表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第十話 突破

「じゃあ、私が『アレフ』を脱出するのに手を貸して下さい」

「へえ...」


 師匠は少しだけ嬉しそうな表情をしている。


「確かに私はもうアルヴィース伯爵の依頼を受ける気はないわ。

 だからフィリシアの依頼を聞くのも、道義上は問題が無い。

 でも無料(ただ)働きはまっぴらごめんなのよ」


 そう、師匠は厳然たるプロフェッショナルなので、義理や同情では動いてくれない。


 しっかりした報酬があってこそ、依頼を受けて完遂してくれる。


 寧ろ、その方が信頼できると云うものだ。


「報酬は今はあまり金銭の持ち合わせがありません」

「じゃあ、無料(ただ)働き、若しくは出世払いにしろとでも言うのかしら」

「いえ、盗賊討伐の報酬があるので、『ルシフェルス』で支払います」


 実はギルドは冒険者の為の銀行の様な役目も持っている。


 ギルドでのクエストをこなした場合、別のギルドでもその報酬を受け取ることが出来る。


 護衛などで別の街に行った時、元の街まで戻らないと報酬が受けられないのを避ける仕組みだ。


 勿論、ギルドの証明書は必要だが、僕の場合それは問題なく受け取れる。


 師匠はニヤリと笑ってから

「いいわよ、フィリシア。

 貴方の依頼を受ける事にするわ。

 急いで準備するわよ」


 毅然と言い放つ師匠だが、準備と言ってもギルドの証明書くらいなのだが…。


「甘い。

 あの”影”から逃げるのだから、作戦が必要に決まってるでしょ。

 その作戦は…」

「成る程...」


 師匠から作戦内容を聞いた僕は感心した。


 確かにそれなら意表を突くという意味でかなり有効な気がする。


 つまり逃げきる事が出来るかもしれない。


 でもこんな作戦を即興で考え付くだろうか?


 もしかして、初めから手を貸してくれるつもりだったのではないだろうか。


 ただ僕を甘やかせない様に、敢えて厳しく接したのではないだろうか。


「さあ、ぼやぼやしない。

 それにさっきのギルドマスターの”乳揉み”をネタに

 ギルドの職員も使うわよ」


 ”乳揉み”って、もうちょっと言い方を考えて欲しい。


 それに、それは師匠もやったよね。




 準備が整ったのは、もう夕刻に差し掛かろうと云う時だった。


「作戦には最適な時間ね」

「じゃ、ギルドの職員の皆さんもお手数かけました」


 子細は話していないが、ギルドマスターが僕に行った”乳揉み”をネタにして買い出し等の手伝いをしてもらった。そのお礼を述べたのだが

「ああ、構わねえよ。

 この位でフィーナの乳を揉んだ事がチャラになるなら安いもんだ。

 よかったらまた...」

 ”バキッ、ゴキッ、グシャッ”


 鈍い音が数回響いたのを背中に聞きながら、僕と師匠はギルドを後にした。




 それ程大きくない外套を纏って、走りながら『アレフ』の西門をくぐって外へ出た。


 このまま西の『ルシフェルス』へ向かう。


 しかし門をくぐってそれ程立っていないにも関わらず

「フィリシア」

「はいっ!」

”影”が襲い掛かって来た。


 数は3人。


 最初から全員でないのは、各所に散っていたのだろう。


 しかし直に全員が追いついて来るのは火を見るよりも明らかだ。


 ”キーン”


 刀と刀がぶつかる音がするが、最初に斬りかかられたのは師匠だった。


(師匠の予想通り、か)


 僕はほぼ無傷で”捕らえる”のが任務なので、殺す事は許されない。


 先ずは邪魔をする師匠を倒してから、きっちりと僕を”狩る”つもりなのだろう。


(本当にいろんな事に気が回る人だ)


 一流の冒険者だからこそ、多くの事に目を配る習慣が身についている事は想像に難くない。


 感心しながら僕も戦闘に加わる。


 それにしても、この”影”は本当に連携が取れている。


 一人が動きを止めて、二人目が斬りかかる、そんな基本だけでなく、対処された時の三人目まで用意している。


 僕に対する攻撃は直接な殺傷力の無い刃を潰した武器を使用しているが、それでも打撃武器としては有効で、一撃でも喰らえば動きがかなり鈍るのは間違いない。


 しかもこちらの攻撃に対しては、防御してこっちの動きを止める事を最優先にしている。


 だから一撃で仕留める事が出来ない。


 そうすると二人目、三人目がフォローに回るので、仕留めるには手間がかかる。


 そうやって手間取っていると

「増援が到着した様ね」

”影”の増援が到着して、数が増えてくる。


 僕と師匠は足を止めずに只管応戦して、移動を続ける。


「くそっ、このままだと…」

「落ち着きなさい!

 焦ったら向こうの思う壺よ」


 師匠の言葉で冷静さを取り戻せた。


 戦闘と増援の出現で精神を削られて、平静さを失いかけていた。


 僕と師匠の目的は”影”の殲滅ではなく、逃げ切る事。


 その作戦も用意してある。


(今は好機が到来するのをまつしかない…)


 そんな中、千載一遇、僕達の望んだ、待ち続けた状況がやって来た。


 僕達の本当に行きたい方向に”影”がいない。これが待ち望んでいた状況だ。


「フィリシア、今よ」

「分かっています」


 僕と師匠は即座に”影”に背中を向けて全力で走り出した。


 一瞬だけ虚を突かれた”影”だが当然追って来る。


 しかし無視して僕達は走りながら服を脱ぎ始める。


 普通の服なら走りながら脱ぐのは難しい物もあるが、当然服には細工がしてある。


 何本かの解け易い結び目を解けば簡単に脱ぐことが出来るようになっている。


 こんなものは当然売っていないので自作した。


 ギルド職員を使って買ってきた服を切り裂いて、紐をつけるだけなのだがやはり時間が掛かり、こんな時間に出発となってしまった。


 ”影”に背を向けて走り始めて直に、目的の物が見えた。


「し、しまったー!」


 ”影”が僕達の意を察して叫んだが遅かった。


 僕達はそのまま川に飛び込んだ。


 この川は街道の近くを流れている川なのだが、決して小川と呼べるような小さな川ではない。


 川幅は10mもないだろうが、それでも深さは2m以上もある立派な川だ。


 師匠が立てた作戦は、川にに飛び込んで逃げる事だ。


 僕達は逃げながら服を脱ぎ捨てたが露出狂じゃあるまいし、当然全裸ではない。


 かと言って下着姿でもなく、服の下に予め水着を着用していた。


 こちらの世界にも水着は存在しており、川は兎も角、海で泳ぐ文化は存在する。


 実際に僕も貴族令嬢として何度か海に行って泳いだ事がある。


『アレフ』で水着を買いに出かけたギルド職員は少々苦労したようだが、売っている店があり購入出来た。


「少々、サイズがやデザインが…」

「贅沢は言わないから。

 へえ、これは寧ろ好都合!」


 そんな会話をギルド職員と師匠がしていたのが気になるけどね。


 川に飛び込んだ僕と師匠は着水する前に手を繋いで離れ離れにならないようにした。


 このまま川の流れに乗って行けば『ルシフェルス』の近くまで行く事が可能だ。


 そして”影”は追ってこない。寧ろ、追って”これない”と言った方が適切かもしれない。


 水着で飛び込んだ僕達と違い、”影”が追ってきた場合は着衣水泳が必要となる。


 着衣水泳は慣れていても危険が伴い、かなりの体力を消耗する。


 女性とは云え、それなりに鍛えて水着を着ている僕達に追いつける筈が無い。


 唯一の懸念は”影”も急いで服を脱いで追ってくる事だが、それを行っても徒労に終わるだろう。


 僕達は潜水を多用したので、それでは僕達の姿を捕らえ続ける事すら難しい。


 岸で立ち尽くしている”影”達を充分過ぎる程引き離した。


 その後も川の流れに乗って泳いで行き、それなりに時間が経つと日が落ちた。


 引き離されて暗闇に紛れられては打つ手はなくなる。


 こうして”影”の追跡を事実上突破する事が出来たのだった。




「ふう、ここまでくれば大丈夫でしょう」


 僕と師匠は安全と思い、川から上がった。


 正確には分からないが、飛び込んでから泳いだ距離は1㎞や2㎞程度ではないだろう。


 それなりの時間を泳いでいたし、『ルシフェルス』方面への川の流れにも乗った。


 さほど強い流れではないが、やはり流れに乗るとそれなりの速度が出る。


「これ以上は体が冷えるから危険よ」


 師匠の言う通り、結構な時間水に浸かっていたので肌寒さを感じる。


「ちょっと待ってなさい」


 師匠が濡れない様に特殊な素材でくるまれた荷物の中から薪を出した。


 その薪に魔法で火をつけて焚火とした。


 その焚火で体を温めながら、タオルで髪や体を拭くのだが…


「師匠、そんなに見られると恥ずかしいんですけど」


 師匠は嬉しそうな表情をしながら、僕の水着姿を見ている。


「本当に綺麗な肌をしてるわね…」


 確かに自慢じゃないが肌は綺麗な方だと思う。しかしそれは育った家や年齢によるものが大きいと思っている。


「師匠も綺麗じゃないですか。

 私はまだ15ですけど、師匠は…、

 何歳でしたっけ?」


 師匠は年齢の話になると、直ぐに誤魔化し続けて来た。


 見た目はまだ20代半ばでも通用しそうな容姿と肌艶だが、師匠自身から語られる武勇伝を総合すると30代半ば以上じゃないと計算が合わない。


「・・・、それに本当に素敵なスタイル♡」


 あ、師匠が話を逸らした。


 僕の胸は確かにそれなりに大きい。


 しかし前世の記憶にあるグラビアアイドルに比べると、見劣りする気がするんだけどな。


 多分やや大きめ、程度だと思う。


 師匠は胸はやや小さめの部類かも知れないが決して平面ではない。


 それはさておき、

「師匠、やっぱりこの水着、小さすぎますよね…」

僕が来ている水着はあきらかに布面積が少なく、サイズも小さめな気がする。


 だからビキニなのを差し引いても、かなり煽情的な気がして恥ずかしく思える。


「小さすぎるなら、脱いじゃえ♪」

「え、きゃあっ!」


 師匠が僕の油断を突いて、僕の着ている水着の紐を解いてしまった。


 当然、完全ではないが水着は脱げてしまい、慌てて手で隠すが一瞬でも胸が露わになってしまった。


「何をするんですか!」


 僕の羞恥と怒りを他所に、師匠は更に水着の下半身も脱がそうとしてきた。


「いい加減にしてください!」

「大丈夫、大丈夫。

 どうせ誰も見ていないから」

「師匠が見てますよね」

「だからいいんじゃない♪」


 やっぱり水着の手配は師匠に任せるんじゃなかった。


 完全に体を拭いてからちゃんと服に着替えるのだが、これも一苦労だった。


 服を着る前に水着は濡れているので脱がなければならないのだが、脱いだら全裸になってしまう。


 それを師匠が見逃すはずがないので、大きめのタオルを体に巻いてから水着を脱ぐのだが、師匠がなんとかそのタオルを剥ぎ取ろうとしてくる。


 必死の攻防の末、完全に着替える事は出来たのだが、その時の師匠の絶望に沈んだ表情は忘れられない。




 それから3日、西へ西へと進み続け、

「あれが…」

「フィリシアの目的地、『ルシフェルス』の街よ」


 やっと、やっと到着した。



目的地に行くだけで予定以上に時間が掛かりました。


これからが本編ですので、お見捨てなければお楽しみください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ