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第十三話 地下迷宮

「さあ、二日目だけど、今日も塔に向かうわよ」

「はい、楽しみです」

「元気で宜しい」


 そう言いあって、僕と師匠はまた『セレステ』へと足を踏み入れた。




 ミノタウロスの『宝玉』はペンダントにして首から下げている。


 但し、『宝玉』を手にしていない冒険者に狙われる恐れが無いとは言えないので、服の中に入れて見えない様にしている。これでもちゃんと筋力増強の効果はあるらしい。


 昨日と同じ様に師匠と並んで草原を駆けるが、『宝玉』での筋力増強の恩恵か、走る速度が上がっている気がする。


「師匠、この『宝玉』でどの位、筋力が上がるんですか?

 もしかして、ミノタウロスの首を一撃で落とせる位になるとか...」

「正確な数字までは分からないわ。

 一般的に言われてるのは10%位だという話だから、

 フィーナの力ではちょっと無理ね」


 少しだけがっかりしたが、第一階層で手に入るアイテムならこの程度か。


 この先でもっと凄い特殊アイテムが手に入る事を期待しよう。


「ところであのミノタウロスって何時もいるんですか?

 昨日も私が倒した後にパーティーが来たら無駄足になりそうな...」


 もしそうなら、僕は運が良かった事になる。


「そんな事にはならないわ。

 だって3時間もすれば復活するもの。

 正確には何処からともなく、敢えて言うなら木俣から

 新しいミノタウロスが産まれてくるから」


 なんなんだ、その都合のいい状況は。


(なんらかの意思が介在してるとしか思えない)


 尤も、僕が転生したのも偶然で済ませるには事が大き過ぎる。何しろ貴族令嬢なんだから。


 本当に神様でもいるんじゃないか?


 それなら神様、何で僕が女性なんだ!やり直しを要求するーー!!




「フィーナ、着いたわよ」


 師匠がそう言って、示したのは祭壇の様な場所だった。


「一階層にはもう、めぼしい場所はないから、

 この転移門で三階層へ向かうわ」

「二階層じゃないんですか?」


 僕が素朴な質問をすると

「一階層にある転移門では三階層にしか行けないのよ」

それだけ言うと、師匠は有無を言わさないとばかりに僕の手を取って転移門を起動させた。


 一瞬だけ、周りの景色が消え、奇妙な浮遊感を感じたが直ぐに消え失せた。


 但し目の前の風景が完全に変わっている。


「ここが第三階層...、ですか?」

「ええ、見ての通り第三階層は密林の階層なのよ」


 そう、目の前に広がる風景は第一階層の草原とは打って変わって、鬱蒼と木々が生い茂る密林だった。


 噂には聞いていたが、これが塔の中だなんて信じられない思いだ。


「これから第二階層へと向かうわよ」

「え、え~と…」

 言いたい事があるのだが、何処から言えば良いのか…。

「第二階層は第三階層から降って行く事が出来る、

 いわば地下ダンジョンよ」




 師匠の先導で歩みを進めながら、説明を受ける。


「第二階層に行くには第三階層から階段を降って行かなければならないのよ。

 だから感覚的には第二階層というよりは、

 第三階層の地下ダンジョンなんだけど、

 第二階層って言い方が『セレステ』では一般的だわ。

 まあ、地下ダンジョンを第二階層って呼ぶから、

 ここを第三階層って呼ぶんだけど」


 なんだか違和感があるのだが、塔の内部という事を考えれば一理あるのかもしれない。


 しかも第二階層にあたる地下ダンジョンは地下一階しかないので、第二階層のみなのだが、上の方には地下二階、三階やそれ以上も存在するらしい。


 その場合も同様に一階に付き、一階層の呼び方をしているとの事だ。


 地上ではあり得ない『セレステ』の常識を教わっている内に目的地に到着した。


「密林だけあって、野生動物との遭遇は結構ありましたね」

「ええ、野生動物だから金に換える為に持ち変えるのも一苦労だから、

 これから地下ダンジョンに入るってのに、くたびれ損よ」


 寧ろ、”誰か”が意図的のそうしてるんじゃないか、とすら考えてしまう。


 しかしそれを証明する手立ても、それをする利得もない。


 今は冒険を楽しもう。




 第二階層へ向かう僕達はかなりの段数を降りる事になる。


 その道中で

「フィーナ、第二階層での敵はゴブリンだから、

 それを肝に据えておきなさい」


 ゴブリンか...。


 体長は1mにも見たいない小柄な人間型のモンスターで、1対1ならそれ程恐れる事は無い。


 しかしゴブリンは人間ほどではないが知能があり、しかも集団で襲い掛かるのを得意としている。


 そして何より僕達にとって最悪なのは、人間の女性を凌辱して子供を産ませる事だ。


 当然、丁重に扱うなど望むべくもなく、痛めつけ、無抵抗にしてから犯して精神を砕く。


 そんな精神を砕かれた女性は一度の出産では済まず、死ぬまでゴブリンの子供を産む苗床の様な役目を担い続けることになる。それもゴブリンの気の向くまま、甚振られながらである。


 いっその事死んだ方が幸せなのかと思うような反吐の出る話である。


「注意点としては、絶対に組み付かれて押し倒されない事。

 押し倒されたら、即座に何体も群がって来て身動きを封じられてしまう。

 それは最悪の結末へ転落する第一歩だと思いなさい」

「はい!」


 僕とてゴブリンの慰み者になるなど、まっぴらごめんだ。


 改めて気を引き締め、地下ダンジョンである第二階層へと向かうのだった。




 第二階層は予想通りと云うか、言われている様に、正しく地下ダンジョンだった。


 石造りの床、天井、壁が複雑な迷路を作り出している。


 通路は狭く、普通に並んで歩くなら2、3人がせいぜいで、天井も低く、凡そ2mといった処だ。


 ゴブリンは小柄なので気にならないのかもしれないが、人間としては少し閉所に感じてしまう。


 ただこの第二階層は暗くないのが唯一の救いだった。


 それが地下ダンジョンではなく、第二階層と称されている理由かもしれない。


 そんな第二階層の迷路を進んで行くが

「キギャー」

「キキキー!」

度重なるゴブリンの襲撃に遭っていた。


 僕と師匠は短剣なので問題ないが、もしこれが長剣で戦うとなっていたら、かなり危なかったかも知れない。


 何故ならこの通路は前述したように結構狭い。


 つまり長剣だと壁や天井が邪魔になり、思う存分振れない可能性が高かった。


 しかも一度に遭遇する数が多いので、攻撃の小回りが利かないとゴブリンに抱きつかれる可能性が高い。


 そう考えると、短剣でなかったらぞっとする話だ。


 そう言ったことをまるで考えていなかった訳ではないが、双剣術を習っていて良かったと実感する。


「いやー、止めて―!

 誰か、誰か、助けてー!」


 甲高い女性の声が響いてきた。


 僕と師匠は顔を見合わせて声のした方向を探る。


 狭い空間で声が反響して解り辛かったが、

「「こっち」」

声がした方向に関しては、意見が一致した。


 その方向へと全力で走る。


 声の質と内容から、最悪の事態が差し迫ってるか、既に手遅れなのかもしれないが、急がざるを得ない。


 大きな部屋の前に到着した。


「いや、そんな、いやーー!!」


 女性としての断末魔を思わせる叫び声が響いた。


 部屋の扉は閉まっておらず、だからこそ声が届いたのだが、僕と師匠は即座に飛び込んだ。


「!?」


 僕は一瞬、思考が停止してしまった。


 数匹のゴブリンが女性に纏わりついている。これは想定内だった。


 だが部屋の中には”トロル”を思わせる3mは優に超える魔獣がいた。


 そしてその魔獣の足元には原型を留めていない、もはや肉塊となった3体の遺体が転がっていた。


 その凄惨な光景は僕の想像を超えていた。


 思考が停止し、立ち尽くしてしまった僕に、上から数匹のゴブリンが降りかかるように遅いかかって来た。


 その中の一体が棒か何かの武器を持っていたらしく、頭に一撃を喰らってしまった。


 掠ったよりは深いが直撃と言うには浅い。


 そんな一撃ならゴブリンの力では致命傷にはならないが、軽い脳震盪を起こしてしまう。


 ”カラーン”


 その所為で短剣を落とし、ふらつく僕にゴブリンたちが群がってくる。


 一匹が左腕にしがみつき、一匹が左足にしがみついて僕の動きを止めてくる。


 バランスを崩した所で、一匹が後ろから腰にしがみついてきた。


 これで僕は転倒してしまうが、

「!!!」

それより驚いたのが、その後ろからしがみついてきたゴブリンは僕の腰の前に手をまわして、ベルトのバックルを外してきた。


「な、この!」


 抵抗しようとするが、転倒した僕にゴブリンが何匹がのしかかってくる。


 そのゴブリンは僕の服を破いて剥ぎ取ろうとし、ベルトに手を回していたゴブリンはバックルの留め金を解除するとズボンを脱がそうとしてくる。


 膝上までの膝上までのショートパンツを履いていたが、ずり降ろされて膝のあたりに纏わりついているだけになってしまう。


 これで下半身の大事な所を覆うのは、薄い下着一枚だけにされてしまった。


 このままでは凌辱される危機なのだが、頼みの綱の師匠は一目散にトロルに向かって行っている。


 師匠がトロルより僕の救助を優先した場合、放置されたトロルが暴れまくり、女性も自分もどうなるか分からない。だから師匠の判断は間違っていない。


 そしてゴブリンに襲われつつある僕だったが、顔を舐められそうになり嫌悪感が最高潮に達した。


 次の瞬間、

 ”グシャ”

手甲を嵌めた右手で自身の顔の近くにあったゴブリンの頭を叩き潰した。


 そのえげつない攻撃に僕の上にのしかかっていたゴブリン達が怯んだ。この辺りは中途半端に知性があると、弱点になってしまう。


 知性が低ければ本能のままに襲ってくるが、知能の高さは慎重、臆病さと隣り合わせなのだ。


 少し体が自由になった僕は自分が半裸にされていた事を改めて理解する。


 最高潮に達した嫌悪感を上回る怒りが湧いてくる。


「何時まで圧し掛かってやがるーーー!!

 離れろ、クソ蟲どもがーー!!」


 とても元伯爵令嬢が言ってはならない汚い言葉を叫びながら、抑え込む力と体制が不十分になっていたゴブリンを全力で振り払った。


 さあ、これで僕を拘束する敵はいなくなった。


 半裸にされた怒りを込めてゴブリンを叩き潰しにかかる。


 正拳、裏拳、肘撃ち、蹴り、膝蹴り、使える体術を駆使してゴブリンを一匹また一匹と潰していく。


 半裸の美少女が返り血を浴びる事を気にしないで、ゴブリンを叩き潰していく様は凄惨なものに違いない。


 しかし半裸に剥かれ、貞操を奪われる寸前まで追い込まれた怒りはこの程度では収まりが付かない。


 僕の方に向かってきていたゴブリンは全て叩き潰したが、これでも怒りが収まらない僕は、女性に群がっていたゴブリンをも叩き潰しにかかる。


 喉を膝で踏み潰した直後に顔を拳で砕いたり、肘と膝で上下から頭を潰したりとえげつない殺し技でゴブリンを葬っていく。


 ゴブリンに襲われていた女性の目には、ゴブリンよりも僕が恐ろしく映ったのではないだろうか。


「ふー、ふー!」


 10を超える全てのゴブリンを叩き潰しても興奮冷めやらずといった状態の僕の肩がポンと叩かれる。


 振り返ると師匠が優しくも、哀し気な笑顔で

「もう大丈夫、全部終わったから」

そう囁いてくれた。


 その師匠の言葉で、怒りに満ちていた興奮が一気に冷めていく。


 ふと見ると、師匠が制圧に向かったトロルの姿は何処にもない。


 師匠が倒した事で魔石になってしまったのだろう。


 静けさを取り戻した部屋に、ほぼ全裸の女性と、半裸の僕、服に乱れすらない師匠、と三者三様の姿の女性が取り残されていた。








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