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第一話 転生失敗

「お初にお目にかかります、

 アルヴィース伯爵家長女フェリシアと申します」


 ヘイルダム王国王家主催の夜会でカーテシーを行いつつ他家の貴族に挨拶をすると周りにいる貴族達からから感嘆の声が上がる。


「ほぉ、しっかりした作法ですな」

「まだ十二歳とか、我が息子だと少々年の差があるのが残念です」


 フェリシアは初めて参加した夜会で、周りから賞賛の声を受けていた。


 立ち振る舞いもさることながら、その美貌は近い将来に多くの貴族男性を虜にするだろうとその場にいる多くの者がそう思っていた。




「ふう…」


 父親であるアルヴィース伯爵の紹介で多くの貴族に挨拶をした、いや、させられた”僕”ことフェリシアだったが取り敢えず今日は挨拶まで。


 女性の身である事と、まだまだ子供である事から貴族の話し合いの輪から外れていた。


 そこでやはり慣れぬドレスを身に纏っている事と緊張から気疲れをして、バルコニーで一人夜風に当たり休憩していた。


「まったく、なんの因果で...」


 僕はアルヴィース伯爵令嬢などとなっているが、誰よりも自分が納得していない。


 同時に親にも秘密にしている事がある。


 それは”前世”の記憶がある事だ。これは絶対に墓場まで持って行かないといけない。


 ”前世”では確か体操選手だったのだが、事故により死亡してしまった。


 そこまでが”前世”での記憶だ。


 そしてその次の記憶で、僕は生まれたばかりの赤子を見つめていた。


 よく臨死体験をした人が死んでしまった自分の姿を見下ろしているといった話を聞くが、僕は真逆で、姿こそ違えど何故か、本能的に理解してしまった”次の”自分を見つめていた。


 そしてその記憶の次に覚えているのが、赤ん坊として新しい人生を始めた自分だった。


 両親は父の方には貫禄があり、それなりの地位にいる事は直ぐに解った。


 母は優し気で包容力のありそうな女性だった。


 その二人の子供として大事に養育されてきた。


 それから成長するにつれて、僕は自分が異世界に転生した事を理解した。


 自分に素養が無かったが、魔法が存在している世界だ。


 その転生先が裕福な伯爵家なのは僥倖だが、問題は女の子として、つまり伯爵令嬢として転生してしまったのだ。


(そんなのあるか~~!)


 そう叫びたい気持ちで一杯だった。


 事故死したのは自分の不注意と運の無さで諦める。


 しかし男としての記憶をもったまま女の子に生まれ変わったのは…、はっきり言おう、最悪である。


 性同一性障害や同性愛者なら小躍りして喜ぶところかもしれない(実際どう思うかはしらない)。


 しかしノーマルな異性愛者である僕には、最悪な未来が確約されたに等しい。


 仮にこの転生が神によって為されたのなら、なんとしてもやり直しを要求したい。


 なにしろこのまま貴族令嬢として成長していけば、いずれ”男性と”結婚して子を儲ける事を義務付けられてしまう。


 つまり”男性と”性交しろと言われているのだ。


 そんなのはとても精神が耐えられない。発狂してしまうかもしれない。


 だからこそ、自分の精神を守る為、自分の貞操を守る為にいろいろと考えなければならなかった。


(それでもう十二年も経ったのか。

 何時かは、と思っていたけど、

 まさかこんなに早く社交界デビューさせられるとは思ってなかったな。

 伯爵令嬢となると当然かもしれないけど、やっぱり変な気分...)


 男の身、ではなく、男の精神で女性用のドレスを着せられるのは違和感しかない。


 尤も、今の容姿からするとこのドレス姿を鏡で見た時、似合っていると思ってしまった。


 自慢ではないが僕の今の容姿は女性としてかなり整っていると思う。


 自分でなければ告白して付き合いたいくらいだ。


(・・・、って、僕は何を考えているんだーー!)


 自分の考えがおかしな方に暴走している事を自覚して頭を抱えてしまう。


 その時

「おや、先客がいたのか」

後ろから声を掛けられた。


 驚きながら振り返ると、そこには今の僕と同じくらいか、少し上の年齢と思われる男性が立っていた。


 整った身形と、落ち着いた立ち振る舞いから今日の夜会に参加している貴族の子弟、もしくは若くして家を継いだどこぞの貴族家の当主かもしれない。


 僕は慌てて居住まいを正して軽く頭を下げる。


「私は…」


 名乗ろうとした僕の言葉は手で制された。


「畏まった挨拶はいらないよ。

 次に会う事があるのかさえ分からない人の顔と名前を憶えている自信が無いから」


 そう言いながら僕の横へと歩みを進めた。


 僕の隣に歩みを進めた男性は僕より顔半分ほど背が高く、どうしても見上げるようになってしまう。


 その見上げた顔は端正なだけでなく、どこか女性的な雰囲気を醸し出している。とはいえ、間違いなく男性なので、美少年と表現するのが一番しっくりくるのかもしれない。


 僕が月明りでその名も知れない男性を見つめていると、その視線に気づいたのか男性も僕の顔を見つめかえしてきた。


 ”ドキン”


 何故か心臓が激しく高鳴ってしまった。


 転生してからずっと女性としての行動を強いられ続けている所為か、時折精神が女性側に引っ張られているのではと思われる事がある。


(これもきっとその一つだよね。

 うん、そうに違いない)


 そう強く念じる様に思いながらも、男性から目が離せない。


 そうして見つめ合うようにしながら、無言の時が流れる。


「前言撤回。

 星空を背にしている美しい姿に見惚れてしまった。

 必ずまた会いたい。

 そう思わせた君の名前を教えてくれるかな?」


 不意に男性がそう告げて来た。


「え、え、え…」


 急な事に狼狽してしまった。


 気障な台詞を口にしてるのに、美少年だから様になってる。


 それにこれって僕を口説いてるよね?


 恥ずかしさと何故か嬉しさで頭がショートしそうだった。


 しかし精神が男の僕がその申し出を受ける事は無い。


「それは次にお会いした時にしましょう。

 私も次にお会いする機会があるのかすら分からない方の名前を憶えている自信がありませんから」


 少しだけ意地悪に、そして軽く微笑笑みながら先程の彼の言葉を返してあげる。


 男性は少しだけ驚いた表情の後、苦笑いをしながら

「これは僕の負けかな。

 では次の出会いがある事を神にでも祈って待つことにするよ。

 その時は名前を教えてくれ」

「はい。

 その時は初めての振りをして、出会いと再会を喜びましょう」


 そう言うと彼は僕から離れ、夜会へと戻っていった。


(ちょっと惜しかったかな…、

 って、これじゃ恋する乙女じゃないか!)


 またしても僕は自分の考えに頭を抱える事になってしまった。




 そんな出来事があったのも忘れて3年の月日が流れた。


 その日は父が息せき切って帰宅してきた。


「あなた、どうなさったんですか?」


 母が尋ねると、父は興奮冷めやらぬ様子で爆弾発言を口にした。


「喜べ、フェリシアの婚約が内定したぞ!」


 この父の言葉に母と兄が即座に反応した。


「本当ですか!?」

「めでたい話ですが、相手は?」


 興奮しきっている二人を他所に、僕の心は冷めきったままだった。


 ある程度覚悟はしていた。何時かは分からないが、近い将来、婚約者を決められる時がくると。


 それは貴族家に生まれた者には避けられない宿命だと。


 僕は現在15歳。伯爵令嬢という立場を考えれば寧ろ遅い方だ。


 遅くなったのは、父が相手をかなり厳選していたからだと聞いた覚えがある。


 伯爵という家の爵位との釣り合いを考える必要もあるが、問題はそれだけではなかった。


 それ以上に僕の容姿と立ち振る舞いに好感を持っている貴族の子弟が多かったようだ。


 年齢や爵位で釣り合いのとれる候補者に絞ったが、それでも申し込みは多人数に上り、父は嬉しい悲鳴を上げていたと聞いている。


 前世だったらルッキズムと非難されるかもしれない他家の行いだが、やはり恋愛の初期は見た目でかなり左右されるのは、元の世界で実証実験が行われ証明されているらしいので批判もしにくい。


 そもそもこの世界にルッキズムなんて言葉はない。


 それはさておき、僕自身も婚約者が気になった。


 そして父の口から出た僕の婚約者(候補)は驚愕の人物だった。


「エルヴィス第三王子殿下だ!」

「本当ですか?!」

「それはこれ以上ないお相手です!」

「うそ...」


 これには僕も驚いた。


 婚約者は貴族の子弟だと思っていたがそれを飛び越えて、王族だなんて思いもしなかった。


「殿下は第三王子だが、れっきとした王族で、

 王位継承権もお持ちだ。

 第三なので王位を継ぐ可能性は低いが、その場合は公爵に任じられるだろうから、

 我がアルヴィース伯爵家としては願ってもないお相手だ」


 父は浮かれているが、僕はエルヴィス第三王子の顔すら知らない。


 しかしこれは貴族の婚約ではままある事で不自然な事ではない。


「父上、その婚約は正式決定なのですか?」


 これは絶対に確認しなければならない事だった。


 正式決定なら手遅れだが、仮ならば...。


「いや、まだ内々での打診、といった処だが、

 フェリシア、まさか嫌だとは言わぬな?」


 私の質問に答えた父の目に怒りというか、威圧がこもっている。


 確かに王族との婚約は貴族家にとって名誉な事。


 それを断るなどもっての外だ。


「いえ、余りにも身に余る事なので恐縮してしまったのです」


 そう言って父の言葉を誤魔化したが、僕の意思は既に決まっていた。




 その夜、家人も含め屋敷内の全ての人間が寝静まった頃、僕は行動を起こす。


 この家から出奔するのだ。


 この世界に女性として転生してから直ぐに考えていた事ではあるが、僕の婚約の相手が王族という予想外の相手だったので、もう猶予は殆どない。


 こういった王侯貴族が絡む一大事の場合、一度は断り再度の申し出があってから本決まりとなる慣習が存在する。


 これは日本でも江戸時代頃までは実際にあった慣習なのだが、ヘイルダム王国でも同じような慣習がある事は、僕も貴族家に名を連ねている以上知っていた。


 だから今ならまだ間に合う。僕の知らない内に話が進んでいたらどうにもならなかったが、内々の打診の今なら破談に出来る。


 今以上に話が進んでからだと、下手をすれば叛逆の疑いを掛けられ、最悪改易もありえる。


 今まで育ててくれた両親や、仲良くしてくれた兄にそんな迷惑はかけられない。


 かといって、男性と結婚などしたくない。僕の精神を守る為には他に方法は無かった。


 だから僕はかねてより、この家から出奔する為の準備や下調べをしていた。


 子供の家出じゃないのだから、それは当然の心得である。


 僕は直ぐに服を着替える。勿論、伯爵令嬢として相応しくない活動的な服である。スカートなど論外で一見すると少年に見間違える服装だ。まあ、ちゃんと見れば女性だって分かるけど。


 もっと本格的に男装する事も一時は考えたが、

「この顔と体型じゃあね…」


 どこからどう見ても女性にしか見えない顔立ちな上、体型もしっかりと起伏に満ちている。


 そんな僕が男装しても無駄な足掻きに過ぎない。


 だから無理に男装せずに出奔する僕の向かうべき先も決めてある。それは”神の創りし塔”『セレステ』を中心とする街『ルシフェルス』だ。











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