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第十一話 願い

「やっと、やっと着いた...」


『ルシフェルス』着いた僕は感慨もひとしおだった。


 旅の疲れも忘れて飛び歩く様に街を散策する。


 流石に四大国全てとの交易都市だけあって発展しており活気に満ちている。


 その一方で少しだけ歪な街並みになっている。


 街の象徴であり、この街の発展の原動力である”神が創りし塔”の『セレステ』の南側に建物が偏って建造されている。


「『セレステ』は南側にしか入口が無いのよ。

 冒険者向けの宿屋や武器防具屋なんかは、

 どうしても入り口近くに店を構えた方が有利だから、

 こんな偏った街並みになったのよ」


 師匠が教えてくれた。


 確かに入口の反対側に宿屋を立てた場合、塔から出て来てから塔を半周しなければならない。


 直径10㎞を超える塔を半周って、何時間かかる事か...。


 そんな立地では商売をする上でかなり不利になる。


 それにしても師匠はよくそんな事を知ってたね。


「もしかして師匠はこの『ルシフェルス』に来たことがあるんですか?」

「ええ、何度か。

 最近だって、ここ半年位はここに滞在してたわよ。

 アルヴィース伯爵の所に戻ったらフェリシアが出奔したから探せって言われて、

 また直ぐここに来る事になるなんて、忙しないったらありゃしない」


 そういえば今までに師匠は何度か行方不明になっていた。


 最近ではここ半年も行方不明だった。


 その間は自主鍛錬という事で基礎力上昇に時間を費やしていたが、まさか『ルシフェルス』に来ていたとは…。


 そんな事を聞いている時に

 ”グウ~~”

思い切りお腹がなってしまった。


 確か、まともな食事をしたのは『アレフ』を出る前であり、それからは少量の携帯食料で凌いできた。


 腹が鳴るのも無理もないと云えば無理もないのだが、やはり恥ずかしい。


「フィリシアのお腹も限界みたいだから、そろそろ食事にしましょう」

と師匠に連れられた店で食事となった。


 僕も自分が食べた分は自分で払おうとしたが、店を出る前に師匠が先回りして払い終えていた。


 そんな師匠のさりげない気の回し方は人として見習いたい点である。


 うん、師匠にも人として見習う点はあるんだ。




「さてと、腹も満たしたしギルドに行きましょう、

 って言いたい処だけど、ちょっと時刻がね」


 何時の間にか暗く成りかかっている。


「まだギルドは閉まってないけど、夕刻以降のギルドは厄介なのよね。

 ただでさえガラの悪い冒険者達が、

 昼間の狩りやクエストで気を昂らせて帰って来るからね。

 そんな中に私もだけどフィリシアが行ったら...」


 確かにどうなるかは想像に難くない。


 但し、僕はまだしも師匠が暴れることになったら...。


「だから今日はこのまま宿屋に泊まって、

 明日の朝一でギルドに行きましょう」


 そう言って師匠が案内してくれた宿屋は外観からして、少々宿泊料金が高そうだった。


「あの、師匠。

 私は手持ちが少々心許なくて…」


 恥ずかしい話だが、『アレフ』でまったく稼げなかったので、手元の金銭が少なくなっている。


 僕個人所有の宝石が少しあるが、この時刻では換金出来る店が開いているかどうか。


 それに少しは節約しないと…。


「大丈夫、私がおごってあげるから」

「ありがとうございます」


 やっぱり分かってたんだ。


 面倒見のいい師匠で助かった。




 部屋に入って一休みしていると、急に不安に襲われてきた。


 今日食事と宿屋は師匠がおごってくれたが、それは今日だけの事。


 僕自身はまだ防具を一式揃える事さえ出来ない経済状態だ。


 しかもこれから確実に狩りやクエストで稼げる保証もないので、出来なかった場合は宝石を換金しても直ぐに底を尽くだろう。


 それにここは各国の冒険者が集まる『ルシフェルス』。


 僕より強い冒険者は珍しくないだろうし、塔には強い魔獣もいるに違いない。


 そんな中で自分の身を守りながら、単独(ソロ)でやっていくのはやはり無理かもしれない。


 そして信頼できる冒険者の心当たりと言えば、僕には師匠しかいない。


 それならば師匠に頼んでみるのも一つの手だ。


 そもそも師匠の助けが無ければ、『ルシフェルス』に到着すら出来なかったかも知れないのだから。


「どうしたの、フィリシア。

 思いつめた顔も可愛いけど、

 なにかあるなら話して見なさい」

「本物の”師匠”みたいですね…」


 心配して精神のケアまでしてくれる理想的な”師匠”みたいな言葉にふと、そんな言葉が漏れた。


「あのねえ、私は間違いなくフィリシアの師匠なんだけど」


 そんな師匠の言葉を受けて、僕は先程の不安を吐露する。


「成る程...、不安になるのも無理はないかな」


 師匠に気持ちを肯定して貰ってから、解決策をお願いする。


「師匠、暫くの間でかまいませんから私とパーティーを組んで下さい。

 ここまでの道中で自分がまだまだ未熟だと思い知りました。

 それでこれからも単独(ソロ)でやって行くのは難しいと実感しました」

「だから私とパーティーを?」

「はい、私が信頼できる冒険者の知り合いは師匠しかいません。

 間違って性質の悪い冒険者とパーティーを組んでしまったら...」

「確かにフィリシアの美貌なら、

 男は即座に邪な考えを巡らすでしょうね」


 そこまで酷い男ばかりじゃないと思うんだけど…。


 僕の申し出に師匠は

「いいわよ」

簡単に承知してくれた。


 ”案ずるより産むがやすし”

とはよく言ったものだ。


「ありがとうございます、

 あ、あれ、なんで嬉しいのに涙が…」


 歓喜と安堵の余り、涙が零れてしまう。


 師匠は僕の涙を指で拭いながら

「私がまだ守ってあげる、鍛えてあげる、だから安心しなさい」


 優しく諭してくれるのが、嬉しくて堪らない。


「師匠ー!」


 僕は感極まって、師匠の胸に飛び込んだ。


 僕は師匠の胸に顔を埋めて、師匠は僕の背中をしっかりと抱き締めてくれた。


「私としても、フィリシアのその完璧な体が

 情欲に溺れた男の手で穢されるなんて我慢がならない」


 あれ? なんか変な方向に...。


「そもそもフィリシアの大きさ、形、弾力を完璧に兼ね備えた胸は私のもの」


 僕の胸は僕のものなんですけど。


「絶対に他の男、いや、女にだって渡さない」


 色々台無しです、はい。師匠はこういう人だって忘れてました。




「最後は色々と問題があったけど、

 結果だけ見れば最良の所に収まった、かな」


 僕は風呂で髪を流しながら、そんな事を考えていた。


 この宿屋は外観からして宿泊料が高そうなのは入る前に分かっていたが、まさかお風呂まであるとは思わなかった。しかも全個室完備。


 この世界でお風呂は贅沢品で、貴族でもなければ入れないのにこれは豪勢だ。


「『ルシフェルス』では魔石で湯を沸かす事が出来る道具が作られて、

 その上で魔石が豊富に取れるから、宿屋にも風呂が完備出来るのよ」


 そう言いながら師匠がお風呂に入って来た。


「し、師匠?!」

「背中と髪を流してあげるわよ」


 僕は慌てて自分の体を隠しつつ、体ごと目を背ける。


 何しろお風呂だから当然かもしれないが、二人とも全裸なのである。


 そんな羞恥の二段重ねなのだが

「まだ恥ずかしいの?

 初心(ウブ)なのは変わってないのね。

 だが、それがいい」


 師匠とは昔、鍛錬の後に汗を流す為によく一緒にお風呂に入った。


 まだ幼かった頃の僕は、師匠の体型や肌の美しさに圧倒された記憶がある。


 それが今でも衰えていないのだから、とんでもない人だ。


 ついでに言うならば、僕が成長するに従って、僕の体を弄ぼうとするのだから、別の意味でもとんでもない人である。


 髪や背中を流すときの手つきは優しいのだが、何処かいやらしい。


「ひゃんっ」

「相変わらず、可愛い声で鳴くのね♡」


 しかも小さい頃から僕の全身を触っているので、僕の体の弱い所を知っている。


 本当にとんでもない人だ。


「あの、師匠...」

「なに、フェリシア」


 髪や背中を流し終えた後、湯船に浸かっている。


 この宿屋のお風呂は大きいので湯船に二人同時に浸かることが出来る。


「この体勢は一体...」

「フィリシアは気にしないで、私に身を任せなさい」


 誤解を受けそうな言葉だが、二人で誤解を受けそうな体勢をしている。


 何しろ、師匠が僕を背中から抱き締めるような体勢で湯船に浸かっているのである。


 僕は自分の胸を両手で抱き締めるようにして師匠から防御いるのだが、その恥じらいも師匠の好物だとか...。


 この体勢では僕は背を師匠に委ねるしかなく、結果として師匠の胸が僕の背中に押し当てられている。


 それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり...。


 一応女性同士だが、やはり肌の密着は恥ずかしい。


 それにしても若さを失っていない妙齢の銀髪の美女が、金髪(プラチナブロンド)の巨乳美少女を抱き締めながら湯船に浸かっている。


 傍から見たら凄い絵面だろうな。僕でも見てみたい。


「結局、師匠が一番情欲に溺れているんですね」

「そんな事はないですよー(棒)」

「もう、でも背中から抱き締めるだけで満足してくださいよ。

 じゃないと、もう一緒にお風呂に入りませんから」


 はあ、なんでこんな師匠に抱き締められてて安心するんだろ。




「朝よ、起きなさい」


 そんな声と頬を突かれる感触で目を覚ました。


「おはよう、お寝坊さん♪」

「おはようございます、師匠」


 久しぶりに、ぐっすりと、安心して眠れた気がする。


 それにしてもなんで昨夜、お風呂から出て寝る時に

「師匠、寝ている時、手を繋いでいてくれませんか…」

なんて言ってしまったんだだろ。


 師匠は添い寝までして手を握っていてくれたけど、多分僕はまだ不安だったんだろうな。


 だから師匠に甘えてしまった。


 これからは、しっかりと自分で気を持たないと。


「それにしても師匠」

「なに?」

「私が寝てる間に変な事しなかったでしょうね?」

「私は変質者じゃないわよ。

 同意なしでそんな事しません!」


 そうだったかな~?




 師匠を先導役としてギルドに到着した。


「ここがギルドよ。

 実質ここが『ルシフェルス』の自治を取り仕切っているから、

 しっかりと覚えておきなさい」


 師匠はまるでガイドの様に解説してくれた。


 ギルドの受付嬢が若くて美人な女性なのは万国共通なのかな。


 僕達の対応をしてくれた受付嬢が提出した書類を確認して

「お待たせしました。

 野盗討伐の報酬です」

問題なく、受け取る事が出来た。


 ギルドから出た時点でそのお金を師匠に渡した。これで師匠へ依頼料の支払いを終える事が出来た。


 そう思い、一息ついた僕に

「さあ、次は防具屋へ向かうわよ」

「え?」

「これでフィリシアの防具一式を買い揃えるのよ。

 その為に危険な野盗退治を請け負ったんでしょ」


 ウインクしながらそういう師匠を見て敵わないと思った。


 僕は本当に師匠に恵まれていた。



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