で売ってるわよ、駆け出し冒険者用にね。

 私も初めての頃には世話になったわ」


 確かに攻略が進んでいるなら、マップが存在しても、それを販売してる人がいても不思議ではない。


「フィーナ、貴方もマッピングの技術は習得しときなさい。

 私とはぐれたり、私がいない時に困らないようにね」


 確かにマッピング技術は必要かもしれない。


 ただ、どうやって学ぼうか...。


「私がお教えしましょうか?」


 クラリッサさんはマッピング技術を持っている様だった。


 それからはマッピングの簡単なコツを学びながらダンジョンを進んで行った。


 因みに師匠に頼らなかったのは

(絶対に見返りに、僕の体の”おさわり”を要求してくるだろうからな…)




 そして一時間も進んだだろうか。


「着いたわ」


 その師匠の言葉で僕は身構えた。


 またミノタウロスの様なモンスターとの戦闘になると思ったからだ。


 しかし

「モンスターなんていないわよ。

 ここが目的地で、あれが第二階層の特殊アイテムよ」


 師匠が示したのは実の生った木だった。


 幾つかの実が生っているのだが、

「見た事のない実ですね」

「私も初めて見ます」

僕とクラリッサさんは間違いなく初見だった。


「地上に生えていなから当然よ。

 フィーナ、クラリッサ、その実を一つだけ食べなさい。

 いい、一つだけよ。

 欲張って、幾つも食べるんじゃないわよ」


 師匠に言われるがまま、実を一つ捥いでリンゴの様に齧りついた。


「この味...、リンゴ?」


 見た目もそうだったが、味もリンゴに近かった。


 完食すると師匠が

「この実は『復活強化の実』よ。

 効果は名前の通り、怪我から復活する度に身体能力が強化されるのよ」


 この師匠の説明を聞いた僕は

(何? そのサ〇ヤ人みたいな能力は?

 僕は宇宙人になったの? 尻尾は?)


 呆気にとられた後に浮かんだ莫迦な考えは日本人なら当然だろう。


 そんな僕を見て師匠も察するところがあったらしい。


「フィーナの考えてることは分からないでもないわ。

 多分、

『そんなバカげた能力、ありなの?』

 とか、

『何度も死にかけたらマジで人間やめる位強くなるんじゃない?』

 とか考えてるでしょ」


 流石師匠、弟子の僕の考えてる事を的確に言語化してくれた。


「でも『復活強化の実』はそこまで便利な能力を授けてはくれないのよ」


どういう事?


かなり有用な能力だと思うんだけど。


「先ず、怪我から回復すると強化されるのは自然でもあり得ることなの。

 『超回復』っていうんだけど、『復活強化の実』それを増幅してくれるのよ」


 確かに『超回復』は僕でも知っている。


 でもそれが増幅されるのはいい事では?


「いい事なのは確かよ。

 でも怪我の度合いが大きい程、増加幅も大きいんだけど

 瀕死からの回復でも、かろうじて自覚できる程度しか強化しないのよ。

 強くなったのは間違いないけど、一回一回の強化幅は大したことない。

 かと言って、そんなに度々大怪我するのも、ね」


 前世のRPGのレベルアップみたいなものか。


 1レベルや2レベルなら気休め程度にしか能力はUPしない。


 実感するには沢山レベルUPしなければならない。


 しかし怪我の度合いと回数がレベルUPの条件となると厳しい。


 そんなに何度も死にかけたくない。


「それと治癒呪文がそこまで万能じゃない以上、

 瀕死から瞬時に回復する方法は何に等しい」


 師匠のこの言葉を聞いて、僕がクラリッサさんに目で確認すると黙って頷いた。


 つまり治癒呪文をあてにして、強化されるからと無理をすれば不可逆的な怪我をする可能性もあるって事か。


「分かった?

 能力が上がるからって無茶な事をしたり、

 大怪我が不可避な戦い方をするのは絶対にしない事。

 いいわね?」


 厳重に釘を刺されてしまった。


 とは言え、これで第二階層での僕の最大の目的は達成された。

 



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